第九章『燃え上がる季節』
部員旅行に気を取られて忘れていたが、そろそろ体育祭の季節だ。
毎回地獄を垣間見るイベント、それが体育祭なのだ。
それが憂鬱なのか声のトーンがダダ下がり、足取りが重い。
ただ一人を除いて……
「みんな、体育祭だよ!元気出していかないと!」
硲部長その人である。
部長は中学まで陸上競技をやっていたらしく、その界隈では有名人だったという。
いつも体力が有り余っていると思ったら、そういう事だったのか……
俺も運動は苦手ではないが、あの不可解かつ意味不明なノリが大嫌いだ。
運動部が活躍するのをみると不快な気分になる。
歯痒さからなのか、単に嫌悪しているからなのか自分でもよく分からないが、気に入らないのは紛れもない本心だろう。
「はぁ……学校を爆破したくなるわね……そうすれば
「それは現実的とは言えませんが、僕も体育祭に関しては休みたいですね……」
皆が消極的になるのも無理はない。運動苦手な部類にとってそれは公開処刑と何ら変わりないのだから。
「俺も、同感だな」
本音を秘匿することなく、沈んだ気持ちを暴露している。
「あんな物、児戯に等しい」
「本音は?」
「凍え死ぬ 面倒くさい 恐ろしい」
虚勢を張るのを諦めたらしく、苦しそうな呻りを上げる。
「だらしないなー。楽エン部の底力見せてやりましょう!」
「お、おー……」
全然乗り気じゃないな……
ステータスは下の下で
苦汁を舐めることになるのを分かっている。
うちの学校の体育祭は競技を選択し、四つの組で競う。
「お前ら何に出るんだ?」
「え?何も出ないわよ。高みの見物よ」
「は?」
「私たちは選ばれし者だから無駄な肉体労働はいらないの」
「えー要するに私たちの管轄外ということで、出なくていいと言われました」
「何も?何もしないのか?」
「部長は何が何でも出場するって聞かないから……」
これは魂げた。全然期待されていないどころか馬鹿にすらされているような。
一種の戦力外通告だろうか。
「仕方ないですね……」
「部長は優しそうに見えて、頑固な所あるから……」
俺はこの部が何なのか
涼し気な秋風は恍けた顔をして、落ち葉を撒き散らしていく。
今回は文化祭とは違って労働はないと高を括っていたのに……
「パネル、装飾諸々の製作依頼が舞い込んできましたー!」
「ちょっと聞いていいでしょうか……」
「なんだい?小北君」
「なんで急に作ることに?」
「勿論競技に出ない代わりの業務だよ?ただ免除されるだけだったら、
「なるほど。そうきましたか……何か企みがあるとは感づいていましたが……」
やっぱり、こうなるのか……
渋々作業を進める五人を確認し、俺も作業を始める。
ん?五人?
幾度も数えてみても五人しかいない。
「まさか……」
確固たる勘を頼りにその場所へ向かった。
「やっぱりここでサボってたのか」
「ふふふ、意外だったでしょう?」
珍しく白河も仕事をしているのにも拘わらず、神楽がふらっといなくなるとはな……
「どうしてここだと?」
「根拠は特に無い。俺だったらここで優雅にリラックスするなーと思っただけだ」
「俺にも一つ質問させろ」
「いいですよ。答えるかはまた別の話ですが」
「では黙秘も秘密も禁則事項も禁止だ」
「そんなのに従うとでも?」
別に真実を供述するなんて微塵も期待していない。
ただ探りを入れてみようというだけだ。
「お前が一番嫌いなものは?」
「候補が多すぎぎて絞り込めませんね。強いて言うなら、嘘よりも惨状な事実でしょうか」
「人間不信の理由はなんだ?」
「特に理由なんて無いです。暗弱で無知蒙昧な奴らに絶望しただけ」
「明確な理由が皆無でも、切っ掛けぐらいあるだろ?」
「そこを掘りますか……後悔しても知りませんよ?」
脅かしでたじろぐ程、俺もやわではない。
「メカニズムは単純ですよ。悉く酷い目に遭わされてきましたから」
「今教えられるのはここまでです」
「そうか……まあこれ以上の尋問は必要ないかもだからな」
詳しく調べても、鬱になるだけだと悟り、ベンチに座り込んだ。
遣る瀬無い気持ちを薄々感じながら、自動販売機に映るみっともない
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