第28話 よく光るランプ
「今日の鹿は、まあまあの大きさだったな」
「そうね、あの大きさだと1本では倒せないわね。3本当てても今日は逃げられそうになったし」
狩りもずいぶんと慣れてきた。怪我も良くなり、走れるようになったアイシャ。連携を取りながらの狩りは今日も順調だ。
日頃の鍛錬の成果も出てきた。今も3本の矢が刺さった鹿を、超音波振動を使い真っ二つにしたところだ。
「でもねユヅキさん、胴体を一刀両断はダメよ! ちゃんと首をはねるのよ。毛皮にしたときに価値が下がっちゃうでしょう」
「そ~ですよね~。次はきちんと狩らせていただきます」
「はい、分かればよろしい」
俺の狩りの師匠は厳しいな。
まだまだ半人前だが、俺もここで猟師を続けられる自信がでてきた。
「私はちょっと汗を流してから戻るわ」
「ああ、それじゃ俺は部屋でクロスボウを作ってるよ」
狩りの補助になればと、最近俺はクロスボウを製作中である。
本格的に狩りをしようとアイシャに弓を教わったが、素人の俺ではうまく扱えなかった。矢がなかなか前に飛ばないのだ。
それならと俺専用のクロスボウを作ることにした。ナイフの練習にもなるしな。
だが作っていくと、色々と問題点が見えてくる。弦を引っ掛ける部分や引き金周りの強度が足りないのだ。全部木製で作れるかと思ったが、一部金属部品を使った方がいい箇所がある。
寝室に戻ってきたアイシャに聞いてみる。
「アイシャ、鉄の部品が要るんだが、町の鍛冶屋に頼めるかな?」
「小さな物だったらすぐに作ってくれると思うけど……私の矢じりを作ってもらっている鍛冶屋さんに頼んでみましょうか?」
「ああ、今度町に行ったときにお願いするよ」
水浴びを終えたアイシャの黒髪は、夜露に濡れたようにキラキラ輝いている。モフモフではないが、これもなかなかいいもんだな。
「少し暗くなってきたな。ランプを付けるよ」
魔力を身につけた俺は、魔道具のランプを使えるようになった。スイッチの部分に指を当てて魔力を流すと上部のガラス玉が光りだし、消すときは切スイッチに魔力を流す。
一度魔力を通すと半日ほど光り続ける優れものだ。
「この魔道具って簡単に作れるものなのか?」
「専門の職人さんが居るらしいけど、作り方は分からないわね。それにすごく高いから特別な技術を使ってるんじゃないかしら。中を見ても良く分からないし」
ランプの上部は穴の開いた丸い木の細工で、その中心に小さなガラス玉がある。
ガラスの中は、豆電球のようなフィラメントじゃなく、LEDのような小さな部品が埋め込まれそれが光っている。白い金属で白金か何か特別な金属が完全にガラスで封入されていて、どんな構造かも分からんな。
これが魔法なら4属性全てを発動させて光らせているはずだ。しかし全属性が使えないアイシャにも使えるんだから、何かしらの装置がこの中にあるはずだ。
スイッチはどの指でも反応する。魔法が発動しない指でも無属性の魔力は放出されていて、それに反応するらしい。
色々と興味はあるが、ランプは家に1つしか無く高価な物なので、分解するわけにもいかない。
「このランプもお父さんが使っていたものだけど、落として壊さなければ20年以上使えるって聞いたわよ」
電球のように交換するものだと思っていたが、そんなに長く使えるのか? 工業製品とは全く違う技術のようだな。魔道具すげ~。
「そういえばデンデン貝の構造も全く分からんな。ただの巻貝にしか見えん」
「そうでしょう。魔道具ってそういう物よ」
そうなのかと一応納得したが、一度魔道具の職人さんに会って話を聞かせてほしいものだ。
「それじゃあ、夕食の準備でもしましょうか」
髪を乾かし終わったアイシャが、かまどで肉を焼いてくれる。俺はテーブルで野菜の皮を剥いていく。ナイフの扱いにもだいぶ慣れてきた。
「いただきます」
やはりアイシャのスープは美味しいな~。
俺が持っていた非常食の粉は使い切ってもう無い。お湯に入れるだけでおかゆになったり、粉自体に味が付いていたから、調味料代わりに使えて便利だったんだがな。
後はこちらの世界にあるものだけで作らないといけない。アイシャにレシピを教えてもらい作っているが、前にカリンの家で食べたスープほど不味くはないぞ。
同じ食材のはずだが、カリンには独自の才能があるんだろう。あまり伸ばして欲しくない才能だな。
食後。アイシャは寝室に行き、俺は部屋に残りランプを使わせてもらう。テーブルの上に紙を広げ、クロスボウの金属部品の図を描く。
この世界にも紙と鉛筆のような物はある。安くはないが植物の繊維を原料にした紙と、炭を粘土で焼き固めた黒色棒。それに鹿革を巻き付けて鉛筆代わりにしている。
貴族達は羊皮紙にインクを使っているそうだが、俺達庶民は高価すぎて使えない。
工学系の大学を出ている俺は、この程度の図面を書くのは簡単なのだが寸法が分からない。
前の世界でいう1メートルがこちらではどれほどの長さなのか分からず、寸法の数字を書けないのだ。
昨晩アイシャに長さの単位や1メートルをどのように呼んでいるのか手を広げて聞いてみた
「アイシャ。これくらいの長さ、1メートルってここでは何と言ってるんだ?」
「これ……くらい?」
小首をかしげて、俺と同じ幅に手を広げて答えていたので、距離や長さを数字で言う習慣はないのだろう。
家を建てたり橋を作るような専門職なら長さの単位を表す言葉があるかもしれないが、一般の人は「これくらい」とか「半日歩いた距離」とかで充分通用するんだろうな。
まあ、この図面を見せて説明すれば分かってもらえるか。俺は図面を描き上げてから寝室へと向かった。
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