第3話 再び彼女を襲った悲劇
僕は彼女がこんな事になるとは思っていなかった。彼女が過労で倒れたと思えば、高ストレス状態になりパニックを起こしてしまう・・・。
僕も最初は心当たりがなかった。というのは、彼女と付き合い始めた頃から笑顔が素敵で彼女と会うと自分も幸せになっていたからだ。しかし、彼女は最近少しずつ変わっていったような気がする。というのは、数週間前に彼女が「私って誰に似ている?」と聞いてきたことがあった。僕は「よくドラマに出ている女優さんに似ていると思うよ」と答えた。今思えばこの会話から読み取れば良かったのだろう。そういうことがあまり得意ではない自分にとって、彼女のようにデリケートなガラスのハートを持っている子と付き合うことが果たして良いことなのかを自問自答していた。
そして、彼女が「毎日何かある」「誰かに追われている」とメッセージが来る度に心配になった。そして、彼女の住んでいるエリアで起きているある事件を目にする。それは、「都内でアイドルのストーカーが多発。犯人は同一人物か?」という心臓に悪い事件だった。記事を読み進めていくと「彼が応援しているアイドルグループのリーダーである桃菜さんと思われる女性に対して数ヶ月以上ストーカー行為を繰り返していると思われる行動が度々目撃されているが、まだ真相には至らない。ただ、彼がストーカーを行っていることが分かったのは本人以外に数人の女性も含まれている可能性があることなどから慎重に捜査を進めている」と書いてあり、発生しているエリアが彼女の大学のあるエリア、彼女のよく遊びに行くエリア、芸能人が多く住んでいるエリアとどう考えても彼の行動範囲が広くて、いつ巻き込まれるか分からない状態だった。
そして、ストーカーされている相手である桃菜さんはあと三ヶ月でグループを卒業し、女優になるために大手芸能事務所に転籍することになっていた。その話はまだ公になっていない話だったため、どこから入手したのか、流出したのかも分からなかった。ただ、彼がその時に考えていたことも分からなかったため、何か危害が加わってからでは遅いと思い、彼女の知り合いや僕の知り合いの女子に頼み、彼女の自宅はオートロック式なのでほとんど安心だと思われるが、隙間から入られても困るので彼女自身でセキュリティに加入し、彼女に何があっても守れるようにしたのもこのような事件が彼女の周りで起きていたことを考慮してのものだった。
そして、しばらくすると彼が桃菜さんだけでなく、学生をターゲットにしているという噂が聞こえて来た。すると、ある日の夕方に帰る時間をどこかで監視されていたのか、誰かから聞き出したのか、彼の模倣犯のような人物が彼女をストーカーするようで、警察に相談して、同じ大学の同級生と一緒に帰っていた。その行動はすでに三ヶ月が経ち、彼女も精神的に不安になっていた。すると、同じ大学の後輩が後ろからつきまとわれて背後から襲われそうになったというのだ。確かに、彼女の住んでいるマンションの近くには道を照らす明かりこそあるが、閑静な住宅街のため、夜になると大通りは人がたくさんで賑わっているが、その通りを離れるとほとんど人の通りはなくなり、学生もいるが、この時間はほとんどの学生が不在だ。それもあって、彼女はあまりその時間に帰宅することはなかったが、その日はたまたま用事があり、帰宅しなくてはいけなかった。そこで被害にあったのだ。
彼女はどうして良いのか分からなくなり、今の家を引っ越そうかと考えていたが、家賃がなかなか手頃な場所がなく、彼に彼のバイトがない日に一緒に過ごせるように相談したのだった。そうしないと、常に不安に駆られ、何をされるか分からない。そう感じるまでになっていった。そんな彼女が「大学を辞めないといけないかもしれない」という連絡が突然彼の元に入った。彼は最初「なんであんな楽しそうに行って、たくさんの友達もいた大学を辞めると言いだしたのだろう」と思っていた。すると、彼女から衝撃的な言葉が出てきた。それは、彼女が精神的に追い込まれてしまい、朝も友人に送ってもらわないと怖くて大学に行けないという趣旨のメッセージを返信してきたのだ。