フォルダ名「未分類」の文書データより

1115 通話記録 持出禁


(着信から2分ほど経過して通話を開始)


男1

ああ、佐藤? やっと出た。おれおれ、植山だけど。遅くに悪いな。いま、大丈夫か?


男2

――ああ、植山。誰かと思った…。どうしたんだよ。


男1

どうしたって、そりゃ、お前の様子が気になったんだよ。やっぱり調子悪そうだな。 例のリーコの写真集、なんか編集者とうまくいってないらしいってサークルで聞いてさ。HPの更新も止まってるし、サークルの集まりにも顔出さないし。心配してたんだよ。大丈夫か? 


男2

――いや、編集者もそうなんだけど。モデルとちょっとトラブルがあって…。


男1

ああ、あのモデルの女の子か? いいよなあ、雰囲気あるよ。お前が誰にも絶対会わせてくれないって、サークルの連中、みんな悔しがってたんだぜ。でも、リーコのことを教えてやったおれに拝ませてもくれないってのは、ちょっとひどいんじゃないか? まあ、あのアニメは予想に反して全然はやらなかったから、かえって悪かったんだけどさ。でもアニメ抜きにしたっていい写真だよ。


男2

――植山は、あの女、どんなふうに見えた? 


男1

どんなふうって、そりゃ…、きれいな子だよな。うまく言えないけど、なんかこう、ぐっとくるよな。アニメのリーコともまた違うしなあ。なんなんだろなあ。


男2

(呼吸音)

もう…もうわかんなくなったんだ。写真集、決まったときはもう全部うまくいくと思ったのに…。編集者にモデルについていろいろ言われて、それから連絡とれなくなるし、

(激しく呼吸音。5秒ほど不明瞭)

出版社に電話したら、しばらく無断出社が続いて、急に辞めたって…。なんかもう、気味悪くて…


(その後、5分ほど呼吸音)


男1

あのさ、佐藤、おれ実はすぐそこまで来てるんだ。ちょっと出て来いよ。サークルのみんなも一緒にさ。どうせろくなもん食ってないんだろ。飯でも食おう。な、そうしよう。


男2

――でも、もう夜の0時近いぞ。すぐそこって、どこだよ。どこにいるんだよ。


男1

すぐそこだよ。ベランダ出てみろよ。


(異なる音声。複数人が重なったようにも思える。音源遠く、不明瞭)

『――ぉおぉおい、佐藤ぅ!』


(物音あり。カーテンを開けた音?)


男2

おま、お前ら、なんでうちの前にいるんだよ?!


男1

サークルのやつらもみんな来たがってさ。大勢で悪いな。でもさ、いいだろ? お前、仕事辞めたんだし。明日も予定なんてないんだろ?


男2

なんで仕事のこと、まだ誰にも……。それに、それに、なんでうちの住所を知ってんだよ?! 写真がらみの知り合いには誰にも教えてないぞ、どうやってここまで来たんだよ?!


男1

そりゃ、みんなで調べたんだよ。言っただろ、みんな悔しがってるって。彼女に会わせてもらいたかったら、お前に聞くしかないんだからさあ。

お前さ、この近くの公園でよく写真撮ってネットに上げてただろ。公園の名前が写ってたよ。あとはツイッターの書き込みとか読んで、通勤で使う路線とか当たりつけて、場所絞ってさ。

そのアパート、ポストに入居者の名前出さないんだな。だから部屋番号だけわからなかったんだけど、いまカーテン開けたからわかったよ。


男3

502号室だよな!


男4

早く行こう。どうせあいつ出てこないよ。カーテンも閉めちゃってさ。どうせ家の中で震えてるんだろ。


男1

おい、割り込んでくるなって。うるせえな。――な、佐藤も出て来いよ! 聞きたいことがあるんだよ。あの子にどうしても会いたいんだよ、俺たちは。


男2

け、警察、呼ぶぞ。お前らおかしいよ。


男1

なんだよ、出てきてくれないのか。仕方ないな、よしじゃあみんな、迎えに行くぞ。


(異なる音声。複数人が重なったようにも思える。音源遠く、不明瞭)

『――行くぞぉぉぉぉぅ!』


男2

ヒッ――


(その後、8分無音)

(音声終了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る