2020/12/24 - 13:28

『……どうした、法秤』


「家族サービスのところ申し訳ないですねぇ、堂田部長。……それでいま、どこなんです?」


『……小学生になった息子が漫画にはまっていてな。予約していたおもちゃの刀を取りにトイザらスへ来たところだ』


「あらあらそれはご苦労様です。それはそうと緊急で一件決裁が必要な案件が出てきましてねぇ。例のクラウドファミリアの件で」


『……今日にでも署名しないと駄目なやつか、それ』


「息子さんも大事でしょうけど、部署の可愛い部下も大切ですよね?」


『……ドラフトでもいいから15時までに稟議書を送ってくれ。目を通しておく。そういえば契約は辻村が担当していたはずだが、まとまったのか?』


「たったいまギブアップ宣言を受けて、我らがエースが巻き取りましたよ。今日中になんとかしますって、頼もしい言質も取ってあります」


『久留は今日、アーティストのライブに行くと言っていたはずだが……』


「我妻さんのところですからねぇ。さすがにプライベート優先は厳しいと思いますよ? まぁ、同期のよしみで部長が避雷針になってくれるならライブでもどこでも行っちゃいますけど」


『……そう、か。では、仕事第一で頼む』


「端からそのつもりですよ。私も今日は彼と心中するつもりでおりますので、フォローは任せておいてください」


『……よろしく頼んだ』


「そういうわけで来年のクリスマスイヴは有給予約しておきますからね、彼も、私も」


『職制である以上、法秤は会社だろうが家だろうがどのみち働いてもらうからな』


「うへぇ、勘弁してくださいよぉ……」


『いまこうして電話を掛けてきた張本人が嫌そうな顔をするな』


「顔なんて見えないでしょう」


『ありありと目に浮かぶわ。……っと、そろそろレジだ。切るぞ』


「それじゃあよろしく頼みましたよ。お疲れ様です」


『そっちこそな』




「…………まったく、守れない約束なんて軽々しく口にするなっつーの」


 12/24の箇所に"有給予定"と書かれた手元の手帳とスマートフォンを交互に見やりながら、法秤は次席で小さく嘆息するのだった。

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