第14話 初めてのお使い アイシャ

 朝食の後。ユヅキさんが不思議な踊りを踊っていた。

 今度はすぐに分かった。


「食料庫のお肉がもう無いのね」


 そ~だよね。最近狩りに行けてないし、どうしようかな~?

 小麦や野菜ももう無い。そろそろカリンのお店に毛皮も卸さないといけないしな~。

 ユヅキさんなら大丈夫だと思う、私の代わりに今から町に行ってもらおう。抱き上げてもらって隣の部屋の毛皮とデンデン貝を持ってきた。


「ユヅキさん、これを持って町に行ってもらいたいの」

「これ・ 持って・ 町・ 買い出し・ 行って」


 よく分かってないみたいね。


 町へ行く道を見てもらえば分かってくれるかな。背負ってもらって外に出る。ユヅキさんの背中、久しぶり。この広い背中なんだか落ち着くな~。


 町への道を指差して、町へ行くことを伝えると分かってくれたようだわ。

 ベッドに戻ると、言葉が話せないからどうしようと言っているみたい。


「私は、アイシャ。この人を店に案内してください」


 デンデン貝に声を入れる。

 それを聞いたユヅキさんはすごく驚いていた。デンデン貝初めて見るのかな。少し笑えてくる。

 でも町までの道は街道のように安全じゃない。ユヅキさんは強いから大丈夫と思うけど、「無事町まで着いてね」と手をぎゅっと握った。




 ユヅキさんを見送った後、少し眠った。最近すぐ眠くなる。怪我のせいかな。

 起きた時には、お昼をかなり過ぎていた。まだお腹は減っていないけど、お水だけ飲んでおこう。


 ベッド横の机に置いていた水を一口飲んで、何となく部屋の中を見渡す。

 家の中にひとりっきりだとなんだか寂しい……。前はこんなことなかったと思うんだけど。


 ユヅキさん、無事町に着けたかな~。


「ハ~~」


 大きなため息をついた。


「んっ!? んんっ!?」


 お口が少し臭う。あれっ! いつから歯を磨いてなかったっけ!?

 体からもなんだか臭いがするような……。水浴びしたの何日前だっけ!?

 今日ユヅキさんに背負われた時、首に抱きついてたし顔近かったよね。

 臭いって思われちゃったかな。


 キャー、どうしよう~。


 私はユヅキさんに作ってもらった二本杖を急ぎ手に取る。

 この二本杖、慣れれば歩けるけど、ゆっくりじゃないとバランスを崩して倒れちゃいそう。

 両手も使えないから不便だけど、片手で体を支えている間、もう一方の手で歯磨きはできるよね。


「がんばれ、アイシャ! このまま臭いのはイヤでしょ!」


 自分に気合を入れる。


 二本杖を使って入り口の横の流し台まで行き、正面の棚にある木の歯ブラシと木のコップを手に取る。

 歯ブラシに塩を付けて歯をしっかりと磨いた後、横の水瓶からコップに水を入れて口をすすぐ。手を口に当てて「ハー」と息を吐く。うん、うん、これなら大丈夫だわ。


 水浴びもしたいけど、この怪我じゃ無理よね。タオルを水に濡らして体を拭くぐらいかな。

 ベッドだと濡れちゃうし、洞窟奥の洗い場までは遠くていけないな~。この部屋なら少しくらい床が濡れても大丈夫よね。


 テーブルの椅子を少しずつずらして水瓶の近くまで移動させる。それほど重い椅子じゃないけど、動かすのにも一苦労するわね。

 椅子にしっかり腰かけると足の傷が当たって痛い。半分だけ座って、タオルを濡らし服の中に手を入れて体を拭いていく。


 でもこれだと服も濡れちゃうし、なんだか面倒くさいな~。ポンチョの裾を首までたくし上げて、首の後ろに巻き付けてみる。


「これなら楽に拭けるわ」


 ほとんど裸同然だけど、しっかり拭きたいし服が濡れるのも気にしなくていい。部屋には誰もいないんだから、この格好でも大丈夫よね。

 下着もずらして手の届くところを拭き終わった頃、扉の外からガタゴトと音がする。


 うわっ、ユヅキさんが帰ってきちゃった!

 大慌てで服を下げる。大丈夫。ちゃんと服は着れているわ。


 ユヅキさんが手にいっぱいの荷物を持ってドアを開ける。

 平常心よ、平常心で迎えるのよ! 笑顔を作ったつもりだったけど硬かったかもしれない。


 ユヅキさんは床が濡れているのを少し気にしてたみたいだけど、寝室に行くかと指差してくれたので両手を広げてウンと笑った。



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【あとがき】

 お読みいただき、ありがとうございます。

 今回は、第11話と、次回第15話のアイシャ視点となっています。


 次回もよろしくお願いいたします。

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