そして、責任感の強い彼女だったため、「毎日友人に迷惑をかけてまで大学に通いたくないし、そんなことしていたら嫌われる」というのだ。彼はかなり悩んでいた。というのは、ここまで彼女が訴えてきても何も動くことが出来ないのは彼女を愛せてない証拠ではないかと感じていたのだろう。そんな彼にとって彼女は自分の殻を破るためのチャンスをくれたいわゆる“人生の恩人”なのだ。そんな彼女を悲しませてしまうのは自分の力がないからだろうと。すると、彼の友人に相談していた。まさか、彼はやっていないだろう。そう信じていた。しかし、その信用はあるきっかけを機にはかなくも散ってしまった。それは、彼女が彼の好きな女の子と交友関係にあり、明莉に「彼女と付き合いたい」と話したら、「そんなこと自分で聞いてよ。私を利用しないで」と突き放されたことにより、彼の中で自分の恋愛を邪魔されたと勘違いをしたのだろう。彼女は元々人気はあったが、芸能関係のお仕事もしていたため、かなり周囲の友人も警戒をしていたのだ。そして、彼女が以前に「この業界ってスキャンダルでポジションやネームバリューが下がることがあるからあまり恋愛するのは気が進まないの。」と言っていたのだった。確かに、熱愛報道をされると囲み取材などで集中攻撃をうけることもあり、ネット上でありもしない話を本当のように書かれて、デマを含んだ噂を流された過去を持っている彼女だからこそ恐れているのだという。そういう話を聞いていた彼女はどんどん恐ろしくなっていた。というのは、まさか凉真の友人である隆利が自分をストーカーしているとは思わなかったのだ。そして、彼女が更に怯えていたのは彼女と別の男子が話していただけでグループチャットに不可思議なメッセージが届いたこと、自分の家に差出人情報が一切ない手紙が届くこともしばしばだった。そんなこともあり、彼女はどんどん精神的に追い詰められていき、大学の教室でも常に何かをされるかもしれないと怯えていた。そして、僕が恐れていた事態が起きてしまう。それは、自分が冬休みに入り、彼女の家を訪れた時のことだった。いつも合い鍵で彼女の部屋に入るためにエントランスで鍵を開け、セキュリティコードを入力すると目の前に住人専用のポストがあるのだが、彼女の部屋のポストには山のようなポスティングチラシが折り重なっていた。そして、管理人室からこんなメモが入っていた。「友野明莉さん確認事項があるので、一度管理人室にお越しください」という内容だった。そのメモと大量のチラシを持って、エレベーターに乗り、彼女の部屋のある五階に向かった。そして、彼女の部屋を開けて扉を開けた瞬間に悪寒を感じた。それは、玄関から入ってすぐの場所に彼女が倒れていたのだ。すでに彼女の意識はなく、争った形跡もない。そして、彼女が寝ている部屋に行くと倒れていた理由が分かった。それは、向精神薬の多量摂取をしていたのだった。彼女は通常一度に一錠と二カプセル飲むことになっていたが、その時は錠剤が五錠、カプセルが二〇カプセルほど減っていた。表に書いてある処方日を見るともらってきたのは三日前になっていた。ということは通常服用であれば三錠と六カプセルしか減らないはずが、五錠と約一五カプセルも服用していたことが分かった。それを知ってすぐに救急車を呼んで病院に向かった。到着すると、彼女は救急治療室に入り、治療を受けた。すると、彼女の治療を担当した医師から彼女の腕にガーゼと防水テープで巻かれた傷跡があったという報告を受けたのだ。実は彼女とは冬休み一週間前から連絡は取っていたが、彼のレポートや課題に追われていて、彼女の家には行ってなかったのだ。それでも、彼女からの返信は確認できたため、精神的に安定しているのだと思っていた。しかし、彼女は安定と下降を繰り返していたため、彼女が大学に行くためには親しい友人と行動を共にしないといけなかったが、彼女は親友たちが同じ授業ではない時は教授に許可をもらい、友人を同席させてもらっていた。
