第二十四章『新入部員』

 二年生という待遇に戸惑いつつも慣れつつあった頃、遂に今年の新入部員が決定したことが通達された。

 時代遅れな顔文字とともに……


「こんにちはー」

「失礼します」


 何故か日常となっている、小北と同時に部室に入る行為。

 改めて考えると少し気持ちが悪い。


「あ、こんにちは~」

「五分遅れよ」


 その挨拶に返される声は堺と神楽のものだった。


「お、きたきた!」

「……よう」

「これで皆揃ったかな?」


 久しぶりに集った面々を見回し、飽き飽きした景色を眺める。

 一体何が始まるというのか。


「じゃあ早速自己紹介してもらお~!」


 美海先輩が陽気に拳を突き上げる。

 俺たちの前に新入部員らしき者たちが現れる。


「石見真理、写真専門……」

「但馬基博、よろしくお願いしまっす!」

「柳楓です!お願いしま……」


 そこで漸く気付いた。


「お前、メロンパンの……」

「あ、あの時の先輩ですね?」

 

 記憶力には自信が無いが、何というか印象が強烈でしくも覚えていた。

 というか、今とても面倒な状況になる予感がする。

 突然とはいえ、軽率すぎた……


「おや?そこの二人は知り合いのようだね」


 部長……そこは流してください。

 切実な祈りは届かなかった。


「へぇーこれは怪しいねぇ~」

「面白そうですね。是非詳しく聞かせて頂きたいものです」

「驚きました……」

「な……」

「この予感今こそ来たり青春か」

「……比翼連理、相思相愛?」

「ははは……」

「……?」


 当の柳はきょとんととぼけた顔をして、何の役にも立ちそうにない。

 俺はまさに袋の鼠状態になって問い詰められる破目になった。


         *


 私の名前は石見真理。

 小さい頃からほとんど友達と呼べる存在も居なかった私は、ずっと写真を趣味として行ってきた。

 別に何かの役に立つ訳でもない。

 誰かと思い出を共有するわけでもない。

 写真自体は高画質、繊細な色合い、幻想的な風景。

 なのに。

 私にはそれが悲しいモノクロに見える。

 それは恐らく自分の人生が何の価値もない灰色の人生だから。

 森羅万象、どんな物を撮っても満たされない。

 そんな心の穴が知らず知らずのうちに開いていた。

 アルバムにはきっと誰も写っていない。

これまでも、そしてこれからも。

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