第二十章『行く河の流れは絶えずして』

 時は流れに流れて弥生へ。

 学校から自宅へ戻る途次みちすがら、同学年の部員たちと言葉を交わす。


「最近何もなくて暇ですねー」

「まあ勉強にも時間を費やさなければならないですし……」

「ああ……もう二年生とはな」

「一年も早いわね」


 まもなく高校一年生の過程も終焉を迎え、次の学年へと歩みを進めていく。

 それに伴い忙しくなっていくのも大方予想がついている。


「これ以上難しくなるのは勘弁してほしいですね……」

「そうだな。それだけが気がかりだ」

「あんたはもうちょっと他の事も気にした方がいいと思うけどね」

「ん?何のことだ?」

「何でもないわよ」

「来栖君も変わりませんね。主に喧嘩腰なところが」

「お前もしょっちゅう喧嘩売ってるけどな……」

「まあどっちにしても喧嘩両成敗で処刑だけどね」


 月日の進行スピードに置いてきぼりにされるように、昔を懐かしむ。

 青春の三分の一が過ぎ去ってしまい、嘆きたくなるが永遠にこの時をループしていても退屈なんだろうなと勝手に想像する。


「では僕はここで」


 小北が電車から降りると発車ベルが鳴り響き、再び発進する。

 憎たらしくも存在感のある奴が消え、空いた席はどこか寂し気だ。

 座席に座って、またもや揺られていく。

 この時間帯にあまり人はいない。揃いも揃って画面を睨むだけで、背景でしかない。

 

 神楽と白河も下車し、堺と俺が取り残された。


「……」


「……」


 特に話題もなく、時間と景色だけが慌ただしく、く過ぎ去っていく。

 この一年、色んな出来事が起きた筈なのに、こんなにもあっという間。

 きっと伝えることが沢山あるだろうに、何も出てきやしない。

 文化祭、部活遠征という名の旅行、体育祭、クリスマス、初詣。

 全てが遥か昔のことのように思えるのだ。

 同じ駅に降り立ち、態々別の道を辿って帰っていく。やはり俺と彼女の経路は全くの別方向。目的地ディスティニーはほぼ同じなのに。

 見送ることも別れの挨拶を交わすことも義務ではなく、彼女との間にそんな堅い結束もない。

 そろそろ歩き出さないと、暗くなってしまう。

 曖昧な志を引き締めるように地面を踏み締めた。


    ***********    


「うーん……ここの展開はどうしよう……」

 私にとっての小説執筆は部活動と趣味を兼ねた物でしかないのだと近々思い知った。

 ホラーという物をまだよく解っていないのかもしれない。

 ホラーを書き始めた経緯は至って単純だった。


『えー!れいじ、お化けが怖いの?』

『だから、違うって』

『強がらなくてもいいのに』

『うるさいなぁ……!平気だって言ってるだろ!』

『じゃあ……これ読んでみて』

『ん?ノートか?』

『私が書いたの。読んでみて』

『いきなり、なんだ?』

『どう?』

『これ……本当にお前が?』

『自信作なの』

『まあ、怖くなんて……ないけどな』

『ふふふ』

『ごめん、怖いです』

『うん、素直が一番だね』


 最初は脅かすために面白がって、製作していたのだが、徐々にそれが自分を構成する要素となった。

 憑りつかれたように夢中になった時期もあったし、ジャンルを変更しようかとも思った。

 この部活に入ったのは興味が湧いたというよりも、勧められたから入部したに過ぎない。


「これからどうしようか、なんてね」


 部活の事、小説の事、将来の事、そして彼の事。

 考えれば考える程分からなくなる。悩めば悩む程、堕ちていく。


「私頑張るよ。お母さん」


 追憶の中であの人はずっと生き続けている。

 そう言い聞かせなければ、哀しみで胸が張り裂けそうだ。

 明日へと続く物語を今日も綴っていかなければならない。仮令たとえ明日世界が終わるとしても。


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