彼女が病院に着いてから数時間が経った時に彼女の意識はまだもうろうとしているが、なんとか受け答えは出来るまでに回復をした。ただ、多量摂取した薬の効用から考えると科学分解をしないとカプセルタイプの薬の作用が強いため、肝臓や腎臓をやられてしまう可能性があった。そして、彼女の友人達にお願いして、時間がある時は彼女と一緒に居てもらって、何かあったら連絡を欲しいとお願いした。そして、彼も三年生になり、大学の授業がかなり減ったため、バイトの時間を増やし、就職活動のある週には日中の勤務はしないで、夕方の勤務のみに、就活が無い週には午後から夕方までのすべてのシフトを入れた。そして、彼は何かあった時にすぐ彼女の家に行けるように自転車を買い、お店の社員専用の駐輪場に止めておいた。車で来ても良いが、大学には駐車場がないためだ。
そして、彼は三年生のうちにある程度の方向性を定めて、可能な限り彼女の治療に付き添った。彼女も就職活動をしなくてはいけなかったが、この状態ではなかなか厳しいため、出来るだけ回復することを優先にして、就職説明会も彼女一人ではなかなか難しいため、彼が面接などを受けながら進めていく合間で時間が空く時に一緒に参加するか、彼女の症状を理解している友人と参加させていた。
そして、彼女は複数人であれば行動できるまでに回復した。そして、彼女は少しずつ就職活動を始め、以前から声をかけてきていた二〇社近い会社へ一度事情を説明し、回復を待ってもらえるように話していた。そして、今回再び直接採用したいと連絡が来たのだった。というのは、彼女は個人的に芸能事務所に所属して、女優をしながら通訳などをしていた。その実績から彼女は様々なイベントやコンペに呼ばれることが多くなっていた時に突然活動休止と療養を発表したため、多くの会社がびっくりしたのだった。それもあってか、彼女は信用を失ったと思ったようで不安になったのだった。そして、マネージャーと話し、芸能活動と並行して勤務できるように会社側に交渉し、承認を得られなければオファーを辞退することになった。すると、全社から回答があり、五社が全面承認、三社が条件付き承認、残りは見送りを申し出た。
彼女はマネージャーと各社の担当者、大学の就職活動の支援センターの職員と面談に望んだ。しかし、そこでも彼女を待っていたのは悲痛な状況だった。それは、週に最低でも三日は出社しないと今回提示した給与と賞与の支給はしないというのだ。もちろん会社員になるため、芸能活動が不安定になってしまうことがあっても経済的な面ではプラスになる。しかし、芸能の仕事が全くなければいいが、忙しくなった時はかなり厳しいように感じる。だからといって、すぐに芽が出るわけではないため、融通だけ効けばなんとかなるのだが、なかなか難しい面が多い。もちろん今回承認してくれた会社には感謝しかないが、どこまで頑張れるか分からないため、かなり深刻な悩みが多い。
全ての会社からの面談を終えて、後は芸能事務所のコンプライアンスと照らして考えることになった。というのも、彼女は様々なイベントや番組への出演が決まっていたため、各社の条件をクリア出来る見通しが立たないのだ。それだけでなく各社が提示している条件を考えると、芸能活動を制限するしか方法がないのだと思った。すると、社長からも「これはかなりきつい条件が出されていて、対応するのが難しいと」言われた。それだけ必要とされている需要に応えることの難しさを肌で感じていた。
そして、彼女が出した答えは「全社辞退」という彼女らしい判断だった。理由としては体調が上手く管理できなくなった時に採用先の企業と事務所と両方に迷惑をかけることになると思ったからだ。仮にもう少し体調が良くなれば芸能活動との両立も考えることが出来たが、現時点では見通しも立たないことからこのような選択をしたのだという。そして、彼も志望していた企業への入社が内定し、お互いに幸せの中にいた。
ただ、彼女が背負っている十字架は一生消えない。でも、その傷を負った隙間を凉真が全力で埋めてくれると願っている。そして、彼女も彼が守ってくれると思って更に飛躍できると思っているからこそこの判断をしたのだろうと思う。
彼女の悲劇は危うく彼女の人生を変えてしまう寸前まで行ったが、なんとか回避できた。それは凉真の愛があってからこそ出来た業で他の人では無理だっただろう。
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