第9話 昇格試験(後編)
2021/03/30 誤字を修正しました
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「さーて、それじゃあ、フリオちゃん。先にあなたから済ませちゃいましょ」
「おう。手短に頼むぜ」
こいつのこの図々しさは一体どこから来るんだろうか? 昔はここまでの性格では無かった気がするのだが。
「それでフリオちゃん。あなたはFランクでどんな仕事をしてきたのかしらン?」
「俺か? 普通に警備とかだな。暇で退屈な仕事だったぜ」
「そう。じゃあ、戦いたかったのかしらン?」
「ああ。俺は『戦士』のギフト持ちだからな。さっさと外に出て魔物どもをぶっ殺してやるんだよ」
「あら、そう。じゃあ、割り込んできたんだから、覚悟は良いのよねン?」
アントニオさんがそう言うと雰囲気ががらりと変わった。フリオはその雰囲気にのまれたのか身を縮こませる。
そんなフリオにアントニオさんは一気に距離を詰めるとボディに一撃を浴びせた。
「がっ、はっ」
反応すらできずにまともにアントニオさんの一撃をくらったフリオはそのまま地面に倒れて失神する。
「はい。不合格。それじゃ次はディーノちゃんねン」
あまりの事態に俺は呆然としてしまう。
「ほら、あんまり緊張しないの。ディーノちゃんは、そう。毎日欠かさず城壁の修繕工事をしてくれたのねン。ありがとう。こういうのをちゃんとやってくれる子は貴重よん」
アントニオさんは手元の資料を見ながら俺にそう言った。
「ディーノちゃんは戦うなら何?」
「ええと、剣で」
「じゃあ、そこの木剣のなかから使いやすいのを選んでちょうだい。それで準備ができたら打ち込んでらっしゃい」
「わかりました」
俺は壁際に立てかけてあった木剣の一つを手に取るとアントニオさんを前に構える。
『ディーノ! 頑張って!』
フラウも応援してくれている。勝つことは無理だろうが、精一杯やれることをやるしかない!
「お願いします!」
俺はそう言うと【剣術】のスキルに身を任せてアントニオさんに木剣を打ち込んでいく。
「あら? あら? あら? ディーノちゃんやるじゃない。さっきのクソガキがハズレギフトだって言っていたけど、あなた【剣術】のスキルを持っているのね? ちゃんと修練していたなんて偉いわン」
そう言いながらもアントニオさんは軽々と俺の攻撃を受け流していく。
ダメだ。全く攻撃が当たる気がしない。それなら!
俺は【剣術】のスキルに頼るのを止めて自分の力で剣を振るう。当然、鍛えられていない俺の振りは目に見えて悪くなる。
「ちょっと? ディーノちゃん何しているの? はぁ」
そう言ってアントニオさんは大きくため息つくと落胆したような表情を見せ、そして雰囲気が一気に険しいものに変化した。
俺はその瞬間に【体術】のスキルを発動してアントニオさんに左手でボディーブローを叩き込んだ。
「あら? うふ、うふふふふ。やるじゃない」
俺のボディーはたしかにアントニオさんの腹部を捉えたのだが全く効いた様子は見られない。おそらく、アントニオさんの防御を貫けなかったのだろう。
次の瞬間俺はアントニオさんの姿を見失い、気が付けば地面に仰向けに倒れていた。
「いいわ。いいわ。ディーノちゃん。合格よン。ンフフ」
俺はそのままアントニオさんのごつい腕でお姫様抱っこをされる。
「あなた、有望ねン。真面目にお仕事もするみたいだしン。これからあたしの事はトーニャちゃんって呼ぶのよ。いいわねン?」
男に、いやマッチョなオネェにお姫様抱っこをされるという男としてはなんとも屈辱的なシチュエーションだが俺にはそこから逃れる術はない。
「わ、わかりました。と、トーニャさん」
「トーニャちゃん!」
「と、トーニャちゃん……」
「合格よン。ンフフフフ」
こうして俺はそのままギルドの正面受付の前をトーニャちゃんにお姫様抱っこの状態で通り抜けて事務室まで連れて行かれた。
冒険者ランクはEに上がったがそれ以上に大切な何かを失った気がした瞬間だった。
ん? フリオはどうしたって?
知らんがな。誰かが介抱したんじゃないだろうか。
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