第四十六章『楽園の存亡』
基本競技は自由参加であるため、日陰で高見の見物といきたいが、今回は面倒な事案を抱えていて余裕がない。情けないことにプレッシャーに滅法弱い。
順番はこうだ。
一番 美海星
二番 硲由希
三番 但馬基博
四番 柳楓
五番 堺美咲
六番 来須零士
もう変更できないらしい。
「なんで俺が最後なんですか?」
「頼んだよ……」
部長に不平を言っても真面目に返され、何を言うべきか分からなくなった。
「二人ともどうかしましたか?」
柳が天然っぽい口調で曇りない眼差しを向ける。
「いや、何でもないよ。兎に角頑張らないと!根性だよ、根性!」
単なる誤魔化しではないように聞こえる。最早ここで幾ら考えたところで始まらない。
だから精神の沈みで肉体に負荷をかけないようにしているのかもしれない。
「楽しみだね~」
「そうですか……?」
「精一杯やります!」
無知な彼らを
「どうしたんですか?」
死角から声をかけられ
「おや、いつになく可愛い反応ですね」
てっきりこの手の嫌がらせは小北だと思ったが。
「驚かすな」
そういえば神楽の方が一枚上手だったか。
「いつもの澄まし顔はどうしたんですか?元気出しましょうよ」
「雑だな。というか、賛成しておいて何でお前が出ないんだよ」
「あれは単なる消去法の結果です。また、去年みたいに天手古舞になるのは気が引けまして」
清々しいまでに自分勝手な奴だ。俺も人の事を言えた義理ではないが。
意地悪く子供のように笑う神楽を見ていたら、上っ面の不要な考えが砕けて頭が軽くなった気がした。
そうだ、こうすればいいのだと。これでいいのだと。
最善の一手を考え付いた訳でもないのに、俺は口を
多分ストレスで頭がおかしくなったのだと思う。
**********
どうも二人の様子がおかしい。
そんな漠然とした理由で懐疑の念を抱くのはそれこそおかしいと思われるかもしれないけれど。
特に彼は怪しい。文化祭の時から、若しくはもっと前から。
申し訳ない気持ちはあるが、あれだけ変な動きをしているのが眼に入るとどうしても疑り深くなってしまう。
そして最も関係の深そうなものが浮かび上がる。
「生徒会かぁ……」
そろそろ最初の走者が走り出そうという情況で、その中で二人だけ緊迫した空気に包まれていた。
今日の美海先輩はかなりテンションが高く、制御が難しそうだが、力が有り余っているのなら好都合だ。初めにリードを広げれば、その分余裕ができる。
「よーし‼」
気合十分という感じだ。今あんなに元気なのあの人ぐらいだよ……
「位置について、よーい」
何故スタートがクラウチングなのかは謎だが、まあいい。
「ドン」
どこかやる気のない合図で開始。フライングは無し。
当然のようにトップに躍り出る美海先輩。その化け物じみた運動能力は普通の高校生相手でも十分通用するらしい。てっきり比較対象である俺らが貧弱過ぎるのかと不安だったが、案の定あの人が無茶苦茶なだけだった。
「よし、任せたよー!」
「う、うん……!」
中々調子が戻らないようで、歯切れの悪い返事。
しかし、美海先輩同様、元があれだから不調でも運動部と渡り合えるようだ。
少し詰められはしたが、依然としてトップは変わらない。
そして第三走者、第四走者では更に距離が縮まり、混戦となってきた。
バトンが渡る直前、二人に抜かされてしまった。
「すいません!」
「大丈夫、取り返せるから」
しかし、何ら心配はない。運動神経も並み以上だが、それよりも……
「絶対に、負けない……!」
この隠す気も無く
堺の活躍?で再び我がチームは一位の座へと舞い戻る。
「負けたら、許さない……!」
文だけ見れば平常より断然マシだが重く鋭い。不機嫌だけで片付けられないこの形相。
窮鼠、脱兎の如く、後ろの他チーム走者からではなく、その
あともう少しだという所で、矢張りハプニングは起きた。
最下位争いをする集団を割って現れたそれは馬か
その正体を知って俺は唖然とした。
「会長……⁉」
痺れを切らして自ら手を下しに来たというのか。
そんなことを考えている場合ではない。
無心で走る。得体の知れぬ何かに押されるように。
暫しの並走の後、勝負は決まった。
「いや~まさか、こんなにあっさり勝てちゃうなんて驚きです」
「本当にそうですよ」
「あ~気持ちよかった!またやりたいなぁ」
結果に満足して勝利の余韻に浸る四人。
いや、一人は厳密には納得していないか。
そして、落ち込む二人。
「まさか、会長が出てくるなんて……誤算だった」
「どうしましょう、か……」
そう訊ねても部長はずっと空を仰いで目を向けようとはしない。
本来部長が気に病むことではないのだが、何故あの人はこっちにも話を通したのだろうか。
その答えを知る機会はすぐに訪れた。
********
彼がどうしようかと問うた時、私ははっとした。
何故なら私は何故会長の参加を想定出来なかったのか、私が死ぬ気で走れば、ギリギリ勝てていたのではないか、と後悔ばかりを脳内で膨張させていたから。
あの話を聞かされた時、私の中で忌まわしい考えが頭を
「自分には関係ない」
その言葉が浮き出た瞬間、絶望した。あの時から成長していないばかりか、堕落すらしているのかと。
結局彼らのことなど何とも思っていないと結論付けるようなものだった。
そうか、こんなどうしようもない不良品だから私は捨てられたのだ。
根拠などない。でもどうしてか納得できてしまって、それが悲しくて惨めで。
最早どうすることも出来ない。
そうして祈って神にすらも
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