第十五章『百八回目』
青年たちが帰路についたのと同じ時、部室には四人の女子高生たちが集まって団欒していた。
「それで部長、何を企んでいるんですか?」
「いやー女子会もしておいた方がそれっぽいかなって」
「具体的にはどんな内容を?」
「それは勿論、『恋バナ』というやつだよ」
「な……!」
「ふむ、それは興味深いです……」
「失礼ながら質問よろしいですか?」
「なに?」
「そもそも部長は恋愛経験あるんですか?」
「それは……ないです」
「まあ私たちも人の事を言える
「でも神楽は男子に人気あるでしょ?」
「それはそうなんですが……特に興味ないんですよね」
「無理にするものでもないしね」
「我は崇高なる存在故、俗人に構っている暇など無い」
始まる前から終わっていたその話題。どうしようもなく沈黙が続いていく。
「私たちも大人しく帰りますか……」
余興は曖昧に中途半端にピリオドを打った。
「神楽、ちょっといい?」
「何でしょう?」
「近頃来栖の奴と頻繁に関わっているようだけど、何かあったの?」
「そう見えます?ただの偶然ですよ」
「でも……」
「素直に問い詰めればいいじゃないですか。回りくどい言い方しないで」
「問い詰めるって……」
「目撃していたのでしょう、一部始終を。大体予想はついていましたが……やはり図星のようですね」
「たまたま通りかかって……それで……」
「多分体育祭の時ですよね」
「ごめんなさい……」
「嫌だなー謝らないでくださいよ」
「図らずもあなたの秘密を知ってしまったわけだし」
「いいんですよ。その代わり、一つだけ約束してもらいたいことが……」
彼女が耳元で囁く。
「バラしたら許さないですよ♪」
これが神楽の本性……
覚悟はしていたつもりだったが、目の当たりにすると戦慄が全身に走る。
二つのギャップから、印象がどんどん歪んでいく。
猫を被るどころのものではない。化けの皮を剝いだ九尾の狐のような、
唖然と立ち尽くし、去っていくそれをポカーンと眺めていた。
また一つ悩みの種が芽生えてしまった。
*****
クリスマスも無事に過ぎて、もう少しで日捲りカレンダーが無くなりそうだ。
炬燵でぬくぬくダラダラと怠惰な生活をしていた。
寒くて勉強ができないと適当に理由をつけて、普段はあまりやらないゲーム機で何時間もゲームをしていた。
これぞ長期休みの醍醐味。二度寝、家籠り最高である。
大掃除も終わったことだし、年末の下らない特番でも垂れ流しておこうかと休みを満喫していると、携帯電話が振動する。
ファントムバイブレーションシンドロームではないことを確認しつつ、電話に出る。
まあやり取りする友人がいないんだけどな……
「もしもし」
「もしもし、来栖君?」
「何の用ですか?現在とても忙しいんですが……」
「明日部員全員で初詣に行く予定なので!時間厳守!ちなみに東川神社に九時集合でーす」
「え?だから忙しいって……」
ガチャ
切れてしまった……全然人の話聞かないなー部長……
渾身の嘘も流されて水の泡になったところで、仕方なく身支度を整える。
明日から来年か……
年が変わる瞬間にジャンプでもしてみるかな……
あまりにも暇を持て余し、訳の分からない事を考えてしまった。
我ながらちっとも面白くないジョークだな……
除夜の鐘で煩悩を消しておいた方がいいかな……
それまで起きている自信は更々ないが。
神社に行くにしても案外時間がかかる。
電車を乗り継いで一時間ちょっとというところか。
生活リズムが乱れていることも考慮し、今夜は早めに床に就くことにした。
謹賀新年を送る相手もいない訳だが、まあそんなことはどうでもいい。
きっと来年も大変で慌ただしい年になるに違いない。
そう確信しているにも関わらず、祈りを捧げる自分がいた。
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