第十三章『聖夜の前の修羅場』

 時は現在十二月十九日。クリスマスを六日後に控え、学生たちが浮足立つ季節。

 予定がないと蔑まれ、愚民のレッテルを貼られること間違いなし。


「聖なる夜 白に包まれ 破滅せよ」

「何やら怨念が籠っている気がするが……」

 更に憂愁が増すこの季節。神聖な灯りが閃く度、心に陰が掛かっていく。


「本当に寒いし、最悪だわ……」

 

 寒いのは勿論のこと、この時期になるとなんともまあ色々と目障りな輩が視界に入るのだ。

 見せつけられている気がして、不愉快だ。


「ところで皆クリスマス予定ある?」

 部室内が冬の夜空のように沈黙する。


「よくそんな聞きにくい事直球で質問できますね……」

「友達に『空気読めないね』って指摘されたから、読むことを諦めたの」

「そこはもう少し頑張ってくださいよ……」

 

 不機嫌そうに顔を顰めていた堺ももはや手遅れだと考えたのか、声が弱弱しくなっていく。


「しょうがないな、硲だからな」

「尋ねただけなのに心外だよ。パーティーでも催そうかと計画してるんだけど……忘年会も兼てね」

 また打ち上げの時みたいになると困るな……

「部長、念のためにお尋ねしますが……場所は決まってます?」

「いいえ、それはまだ」

 

 ふぅ……良かった……


「神楽、どこか最適な場所はあるか?」

「え?なぜ私なんですか?」

「お前が一番センスは良さそうだからな」

「今度ばかりは僕もその意見に賛成です」

 

 堺と白河と部長が何やら不満そうな顔で睨めているが……放っておこう。

 そこに小田桐先輩が補足する。


「硲には前科があるし、白河は家に籠っているだろうし、堺は経験が無さそうだからな」

「前科って……私を犯罪者みたいに」

「我は毎日の散歩を日課にしている!」

「経験って……無くて悪かったわね!」

 

 三人が猛反発して、凄く恐ろしい形相だが、小田桐先輩はあっけらかんとしている。

 自覚が無いって質が悪いな。藪から蛇というか、火に油を注いだというか……


「さてあちらは一先ず置いておいて、どうします?」

「ファミレスじゃダメか?」

「妥当な所ではありますが……もっと水入らずで楽しめる所じゃないと」

「部室ならどうですか?」

「うーん、学校側が認めてくれるでしょうか?」

「冬期休暇中も部活は出来るんじゃないのか?」

「微妙ですね……七時ぐらいまでは居れると思いますが」

「文化部がそんな時間まで残っていれば確実に怪しまれるかと……」

「でも、やれるだけやってみましょう!」

「そうだな」

「その方向で」

 

 背後を見ると、まだ険悪な雰囲気が漂っており、さっきより悪化しているように思える。

「なんか凄絶な光景ですね……」

「そのうち収まるだろ」

「ですね」

 俺たちがつぶさに忘年会の内容を話し合っている間、ずっと三人は不貞腐ふてくされているようだった。

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