第10話 昇格祝い

 俺がEランクに昇格したことは何故か翌日には監督に伝わっていた。俺が街壁修復の現場に顔を出すとすぐに監督にお祝いをされてしまった。


 そしてその日の仕事が終わるとすぐに安酒場にお祝いと言われてマルコさんと一緒に連行された。


「あらン。遅かったじゃない。ディーノちゃん♡」


 まさかのトーニャちゃんがいた。そしてセリアさんがその隣にいる。


「こんばんは、ディーノさん。私もお祝いに来ましたよ」

「セリアさん、トーニャちゃんも……ありがとうございます」


 そして監督とマルコさんがセリアさんとトーニャちゃんに自己紹介をしてから俺のEランク昇格祝いが開催された。


「こいつはですねぇ。ハズレハズレ言われながらもですねぇ。めげずにー」


 ガバガバとエールを飲んでいたマルコさんが早速べろんべろんに酔いつぶれた。


 まだ三十分も経っていないわけだが、早すぎやしないだろうか?


「はぁ。あの時の、ええと、たしかフリオさんでしたっけ? いくら良いギフトを授かったとは言え他のギフトを授かった方を差別するなんて酷いですね」


 セリアさんはべろんべろんに酔っぱらったマルコさんを見事になだめすかしながら気持ちよく話を引き出していっている。


「ああン。この酒場は懐かしいわン。あたしも若いころはよくこの酒場でお世話になったのン」

『えへへ。食べ物がいっぱい』


 トーニャちゃんはそう言いながら凄まじいペースでエールのジョッキを空にしていき、 フラウはテーブルに出てくる食べ物を姿が見えないのをいいことにパクパクと食べていく。


 もはやカオスだ。


「しかし、お前は頑張ったな。これでもう街壁修復の仕事からは卒業だな」

「え? 監督?」

「何だ。お前まだやる気だったのか? Eランクになればもっといい仕事をたくさん受けられる。お前はこれからまだまだ成長していけるんだ。お前が来てくれるのはありがたいが、いつまでもここに残ってちゃいけねぇ。いいか? お前はハズレと言われるギフトを持っている奴でも頑張ればこうやって冒険者として前に進めるってことを実際に示して見せたんだ。マルコから聞いたぞ。あいつが殴られたのを見て奮起して頑張ったんだってな」


 いや、決してそんなことは無く、単に酒に酔ってうっぷん晴らしでガチャを引いた結果なわけだが。しかもその後も単にガチャチケットが欲しくてやっていただけなんだが……。


「だから、お前は明日から城壁修復の仕事には来るんじゃねぇ。クビだ。しっかりと結果を出すまで戻ってくることは許さねぇぞ」

「か、監督……」


 俺の顔は多分ものすごく引きつっていたんだと思う。親方が俺の肩をバシバシと叩いてくる。


「そんな顔をするな。いいか。お前は卒業したんだ。卒業生がいつまでも居座っちゃいけねぇ。お前がやるべきことは、後輩たちに道を示すことだ。だから、何が何でも冒険者として成功するんだぞ!」

「あ、えっと……」

「あらン。監督ちゃん、良いコト言うじゃない♡」


 トーニャちゃんがこっちの会話に紛れ込んできた。


「あったり前ですよ。こいつにはしっかりと成功してもらわにゃならんのですから」

「ンフフ。任せておきなさいン。あたしがきっちりと面倒みてあげるわン」

「あら、私もちゃんとお手伝いしますよ。ディーノさんは真面目にしっかりと仕事をしてくれますからね。Cランクくらいまでは上がってもらえると助かります」


 さらにセリアさんが乱入してきた。よく見るとマルコさんは酔いつぶれて眠っている。


 こうしてカオスな飲み会はカオスなまま終了し、俺は自宅へとフラフラになりながら戻ったのだった。


「ねぇ、ディーノ」

「何だー?」

「これからどうするの?」

「えー? もう頑張るしかないだろー」


 かなり酔っぱらっている自覚はあるが、どうにもふわふわした気分だ。そう、何だかどんなことでもできそうな気分になってくる。


「じゃあ、冒険者としてできる限り上を目指すってこと?」

「おう。俺、がんばるぜー」


 そう言うと何がおかしいのかよく分からないが妙に楽しい気分になった俺は笑い声をあげた。そのせいか、俺はフラウの表情がいつもと違ってとても真剣なことにこの時は気付けなかった。


「ホントに? じゃあ頑張ってお金を稼ぐって約束してくれる? そうしたら有償限定になっちゃうかもしれないけど、もっと良いガチャが引けるようにあたしも頑張ってみるよ」

「なにー? 約束する! そんでガチャも引く!」

「本当に?」

「おーう。男に二言はない!」

「じゃあ、契約!」


 フラウがそう言うと俺の前にスクリーンが現れた。細かい文言がたくさん書いてあったが俺は迷わず契約ボタンをタップする。


「ディーノ! あたし、ディーノに良いガチャを引いてもらって、それで神引きして成功してもらえるように頑張るからねっ」

「おーう! 神引きしてやるー」


 良く回らない頭でそう答えた俺はそのままベッドにダイブしたのだった。

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