第十一章『Second Festival』

 やっと積もり溜まった仕事を部員全員が終えた頃、それと同時に襲来する体育祭。

 その息吹がしみじみと感じられる程に。

 小鳥たちが大音量の音波に圧倒され、虚空を飛び回る。


「遂に来てしまったわね……」

「まあ、参加するだけなんだからいいじゃないですか」

「それもそうですね……」


 体操着に着替えた一行は上からジャージを羽織り、震えている。


「秋にしては寒すぎない?」

「だな……」

「張り切っていこうー!」

「部長は妙に元気ね……」

「子供は風の子っていうだろ?」

「君たちは私より年下だと思うんだけど……」


 部の中でも、全生徒中でも逸脱した人だな。


「あ!来栖さんが考案したキャラクターが!」

 大きいパネルに描かれたそれは紛れもなく、俺の描いた物だった。

「すげえな……きれいな色合いだ」

「自分で言うのもなんですが、今回のは自信作です!」

「あれをあんたがねぇ……」

「何か文句でも?」

「いいえ、とても意外だと驚いただけよ。ぶっちゃけあんたには全く似合わないもの」

「そこまでいうか……」


 確かにあれが素晴らしく輝いているのは、神楽の力あってこそなんだろう。

 華やかさだけでなく、美しさを兼ね備えている。

 俺たちは当日することがなく、休憩所からのんびりグラウンドを見物していた。

 準備の疲れが出てきたらしく、眠りこけてしまった。

 



 あれ?寝てしまったか……

「はぁーどのくらい経ったんだ?」

 自動起床装置でもセットしておいた方が良かっただろうか。

 全員寝てるのか?


「あ、おはようございます」

「神楽?お前は寝てないのか?」

「はい。そんなに疲れてませんから」

「皆さんお疲れだったようですね」


 スヤスヤと眠っている。流石にじっと見るのも気が引けて、緑茶を買おうと歩き出した。

 部長の出番は午後からなので、放っておくことにした。


「私も行きます!コーラ飲みたいので」

「あ、そうか……」


 腹に一物有ることよりも、その口から飛び出た異様な名前が気になって狼狽えてしまった。

 女子高生ってコーラ飲むのか?というより、幼女がコーラを飲むという絵面が気になる。

 自動販売機へ小銭を投入し、迷うことなく緑茶のボタンを押す。


「来栖さんって緑茶が好きなんですか?」

「ああ、そうだが……珍しいか」

「はい、少なくとも私の知り合いにはいませんね」

「そうか……」


 どんな話題を提示していいやら。三秒経つと無理矢理繋ぎ止めても甲斐が無いと思えてきて、畢竟ひっきょう大人しく茶を啜る。


「なぜお前は今も表なんだ?」

「何の脈絡もなく単刀直入ですね……」


 あの場の人間は全員眠っていたから、糊塗する必要はなかった筈だ。


「念には念を入れてという事ですよ?」

「腑に落ちないな。そこまでひた隠しにしなければならないのか?」

「まーた、それですか……来栖さんにしてはつまらない質問ですね。栓無き事だと理解しているでしょう?」

「少々お前は俺を過大評価し過ぎだったようだな」

「なんで誇らしげなんですか……」

 

 胸を張って言えるのだ。何度も何度も罵声を浴びせられ続けてきたから。

 自分がつまらない人間だと評価されるのが末路だ。

 分かっているから否定するどころか肯定する。否応なく蔑まれるなら同じことだ。


「やっぱり変人なんですね。来栖さんは」

 あいつらが異常だというなら俺はもっと異様なのだろうと悟ったような気がした。


「さあそろそろ皆さんを起こして、部長の応援に行きますよ」

 

 振り返った表情は既に他人行儀で笑顔絶えない、気味悪い仮面にり替わっていた。

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