フリーライター T氏の自室にて 4

 連絡をしなかった謝罪と事情の説明、テープ起こしのテキストデータを佐藤に宛ててメールで送った。

 数日経っても返信はなかった。

 連絡はこまめに返してくるタイプだったので、おかしいなとは思った。まあ、彼は彼で忙しいこともあるのだろう。そもそも先に音信不通状態になったのはこちらのほうだ。テキストが届いているか確認のメールを2通ほど送ったが、応答はなかった。


 ――佐藤くんねえ、そういえば最近会ってなかったな。私、サークルにしばらく顔出してないし。


 佐藤と私が知り合うきっかけを作った人間である小宮山は、「連絡ないって、心配だねえ」、と何の心配もしていなさそうな軽い調子で言った。

 彼女はフリーのデザイナー兼カメラマンで、佐藤とは写真のサークルで知り合ったのだという。サークルにはたまに顔を出すだけだが、彼の企画を面白がって、何かと相談に乗っていたそうだ。

 小宮山と私はずいぶん前に仕事がらみで知り合ったのだが、妙に気があい、月に一度ほど酒を飲みながら無駄話をする。居酒屋などに集まることもあるが、最近はミーティングアプリをよく使う。お互い忙しい時期でも、仕事の合間に自宅で飲めるので便利だ。


 ――佐藤くんね、Tちゃんに引き受けてもらったの、すっごく喜んでたんだよ。Tちゃんが昔書いたオカルト系の記事、結構読んでたみたいだし。「あんな人が協力してくれるなんて信じられない。こうなったら絶対すごいものにしないと」なんて、ずいぶん気負ってたし。


 そういう熱意みたいなものは確かに感じていた。

 だからこそ、急な音信不通は妙に気になった。写真集の企画がうまくいかないなら、それはそれで構わない。こちらももとより趣味の延長としての作業だ。頓挫してしまっても気にしないが、ただ彼の現状が気になるのだとそれとなく小宮山に訴えた。接点があったのはごくわずかだが、真面目で思いつめるタイプに見えた。

 小宮山は首を傾げつつ、「サークルの子たちにも聞いてみるよ。連絡とってると思うから。私もね、ちょっと佐藤くんに聞いておきたいことがあるんだ」と請け合ってくれた。



 一週間後、小宮山から連絡が来た。


 ――佐藤くんね、いなくなっちゃったみたい。サークルの他のメンバーも一緒に。


 彼女は硬い声で言った。私は息を飲んだ。

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