第六章『後の祭り』
重荷の根源であった文化祭もやっと終わりを告げた。
「疲れたわね……」
「そういやお前ずっと居なかったけど何してたんだ?」
「クラスの方に掛かり切りだったのよ」
「皆さんお疲れ様です」
「その皆さんに俺は入っているのか?」
「もちろんですとも、何故そんな無粋なことを聞くんです?」
「いや……クラスで皆で決めようっていうやつあるだろ?そこには毎度俺は入っていないからな」
「いきなりの虚しいカミングアウトね……」
「お疲れさまでした!」
元気いっぱいに飛び上がる神楽。
「元気有り余ってんな」
「はい!ずっとテンションマックスです!」
「天真爛漫というか、元気溌剌というか……」
幼気が香しいほど漂っているため忘れがちだが、神楽は同級生なのだ。
その信じ難い真実にまたもや愕然とする。
「せっかくだから、部全体で打ち上げやりましょう」
「良いですね!」
「僕も賛成です」
「まあ良いんじゃないでしょうか」
「誉れです これぞ神の 思し召し」
「俺は行くと言った覚えは……」
「よし、決定ね」
今反対の声が聞こえた気がするが……
スルーでしょうか……
機会音声が含蓄のある叫びを発する。
そもそも打ち上げって何するんだ?
「何処で打ち上げするんですか?」
「あー私の知り合いの人の店に行こうと思って」
空は徐々に暗くなり、陽が落ちていく。
宵闇の中に没して行く赤い日の丸が皆の横顔をほんのり照らす。
「あの~一応確認したいんですけど……ここって……」
「うん。見ての通り居酒屋よ」
「「「「「「え?」」」」」」
その場にいた全員が愕然とした。思わず耳を疑った。
居酒屋って……どう見ても高校生が会食する場所ではない気が……
これがこの人の致命的な弱点か……
目を丸くして、立ち尽くしていると、小田桐先輩がイヤホンを片方手渡してくる。
どうやら填めろという事らしい。全くこの人も一々面倒だな……
「来栖も何となく判っただろ、硲がモテない理由」
「はい、簡潔に言うと、『センスがない』という事だと思います」
「諦めろ。この部に真面な人間などいない。辛うじて宇宙人だ」
「自覚はあったんですね……」
「大丈夫だ。その辺は弁えている」
「だったら普通に喋りましょうよ……」
小田桐先輩は俺からイヤホンを受け取ると、態とらしく目を逸らす。
「じゃあ……行きましょう!……」
流石の神楽も取り繕うのが難しいようだ。顔色が悪い。
朗らかに陽気にステップを踏む部長の後ろにぞろぞろと浮かない顔をして付いて行く。
「お!由希ちゃんじゃねぇか!元気してたかい?」
店主のおじさんが楽しげに柔らかい声で尋ねる。
酒入ってるよ、この人達……まだ夕方なんだけどな……
円滑な意思疎通に酒は役立つと、客のおじさん達が異口同音に豪語する。
「お久しぶりです」
「その子たちは知り合いかい?」
「ええ、同じ部活です」
「俺はこの子の親父の友達でね。由紀ちゃんの事も小さい頃から知ってるのさ」
「は、はぁ……」
こんな環境に居たから硲先輩はこんななのか……
その起源の片鱗を垣間見た気がした。
妙に此処が似合い過ぎている。酒臭い空間に馴染み過ぎている。
最早擁護は出来ない。
「取り敢えず何か食べましょうか……」
「そうね……」
「はい……」
皆萎縮しているのは無理もない。周りには酔っ払いしかいないのだから。
「さあ、どれ頼もうかなー?」
一人生き生きしている部長。まるで空気を隔てる壁でも在るかのようだった。
「素面の我ら 悲しからずや 酒の色 酔いもせず 冷えた水飲む」
白河は一足早くノックダウン。ダイイングメッセージとして歌を残して。
その修羅場は二時間ほど続き、部長を除く部員たちが二日酔いのように青褪めてぐったりとしていた。
もう打ち上げは懲り懲りだ……初めて皆の意見が一致した瞬間だった。
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