第12話 初めてのお使い

 山を降りると町に続く街道に突き当たる。そこには道しるべが立っていたが字が読めない。山から見た景色だと左が町に続く道で、右が森の向こうに続いている道のはずだ。


 左に進んでいくと、のどかな田園地帯に入った。こちらの道で正解だったようだな。しばらく進むと城壁が見えてきた。門の前に10人程の人が並んでいる。検問みたいな事をしているのか、町に入る人を兵士が確認しているようだ。


 フードを目深に被って俺も列の一番後ろに並ぶ。並んでいる人は皆獣人で、犬・猫・熊と多彩である。

 こんな緊張する場面でなければ、愛でてモフモフするんだけどな。


 俺の番が回ってきた。門番さんがこちらを見て何か言っている。よく分からないが顔を見せろと言っているみたいだ。

 このフード姿は怪しすぎたか。ここは営業スマイルでフードを取ってにっこり笑っておこう。


 途端に門番さんの顔色が変わり、後ろの誰かと連絡を取っているようだ。もうひとりの門番さんが槍を持って俺の背後に回る。どうなった?

 分からないまま後ろの門番さんに押されて、門の横の小さな部屋へと連れていかれた。


 いや、俺悪い事してないよね。


 部屋で門番さんに、剣を外すようにと言われてるみたいなので、腰から鞘ごと剣を抜いて手渡す。

 俺の前世の営業経験からすると、ここは下手に逆らわない方が得策である。


 門番さんが肩や腰や足を触ってくる。身体検査か何かをしているのだろう。おしりを触られて「ヒャゥッ」と声を上げてしまった。



 しばらくすると厳つい顔の獣人がふたり入って来た。熊獣人と虎獣人だ。

 熊獣人は俺の前の机を挟んで座ってふんぞり返り、もうひとりの虎獣人はその椅子の後ろで直立している。俺をここに連れて来たふたりの門番さんは、俺の背後で警戒している。厳重なんですね。とほほ。


 目の前で俺を睨んでいる熊の獣人が隊長さんなのか、胸ポケットに階級章らしき物を付けている。後ろは副官か?


 厳つい熊獣人の隊長さんが低い声で何か言ってきた。


「※○△※☆☆※※□□※☆※△△?」


 分からん。

 言葉が通じなくて、なんだか怒っていそうで怖い。


 そうだ、アイシャにもらった巻き貝を見せれば分かってくれると思い鞄に手をかけると、バッと身構える兵隊さん達の姿が目の隅に映る。

 ピタッと一旦動きを止めて、俺はゆっくりと肩から鞄を下ろし兵隊さん達に見えるように机の上にそっと置く。

 ゆっくり鞄を開けて手のひらサイズの巻き貝を取り出し、前に差し出す。


 副官さんが耳に当て聞いた後、隊長さんにも渡して聞いてもらっている。これで事情が分かってもらえるとは思うのだが……。


 副官さんが鞄の中の物を全部取り出し、一つひとつ中身を確認している。お金の入った革袋の中から銀貨2枚を取り出し俺に見せてから自分の手元に置いた。

 そして書類を俺の前に差し出し親指を置けと言っているようだ。言われるまま親指を置くと少し光り書類に印が残った。


 魔法による拇印か?? すっげ~な~。

 副官が取り出したお金は多分通行料か何かだろう。そのためにアイシャが俺にお金を預けていたはずだ。文句を言わずここは大人しくしていた方が賢明だな。


 聴取は終わったのか隊長さんが立ち上り俺の肩に手を置き、鋭い目で睨みながら言葉を掛けてきた。


「※※□□※☆。※□/□※☆」


 俺は犯罪者などではないのだがな。モフモフじゃない熊の獣人さんは怖いわ~。

 その後に付いて扉に向かった副官さんが門番さんに一言二言、言ってから外に出て行った。

 いや~、緊張しちゃったよ~。でも何事もなくて良かった。アイシャ様様だね~。



 取り調べは終わったようだが、解放してもらえないまま椅子に座っていると後ろの扉が開き、さっきの門番さんと獣人の女の子が部屋に入ってきた。

 門番さんが机に置いていた巻き貝を女の子に渡して聞いてもらっている。


「※※、アイシャ□※☆※△△!? ☆※※□□○△※、☆☆※※」

「※※□△☆、※△※☆※/X。*□※☆※※/X」


 獣人の女の子は、こっちを見ながら何か話している。「アイシャ」と聞こえたようだが知り合いなのか?

