第81話 魔王、仕事を割り振る
せっかく勇者パーティがベーシク村に集まったのだ。
事が起きるまで遊ばせておくのはもったいない。
ということで、余は彼らに仕事をお願いすることにした。
「良いか、ファンケル、ラァム。貴様らには子ども園と子どもたちの相手を頼みたい」
「なんで私とファンケルが!?」
「そうだそうだ」
「貴様ら二人とも、近々子どもを作る予定なのであろう? 実地で子どもという生き物がどのように動き、どれだけエネルギッシュなのかを感じ取ることは重要ではないか?」
余が彼らを任命した理由について語ると、二人は顔を赤くした。
ファンケルなど、口をぱくぱくさせつつ、「な、なんでそれを……」とか言っている。
この間、ホーリー王国の玉座の間でいちゃいちゃしておったではないか。
「さらにだ。余にはここに、子どもができる確率が上がるポーションを持っておってな……」
ラァムの目がぎらりと輝いた。
「それって、予定通りの日に子どもを作れる的な?」
「いかにも。生まれる日にちを正確に設定できるから、赤ちゃんのための準備が容易になるぞ。さらに配合を工夫すれば、男女どちらが生まれるかもコントロールできるが、その機能はあえて外してある。どっちが生まれるか分からぬから、ハラハラドキドキするものであるからな」
余の説明を聞いて、ラァムがうんうん、と頷いた。
「ファンケル」
「な、なんだ」
「私たち、この一年間、子どもができてないでしょ。自然に任せるのもいいけど、私としてはまず一人欲しいの……!」
「お、おう」
「ザッハトール! この仕事を請けたら、赤ちゃんや子どもたちで未来のシミュレーションができて、しかもその薬がもらえるのよね?」
「うむ」
請けても請けなくても、どちらにしても薬はあげるがな。
余も、ラァムとファンケルの子どもは見てみたい。
ショコラの弟分か、妹分になるであろう。
「引き受けるわ!!」
ラァムの一声で、話は纏まったのである。
ファンケル、尻に敷かれておるなあ。
まあ、あやつはこれで幸せそうなので良かろう。
次に、ガイとボップ。
「貴様ら、仕事を頼んでもよいか? 暇であろう」
「超暇だー」
「ガイ、お前新婚のくせに、ローラ姫ほったらかしにしてきやがって。あ、俺はほら、マリナといちゃいちゃするのが忙しくてさ!」
「ボップは放っておくとどんどん腕がなまる故、断る自由はやらぬぞ」
「あ、はい」
余がトルテザッハと同一人物であると知ったボップ。
余の前ではすっかり大人しくなる。
「貴様らに依頼したいのは、余の小さき弟子たちへの教育である。魔法の基礎は叩き込んだのだが、余とあやつらでは実力にあまりに開きがある。ベリアルはその辺り卒が無いのだが、あやつは今は仕事で村を空けておる。貴様らしかおらぬのだ」
「へー。子どもに教えるのか。魔法? それならボップの方が向いてるんじゃないか?」
「中には、自己付与系の魔法に向いていそうなのがおってな」
「あ、それは俺と同じタイプだ」
魔法に関しては、ただの一般人から大魔道士と呼ばれるまでに育ったボップが明るかろう。
できる子、できない子それぞれの気持ちが分かるゆえ、寄り添った教育ができるに違いない。
そして、ガイは普通から外れたような、尖った才能を持った子どもと相性が良いはずだ。
ガイは自己付与系魔法特化の才能を持っていたがゆえ、最後はドラゴンオーラと言う余も知らなかったオリジナルの力に目覚めたほどであるからな。
彼らに教わった子どもたちがどこまで育つか、楽しみである。
ちなみにその間、余はちょっと世界を回って戦争の状況を確認し、ちょこちょこ介入してサッと終わらせる仕事にかかる。
ついでにショコラを連れて行って旅行も楽しもう。
という話を、家に帰ってからユリスティナにぶちまけた。
「ユリスティナは色々忙しいであろう。村に残って仕事をし、パーティの仲間たちと旧交を温めても」
「私も行くぞ当たり前だろう」
ショコラをむぎゅむぎゅ抱きしめて、ユリスティナが断言した。
「えっ、仕事とか近所付き合いとか大丈夫なのであるか?」
「こんな事もあろうかと、しっかりと仕事をしていたのだ。明日から刺繍教室はお休みとなる。なー。ママと一緒に行こうね、ショコラー」
「マウマー!」
「んっ!? 今、ママって言ったのであるか? ユリスティナ貴様、ショコラに先にママって教え込んで呼ばせる気であるな? 汚い、聖騎士汚い」
「ザッハが忙しく飛び回っている間に、ショコラのお世話は私の担当だったからな。赤ちゃんが大いなる飛躍を遂げるこの年令で、全てのお世話を私に任せた失敗を知るがいい」
「何ということだ……!! ユリスティナ、そこまで読んでショコラのお世話を……!?」
「ふふふふ、ははははは!」
ユリスティナ、なんと恐ろしい謀略を実行していたのだ!
余は魔神などにかまけて、もっとも恐ろしい相手に気付いていなかったのである。
「よし、分かった。旅行には貴様も連れて行くとしよう。だが、ただの物見遊山ではないぞ。魔神の傀儡となり、攻めて来る人間の軍勢を相手にすることになる」
「なに、殺さないように相手をすればいいんだろう? こんなこともあろうかと、聖騎士としての力も磨き上げていたんだ」
「なん……だと……!?」
ユリスティナ、恐ろしい女よ……。
ということで、村は勇者パーティに任せ、余とユリスティナとショコラ、三人でちょこっとお出かけしてくるのである。
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