第二十七章『春の爆弾』

 なんて春は心地よいのだろう。

 当たる日差しはほのかに温かく、眠くなるのも無理はない……

 背面から眠気が吹き飛ぶほどの一撃。


「ぐふぅ……!」


 反応して漏れ出る声を最小限に抑えた。

 場所は教室、時限は三へ。


「寝てんじゃないわよ……!全く、呆れたわ……」


 そうだ、思い出した。

 この容赦なく撃ち込まれる打撃を、俺は前にも一度味わっている。

 若干眠気で記憶が飛んでいる。

 否、さっきの強力な攻撃のせいだ。間違いない。

 そんな俺の心情を知ってか、知らずか、二回目が突き刺さる。


「無視すんじゃないわよ……!」


 いやいや、無視するだろ、授業中だし。

それに、完璧美少女(以下略)のちょっかいならともかく、この鬼のような形相をした破壊の権化の二回攻撃の後に応答する義理はない。

 と言いながらもその後、三発目が来る前に、とりあえず謝っておいた。




 午前中の授業は終わり、時は昼休みへと突入した。

 俺は席を立って、数席ほど前の神楽に問うことにした。


「おや、来須さん。お昼でしたら、私は適当にクラスの女子と食べますので、ご心配なく」

「そんなことより、あれの経緯を知りたいんだが……?」

「この情報は高いですよ?」

「いや、なんで金取るんだよ。いつからお前情報売買人になったんだよ」

「冗談です。それに、こういうポジションは小北君の方が似合いそうですからね~」


「で、どうなんだ?」

「どうもこうも、堺さん、告白されたらしいんですよ……」

「告白って、何かカミングアウトでもされたのか?」

「分かり易く恍けないでください……」

「う~む。あんな奴がいいなんて、物好きもいたもんだな。世界は広いってことか……」

「感慨深げに感嘆しないでくださいよ……」


「それで、何で、不機嫌に繋がるんだよ?」

「さあ……明確な理由は解り兼ねますが、『あんなゴミが私に告白するとか、吐き気がするわ』とか、『この時間と、振るのに使う酸素が勿体無い』じゃないでしょうか」

「そんな文言がすぐ出る時点で、お前性格悪いよな……」

「いやいや、私は丁重にお断りしましたよ?ちゃんとマニュアルに従って」

「事務作業かよ……というか、『した』って……」

「はい、去年は十人いかない程度でしょうか?」

「なん、だと……」


「何ですか、そのこの世の終わり、又は天変地異の事後みたいな顔は……」

「私だってそれなりにモテるんです。どうです、感服しましたか?」


 

 信じ難い事実を前にしたからなのか、あっさり地雷を踏みに行く。


「もしかして、男子高校生って皆ロリコンなのか?」


 あ、終わった……。

 先程の堺とは比べ物にもならない、龍の如き覇気。

 こうなってはなす術もない。


「聞き間違いですかね~。きっとそうですよね~。来須さん……?」

「ちょっと昼食いに行ってくる!」


 たまらずその領域から瞬時に脱出した。


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