りーこの写真集

フォルダ名「テープ」の文書データより ２

テープ２　十一月一日録音

（環境音はほぼ無音。音声はやや遠い。レコーダーがポケットやカバンに入れられている可能性。微かに声の反響あり）

男１　

佐藤さん、お久しぶりですね。

男２　

――あなた、いきなり連絡が途絶えたと思ったら、一月も経ってやっと…。人を馬鹿にしているんじゃないですか。写真集の話はどうなったんですか？

（音声の重なり。10秒程度不明瞭）

男１　

佐藤さん、あのりーこって女。あれは、誰なんですか。

男２　

……。はあ？

男１　

僕は調べたんです。あなたがなかなか教えようとしないから。編集長からも何度もせっつかれたし。ネットであれだけ話題になっているのに、どこからも情報が出てこない。このご時世に、普通ありえないことでしょう。大抵は中学校の元同級生とか、知り合いの知り合いとかが出てくるものなんです。

でも、あなた、一度だけ彼女について「以前参加した○○というコスプレ写真撮影会で出会ったのがきっかけだ」と言っていました。

神奈川のイベントですよね。うちのカメラマンの知人も参加していたんです。参加者の登録簿を見てモデル全員の顔を確認しました。彼女はいなかった。ただ、佐藤さんの写真を見せたら、記憶力のいい方で、覚えてましたよ。「本来モデルとカメラマンとの交流はＮＧの現場なのに、人気のない女の子とこっそりしゃべっていた。運営から注意されていたから、そこはなんとなく覚えている」とね。

男２　

――僕の写真まで使って、いつの間に。ぷ、プライバシーの侵害ですよ。

男１　

彼はそのモデルの顔までは覚えていないと言いました。言いましたっけ？　僕、以前は写真週刊誌にいたんです。記者をやっていました。まあ、それはいいですけど。

しらみつぶしにモデルに連絡をとりましたよ。イベント当時とリーコの撮影時は外見が違う――顔を整形した可能性もあると思いましたから。１人を除いて全員の確認がとれました。

男２　

そこまで言うなら言いますけどね！

彼女の名前はオオサワミホコ。年齢は20歳。看護学校の専門学生で、出身は兵庫だって聞いてます。確かにそのイベントで知り合いました。登録簿にいなかったって、真面目に探したんですか？　整形なんて、妄想もいいところだ。彼女は僕の知る限りずっと同じ顔ですよ。

（雑音。カバンから紙類を取り出したものと思われる）

男１　

イベントに参加していた知人から手に入れた、オオサワミホコの写真です。

男２　

………。誰ですか、これ？

男１　

参加していたモデルは1人以外、全員顔を確認しました。唯一連絡が取れなかったモデルが彼女だ。あの撮影会はチケット制で、飛び入りはできない。念のためカメラマンも運営も全員裏をとった。あなたが知り合ったのはオオサワミホコで間違いない。でも、見てもらえばわかる通り、彼女は顔が違います。

男２

――――――。

男１

佐藤さん、あんた一体誰を撮ってたんですか。

あんたの写真に写ってる、あの女は誰ですか。

（10分以上ほぼ無音）

（テープ途切れる）