第13話 初めてのお使い カリン
【隊長さん視点】
門番からの報告では怪しい奴が来ているらしい。どうも人族のようだと言う。
こんな所に人族が来るわけないだろうと思いながらも、副官を連れて取り調べ室に行く。
濃い藍色のローブを身に着けた男がひとり座っていた。男の反対側に座って様子を覗う。
確かに頭の上に耳がない。エルフとも違う。しっぽも背中に鱗も無かったと身体検査した門番から報告を受けている。
これは人族の特徴だが目が赤いわけでも、黒い翼があるわけでもない。ホントに人族か?
だが、人族を怒らせると恐ろしいというからな、俺の役職経験からするとここは丁寧に対応した方が良さそうだ。
「今日はどのようなご用件で、この町に来られたのですかな?」
どうも言葉が通じないようだな。
男が急に鞄に手をかけた。何か武器を隠し持っているのか! 部屋に緊張が走った。
人族は魔術をあまり使えんが、奇妙な魔道具で攻撃してくるという。
ピタッと男の動きが止まり、ゆっくりと机に置いた鞄を開ける。中からデンデン貝を取り出し差し出してきた。
びっくりさせないでくれよ~。俺は気が小さいんだからな。
副官が内容を聞き、こちらに渡してくる。
女の声だな。まだ若い。買い出しに来たので、トマスの雑貨屋に案内してくれと言っている。
トマスはうちに酒や食料品を卸している商人だったな。あそこの娘の知り合いのようだが……。それならこの男をトマスのところに引き取らせれば、こちらも面倒がなくて助かる。
副官に指示し、トマスの所に娘を呼びに行かせるのと、町に入る手続きをさせる。
聴取も終わり、部屋から出る際にも機嫌を損ねないように声を掛ける。
「この町はいい所ですよ。楽しんでいってください」
にっこりと笑い部屋を出る時、ギロリと鋭い目で睨まれてしまった。
ふぅ~、緊張したな。でも何事もなくて良かった。人族相手は怖いわ~。
◇
◇
◇
【カリン視点】
町の兵隊さんが店に来て、門のところまで来てほしいと言ってきた。
急ぎ門の中の小さな部屋に案内されると、男の人がひとり座っている。
兵隊さんにデンデン貝を渡されて聞くようにと言われた。
「え~、アイシャ怪我したの!? 買い出しを頼むって、なんで~」
「この人、人族じゃん。私が案内するの~」
この人族の男は、ユヅキと言うらしい。デンデン貝には強くて優しい人だって録音されていたけど、アイシャ、おかしいよ。
人族だよ、人族。昔の大戦で世界を滅ぼしかけたっていう。
動けないほどの怪我ってのも気になるし、困ってこんな男を買い出しに送り出したんだろうけど……。
まあ、仕方ないから店に入れるけど、アイシャ心配だな~。
おっと、ここからは営業、営業っと。
「いらっしゃいませ~」
ほら、さっさと鞄からアイシャの製品を出しなさいよ。アイシャの毛皮は丁寧な仕上がりで評判いいんだから。
男が持ってきたのは、いつもの毛皮と……これは何の牙だろう?
店の奥の父さんに聞いてみないと。
「父さん、これなんだけど売り物になる?」
「ほぉ~、りっぱな牙じゃないか。大イノシシか?」
牙を手に取り繁々と眺めながら、父さんは言ってきた。
「お客さんかい?」
「アイシャからいつもの入荷なんだけど」
「それなら引き取ってあげなさい。そ~だな、銀貨8枚ってとこだな」
「えっ、そんなに高いの!?」
「これだけ、大きな物は珍しいし、それにこの綺麗な切り口を見てみなさい。これなら加工費が浮くからね」
これはあの男が狩ったんだわ。アイシャは危険を冒して大イノシシを狩ったりしないもの。それで怪我したのかしら? 何が強くて優しい人よ!!
それに牙1本がアイシャの毛皮の何倍もするなんておかしいわよ。こんな男にお金を預けるなんて、アイシャ騙されてるんじゃないの!!
あの男が帰り際に、持ってきたデンデン貝を借りる。
「アイシャ、言われた商品を人族の男に預けたわ。でもこの男をあまり信用しちゃだめよ!」
それと、
「近いうちに、そちらにお見舞いに行くわね」
録音して人族の男に渡しておく。それにしてもアイシャ心配だわ~。
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