第四十一章『死ぬ夏と甦る祭』
ああ、夏休みが終わってしまう。もしかすると、無限に続いたり、一万五千五百三十二回ぐらいループするのではと、淡い期待を抱いてみたが、現実とは矢張りそれ以上にならないわけで。
漸く全て写し——解き終わった宿題の山を見下ろして、その一か月を実感し、懐かしむのである。
自分でしておいてなんだが、現実逃避も甚だしく、見苦しい。
しかし……今までのそれの中で最も有意義だったのではないだろうか。
別にあいつらと居たからって訳じゃない。いや、それも無きにしも非ずなんだが。
山や海で自然に触れて、風光明媚を体感し、部長を中心とする謎のグループトークに巻き込まれ、おまけに件の会長と対面して。
覚悟して学校への身支度を済ませる。
この時の俺は少し浮かれていたのかもしれない。
ある重要事項を無意識に奥底に押し込んで。
長期休暇が過ぎ去って、嘆いている暇もなく九月が迫る。
「
「頑張ります!」
「何をするか分かってるのか?」
「皆目見当もつきません!」
学校が始まってこっちは萎えているというのに、何故こいつはこうも元気なんだ。
文化祭と耳にして張り切りだす柳を辛うじて開いた目から見る。
「皆に話があるの。全員集合!」
いや、その昭和のお笑い番組みたいな言い方じゃ、シリアスな場面には対応できませんよ……
「今年の文化祭なんだけど……」
「どうかしました?」
「何か問題発生ですか⁉」
おい、ワクワクすんな。
しかし、この時点で真っ先に思いつく悪い事態となると、直前で部の解散なのだが、幾らあんな生徒会長でもそんな横暴をしようとは思わない……と思う。
さて……どう来るか。
「演劇部と協力して、舞台をやります!」
「え?」
「はい?」
一部頷いている人間もいる。堺、神楽、小田桐先輩、美海先輩。
他の部員たちは疑問符を頭に浮かべるだけだ。
「何故、僕たちが手伝いをすることに?」
「いや~展示だけじゃ物足りないと思って……」
「で、本当の理由は?」
小田桐先輩が通常曇っている目を光らせて問う。
「それの出来、貢献度を反映して審査するって……」
審査。つまりこの部は天秤にかけられているわけだ。
良くも悪くも利のある方か。
しかし、審査基準等を詳しく聞かされていないのに、俺らはどう努めるべきなのか。
深刻な雰囲気。この部に一番似合わない情動だ。
「とにかく!」
皆の注意を引き付けるように、部長は手を叩く。
「頑張ろう‼」
「おー!」
こんな無責任な励ましの常套句だけでやり通せる気はしないが、当に選択肢は無い。
明日から作業開始である。
各々に役割が与えられた。
脚本 堺美咲
小道具 白河伊鶴
舞台美術 神楽香音
音響 小田桐隆一郎
照明 小北朔夜 石見真理
衣装・メイク 美海星
演出 硲由希
制作 来須零士 柳楓
これが振り分けである。
あ、補足すると役者は演劇部がやるからその点では問題ない。
他にも有志で集まって参加している団体があるらしいから、俺らはただ単に人材補強的なあれでしかない。
この形は数年前から取られていたらしいのだが、今年は人数が足りなかったらしい。
見たところ、役割は
俺が制作に回されたのは大方、残り物だったからだろう。
「先輩~集まり行きますよ!」
おっと、ボーっとしていた。そういえば、こいつも同じ制作担当だったな。
「よし、行くか……」
少しの不安と気怠さを
全員が揃ったのを確認すると、担当責任者的な人が前に出て、会議の指揮を執る。
仕事として大きいのは矢張り宣伝だろう。
後は会計、受付、その他諸々の雑用と、細々した業務ばかりだ。
そんなことは会議をしなくても明確なのだが、こうして確認しないと落ち着かないのだろう。
早速作業を開始するか。
「先輩、これってどうすればいいんですか?」
「ああ、そこはだな……」
全く女子高生というものはどうしてスマホは使えて、PCが使えないんだろうか。
あと近い。まあ離れられたら離れられたで、傷つくのが男の性分なんだがな。
「了解です。有難うございます!」
「ああ、分かったから。少し静かにしろ」
皆黙々とやっている中で、騒ぐと変なのに目を付けられるだろうが。
あーでも、今更幾ら変なのが登場したところで、その上位を知っているから、瞬きすらしないだろうがな。
基本的動作は変わらず、同じような作業を繰り返し行った。
活動は宵の頃まで続いた。
*********
「ふむふむ……」
私は先ず台本(仮)を読むことにした。
ジャンルとしてはオーソドックスな青春恋愛。
主人公の優衣が寡黙な青年、樹と出会う所から物語は始まる。
何回か関わっていくうちに、変な信頼関係が芽生えて、友人と認めてもらう。
過程としては、感情の行き違いから生まれた優衣の友人関係内の不仲解消、ストーカーの撃退、冤罪の証明、といやにリアルな出来事が多かった印象だ。
頼もしい一面を見せる樹であったが、その心の奥に闇が潜んでいたことを優衣は知る。
通り魔に目の前で親友を殺された過去を持つ彼は、それを切っ掛けに人と付き合うのを拒むようになった。
それを知った優衣は、そんな彼を支えようと奮闘する。
粗筋としてはこんな感じだろうか。
私の説明が下手で今一伝わらないかもしれないが、高校生が作ったにしてはかなり出来がいい。
学校のシーンは制服、私服の所は演劇部の衣装か、適当な古着でいいだろう。
メイクは……まあ女子高生の方に普通にすればいいかな。
今回の話だと、あまり仕事が無さそうだ。といっても、時間はかかるだろうけど。
勝手に自分の中で意気込みながら、被服室へ向かった。
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