 門番さんから剣や荷物も返してもらって、獣人の女の子と城門をくぐり町の中に入っていく。


 獣人の女の子はこっちに来るように手招きしているので一緒に並んで歩く。鞄の中からアイシャに書いてもらった街中の地図と店の看板の絵を見せて尋ねた。


「俺はここに行きたいのだが、分かるか?」


 ちらっと紙を見た獣人の女の子は、こっちだと言わんばかりにどんどん先に進んでいく。

 やはり知り合いなのか案内してくれるようだ。でもさっきからこちらをチラチラ見て、怪訝そうな顔をしているぞ。


 この獣人の女の子はトラの獣人だな。髪は金髪のツインテールだが、しっぽが黄色と黒の縞模様だ。アイシャと同じか歳下だろうが、ちょっと気の強そうな子だな。だが見ず知らずの俺を案内してくれるみたいだし悪い人じゃないだろう。モフモフだしな。


 その子の案内で目的の店に無事到着する事ができた。


「ありがと……??」


 あれ、ここでお別れじゃないの? 獣人の女の子は店の中にどんどん入っていってカウンターの向こう側に立つ。


「※/x*x□※☆」


 若草色の目をニコッとさせて笑いかけてくる。これは営業スマイルだ。ここはこの子の店か~~!?


 カウンターの向こうから、ホレホレと鞄の中の物を出せと手で合図してくる。


 鞄の中の毛皮とお金の入った革袋を出そうとして、山道で倒したイノシシの牙も一緒に出てきた。

 フムフムと毛皮と牙を見ていた獣人の女の子は、牙だけ持って店の奥に引っ込んでいった。


 少しして戻ってきた獣人の女の子はこめかみを引きつらせながら、ニコッと営業スマイルをしてくる。

 怖わ~。この子、怖わ~。怒りの感情を表に出しながらのスマイル。看板娘が台無しですよ~、モフモフさん。


 毛皮と牙の前にお金を置いていく。


「※/X*□※☆?」


 両手を開いて手のひらをこちらに向けて見せてくる。これでいいかと言っているようだが、相場も何も分からないのでこの獣人の女の子を信用して頷く。

 これで交渉成立みたいだな。


 次に店の奥から野菜と干し肉と粉の袋を2袋持ってきて、カウンターに置く。

 お金の革袋を見せるように指差すので、開いて見せると中からお金を取り出し品物の前に置く。


「※/X*□※☆?」


 多分アイシャが指定した品物なのだろう。俺が頷くと獣人の女の子はお金を受け取ってカウンターの裏手に仕舞った。

 なんとか目的の物を手に入れることができたようだ。『初めてのおつかい』の気分だぜ。


 俺が品物を鞄に詰め込んで帰ろうとした時。


「ユヅキ」


 と獣人の女の子が声を掛けてきた。もう営業スマイルじゃない。


「/X※☆、カリン」


 と自分を指差した。

 カリンというのか。やはりアイシャの友達のようだな。


 カリンは軽く握った手を自分の耳元に持っていき、「ちょうだい」というように手のひらを向けてくる。

 巻き貝の録音機がいるらしい。鞄から取り出し渡す。


「アイシャ、□※☆※/X*□※※☆※△△。☆□□○△※☆☆※※」

「☆※/X*□、△?☆※※□□△☆」


 何やら録音をしてから、巻き貝を手渡してきた。

 アイシャへの伝言なのだろう。貝を受け取りカリンの店を後にする。

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