第88話 魔王、後片付けをした後ベーシク村に戻る

 平原国家にも魔将軍はいたのだが、爆発と炎ですっかり肝を潰していたようである。

 腰を抜かしてへたり込む、魔将軍スレイプニルがいたので、えいっと頭を叩いて気絶させておいた。

 やはり、魔力の糸がつながっている。

 この先に魔神がいるのであろう。

 ちょきんと切っておく。


 そしてやる事は、復活魔法と回復魔法の大盤振る舞いなのだ。

 うーん、一万人近く復活させた気がする。

 ベリアル、さすがにやり過ぎであろう。

 今度叱っておこう。


 結局、両軍死者なしとなった。

 だが、どちらの軍もすっかりドン引きである。

 完全に腰が引けている。

 侵略とか防衛どころではない。

 ということで、平原国家の偉い人とムッチン王子で和睦することになった。

 遊牧民たちはあまりたくさんの街を維持できないため、ほとんどをゼニゲーバ王国や、近隣諸国に返すことになる。

 下手に街を維持して、また戦争にでもなったら大変だからである。


「恐ろしい恐ろしい……。馬に乗らぬ民があれほど頭のおかしいことをしてくるとは思わなかった」


 震えながら、平原国家の偉い人は言った。


「ボクチンも恐ろしい……。戦いとか何もいいことがない! やめよう。戦争はしないことにしよう」


「同感だ……」


 ということで、平和的に話がまとまり、平原国家の者たちは引き上げて行ったのである。

 結果的には全て丸く収まった。

 ベリアルは、手段を本当に選ばないが、きちんと望む結果を引き出してくる能力がある。

 これでもうちょっと手段を選んでくれれば、余は楽できたのだがなー。


「スレイプニル、そういうわけで、一応目を光らせておくのだぞ」


「はっ。ベリアル様がまたやってくる事のないよう、しっかりと働きます!!」


 次にベリアルが来たら、今度こそ平原が焼き尽くされるであろうなあ。

 そのようなわけで、全ての戦争を止める作戦を終えた我らである。

 ベーシク村に戻ろうということになった。


「ベリアルはもう一度倒しておいた方がいいのではないか?」


 そう言うユリスティナは真顔だった。

 いや、余がいれば大丈夫だから。


 ワールドトラベルで、ベーシク村へと戻る。

 ベリアルは各地方に散らばった魔将を拾い集めてからやって来るとのことである。

 というわけで、余とユリスティナとショコラが先に戻る。


「懐かしいベーシク村……むむむっ」


 眼下の村を見て、ユリスティナがむつかしい顔をする。


「なんだ、この紫色の雲の色は。それに、塀があちこち壊れかけているではないか」


「魔神がここに降臨しようとしているのであろう。今まで世界中に仕掛けていた戦争は、囮だったのだ」


「なんと!! ではザッハ、ガイたちをこの村に残したのは……」


「うむ。村を守ってもらうためである」


 門の前に降り立つ我らである。

 すると、恐る恐る、という感じで門が開いた。

 ブラスコが顔を出す。


「おお、ザッハさん!! ユリスティナ様にショコラちゃんも。無事だったのか!」


「うむ。村は変わりないか?」


「ああ、みんな無事だぜ! 勇者一行がいなかったら大変なことになるところだった!」


 なるほど、ガイたちはしっかりと働いてくれたようだ。


「ザッハ、その様なことを考えていたとは……。見直したぞ!」


「ピャア!」


 ユリスティナが余の肩をぽんぽん叩く。

 それを真似して、余に抱っこされたショコラが、胸板をぺちぺち叩いた。


「いや、実は考えてはいなかったのだ。だが、今回戦争になりかけたところを地図で結ぶとであるな」


 余は幻の魔法で、空中に地図を投影する。

 まだ横にいたブラスコが、ほえーという声を漏らした。


「北の沿岸諸国、西のゼニゲーバ、東の帝国……そのちょうど中心にベーシク村があるのだ」


「確かに……! ああ、いや、ゼニゲーバ王国はこの村からみたら、やっぱり東ではないか」


「ほんとだ。あれー? 一応、オロチは魔神が尖兵を操っている糸が、実は魔神を引っ張り出そうとしていたみたいだと言っていたであろう。あの話から思いついたのだがな」


「そういえばそう言っていたな。むむ! つまり、この三方向で尖兵が魔神を引っ張り、ベーシク村の上に出現させようとしたと言うことか!」


「えーと、もしかしてベーシク村でも尖兵を作って、こっちで引っ張って、平原の上空に出てこようとしてたっぽいであるな」


 余は空を見上げた。

 紫色の雲は、ぐるぐると渦巻いている。

 魔神が今にも、ベーシク村の上空に出現しようとしているのである。

 だが、本来出てくる予定ではなかった場所なので、上手く出現できないでいるようだ。


「あちらからやって来たのだから手間が省けるではないか。ここで、いらぬちょっかいを出してくる魔神と決着をつけてやるとしよう」


「ああ。今回は私と、勇者ガイ一行も一緒だぞ」


「マウマ!」


「あっ」


「あー」


 ショコラが元気にお返事をしたので、余とユリスティナは顔を見合わせた。

 ショコラがいたなー。

 どうしようかなー。

 ショコラと、お友達みんなも保護せねばならぬな。

 これは、村の人たちを集めてちょっとお話をせねばなるまい。


 余はベーシク村に入ると、さっそく村長に会う。

 そして、今後の予定について話すのだ。


「ええっ、村が戦場に!?」


「正確には、村の上に戦う舞台を作るので、ここには何も無いようにする予定である。だが、危ないからみんな一日くらい、向こうにある丘の上に避難していてもらいたいのだ」


「なるほど……ザッハさんがそうおっしゃるなら、危険なのでしょうな。分かりました。他ならぬザッハさんの言葉です。信じましょう!」


「うむ、助かる」


 がっちりと握手を交わす、余と村長である。

 そんな横で、ユリスティナが村長の奥さんに、育ってきた赤ちゃんとの付き合い方を聞いている。

 何それ、魔神よりも大事なことではないか。

 後で余にも教えるのだぞ……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る