某所 通話記録より
コミュニケーションアプリ 音声
〇月〇日 午前1時24分
女1
ごめんね、こんな時間に。ちょっといろいろ確かめたいことがあったから。
女2
いや、大丈夫だけど――、小宮山こそ大丈夫? 顔色悪いよ。旦那さん、もう寝てるんじゃないの。うるさくしてたら迷惑じゃない?
女1
大丈夫、大丈夫。彼は夜勤だし、気にしないで。
……あのね、佐藤くんのことなんだけどね。まず、このサイト見てみてくれない? アドレス、チャットで送るから。
女2
――――? なにこれ、小説? 投稿サイト?
女1
そう、小説の投稿サイト。ざっとでいいから読んでみて。そんなに長くないから。
女2
―――。やだ、なにこれ。私のテープ起こしじゃない。佐藤くん、無断でこんなふうに使ったってこと? 確かになんかホラー作品にするとは聞いてたけどさ、一言断ったっていいじゃないの。こんなのってちょっと非常識すぎない?
女1
――佐藤くんね、いなくなっちゃったんだって。サークルの他のメンバーも一緒に。
女2
……。どういうこと?
女1
彼、一人暮らしだったんだけどね。ご家族が連絡しても返事がなくて、妹さんが様子を見に行ったら――この妹さんって私の友達なんだけど――アパートには誰もいなくて、ポストに郵便物がいっぱい溜まってたんだって。管理人さんに事情話して鍵開けてもらって、そうしたらちょっと部屋も荒れてて。財布もスマホもテーブルに置きっぱなしで。コンビニ弁当の食べかけが真っ黒に腐ってて、見たら賞味期限が2か月も前だったって。
お隣に住んでる人が、『佐藤さんならしばらく前に大勢で騒いでいて、警察を呼ぼうと思ったところだった』って管理人さんに話しかけてきたらしいのね。『佐藤さんと同じような雰囲気の、地味な様子の若い男ばかりで、浮かれた様子で部屋に入っていった。真夜中だったからちょっと注意してやろうと思ったけれど、すぐに全員引き上げたみたいで、声をかける暇がなかった』って。
女2
じゃあ、それから佐藤くん、帰ってないってこと? つまり、そのよくわかんない人たちに拉致された――みたいな?
女1
さっき送ったアドレスの、5番目の話、ちょっと見てみて。
女2
………。これ、私、書いてない。私が起こしたテープ起こしとは違う。なにこれ、こんな話知らない……。
女1
ここに出てくる、佐藤くんと話してる植山って、サークルに本当にいるの。口調もそっくり。
女2
その人、植山さんに連絡はとれないの? 佐藤くんがものすごい馬鹿で、いろんな人を巻き込んでお芝居して、こんな話をでっちあげてるって可能性はないわけ?
女1
植山くんと、サークルで佐藤くんと特に親しかった人たち7人、全員行方不明なの。みんな、2か月前に家を出て、荷物も何もかもそのままで消えちゃったって。家族と暮らしている人もいたし、とっくにみんな捜索願が出てるの。
女2
――いま、変な音がしなかった? こっちじゃなくて、あんたの方。後ろ、なんか動いたけど、窓とか開けてる?
女1
そう? 私には何も聞こえなかったけど。古い家だから家鳴りがよくあるの。気にしないで。
あのね、迷ったんだけど――明日の朝一で、警察に相談してくるわ。9人もいなくなってるなんておかしいよ。リーコの話とか、投稿小説とか、ふざけてると思われるかもしれないけど。
……相談なんだけどさ、良かったら、あなたも一緒に行ってくれない? 付き添ってくれるだけでいいから。いい年しておかしいんだけど、やっぱり怖くてさ。うまく説明できる自信がなくて、
女2
やだ、嘘、――後ろにいる! あんたの後ろに!
早く見て、違う、見たら駄目!
女1
――え?
(音声終了)
(終了間際、ノイズ内に「佐藤くん、」という音声を聞いたという意見あり。分析結果では確認できず)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます