第80話 魔王、ばれてばらす

 さて、とても忙しくなって来たのである。

 ベリアルが旅立ち、対魔神用に各国と交渉している。

 ブリザードとフレイムもいない。

 パズスも出て行ってしまっている。

 今までベーシク村にて、仕事をしてきた我が魔王軍の魔将たちはほとんど留守になってしまった。

 その分、空いてしまった仕事を誰がするのか。


 余である。


「では行ってくる。戻りは深夜になろう。先に寝ているように」


「ああ。無理をするなよザッハ」


「ピャー」


 ユリスティナとショコラに見送られながら、仕事に向かう余。

 子ども園で赤ちゃんの世話をし、昼過ぎからは弟子たちに魔法を教える。

 夕方からは畑仕事を手伝い、夜はブラスコとともに門の管理の仕事をするのだ。

 一応、塀ゴーレムが村の守りは担当してくれるため、負担は軽減されている。


「うーむ、激務なり。だが、魔王時代よりはよほど楽であるな」


 問題は仕事の大変さではない。

 仕事をたくさんやっていると、ショコラと遊ぶ時間がなくなってしまうのだ。

 これはいけない。

 今にもお喋りを始めようかというお年頃のショコラである。

 パパと発する歴史的瞬間は見逃したくない。

 うーむ、どうしたものか。


 悩みを抱えながら家に帰り、ちょっと寝て、早朝の牛の乳搾りに向かう余。

 その肩にガルーダが降り立った。


『ピピッ! 魔王様! 勇者ガイと仲間たちがベーシク村に来るでち!』


「おお、ついに来るか!!」


 余とガイとの文通は続いていた。

 筆まめなガイは、送ると必ず翌日には手紙を返してくる。

 ガルーダはこれを運び、ベーシク村とホーリー王国を往復しながら、夜には海側の小国群を訪れ、口下手なブリザードやフレイムに代わって交渉ごとを担当するのである。

 そのために、余はガルーダに人間の姿を与えていた。


『ガルーダも勇者の仲間に会っておいたでちよ! すぐに正体はばれたでちが、協力するって言ってくれたでち!』


「よしよし。で、いつ来るのだ?」


『今日でち』


「早い!」


 その日の昼過ぎには、ベーシク村の外で大きな音がして、もうもうと土煙が上がった。

 勇者ガイが仲間たちを連れ、村に飛んできたのだろう。

 そして着地に失敗したのである。


「ガイ、お前ーっ!」


「なんで飛行魔法が大雑把なの! 危うく怪我するところだったじゃない!!」


 泥だらけだが、ピンピンしているファンケルとラァムが土煙の中から現れる。


「いやあ、悪い悪い! 一回ローラを連れて飛んだんだけどよ。それっきり、ローラは一緒に飛んでくれなくなってな!」


「当たり前だろ!?」


 にぎやかな彼らを出迎える、余である。

 そして隣には、ボップとユリスティナがいる。


「ようこそ、勇者パーティの諸君」


「あっ、ゴールドナイト!!」


 ラァムが余を見て身構える。


「ゴールドナイト? おいおい何を言ってるんだ? この人は師匠の甥だぜ?」


「ボップ、生きてたのね……じゃなくて、トルテザッハ様の甥ってこと? そんなわけないでしょ! 大魔道士の甥が、なんで強大な魔闘気をまとってるのよ!」


「生きてたのってなんだよー!」


「そっちに反応するわけ!? だからあんたはいつまでもボップなのよ!」


 おっ、ボップとラァムの言い合いである。

 勇者パーティでは良く見られた光景であるな。

 余はほっこりした。

 ユリスティナもこれを見てニコニコしている。

 ちなみに、彼女の腕の中にはショコラがいる。


「おいおい、二人とも落ち着けよ!」


 この言い合いに割って入ったのは勇者ガイ。

 さすが、勇者パーティのリーダーである。

 人徳でこやつらをいさめるのだな。

 ガイに人徳とかは無かった気がするが。


「こいつはザッハトールなんだからお前らが言ってることは違うぞ」


「おいー!!」


 余は思わずガイの後頭部に突っ込みを入れていた。

 ガイが首を軸にして、ぐるんと一回転して倒れる。


「えっ。尋常じゃない魔闘気だと思っていたけれど、まさか、そんな……」


「ザッハトールだと……!? 生きていたのか!」


「ひょえー」


 最後のはボップな。

 人類最強の魔道士が何を情けない声を上げておるか。

 しかし、ガイがスッと真実をばらしてしまったぞ。

 これまで余がやってきた隠蔽工作をなんだと思っておるのか。


「ユリスティナ、こやつらに言ってやってくれ」


 ここは、我がパートナーである姫騎士に助けを求めるしかない。

 ユリスティナは、「任せておけ」とこの頼みを受け入れ、一歩進み出た。


「一年一緒に暮らしてみたが、ザッハトールは悪いやつではない。警戒しなくていいと思う」


 ザッハトールということを!

 否定しない!


「あーもう!! ユリスティナ! ガイも! 貴様ら、そういうところだぞ!?」


「わっはっは! 悪い、ザッハトール! ついやっちまった!」


 げらげら笑いながら起き上がるガイ。

 この大笑いにつられて、ショコラもキャッキャッと笑う。

 うーん、ショコラが笑ったのなら仕方あるまい。

 許す。


「そういうことである。いいか、ラァム、ファンケル、ボップ。余はもう魔王を引退したし、赤ちゃんを育てているので人類の侵略とか考えてないからな?」


「うう……確かに、ホーリー王国でのザッハトールは、国の建て直しを一生懸命やってたわね」


「ああ。それに戦った時も、周りの人たちに被害がいかないようにしていたな」


「待てよみんな!」


 ここでまじめな声を出したのはボップである。


「俺は許せねえ! ザッハトール! なんで師匠の甥だなんて騙った! いくらザッハトールが改心したとしても、それだけは絶対に許せねえぞ!!」


 あ、そこか。

 仕方ない。

 余はボップを手招きした。

 むすっとしたボップを連れて、村の門の陰に行く。


「あのな。実はな」


「何だよ」


「トルテザッハも余なの」


「えっ!!」


「ほれ」


 どろんと変身してみせる。

 その姿は、紛うことなき大魔道士トルテザッハだ。


「このところちょこちょこ、夢の中で貴様を鍛えてるであろ?」


「え、ええ!? えええーっ!? マジ? マジで? うわ。うわー」


 ボップ、がっくりと地面に手を突いた。


「マジかー。ザッハトールが師匠の正体だったのかよー。そりゃ、一人称が余で人のこと貴様って呼ぶ変な人だと思ってたし、ザッハトールと口調が一緒だなーと思ってたけど……」


「つまり貴様は余の一番弟子ということになる」


「うわーっ複雑だー! 師匠が死んだ時に俺が流した涙を返して欲しい……!!」


 ということで、こっちの話も片付いた。

 色々ばらして、スッキリしてしまったぞ。

 なんという爽快感だ。

 それに対して、ボップは頭が真っ白になった顔をしている。

 こやつの場合、ものを考えてもろくな事を思いつかないからこれでいい。


「ということでだ。対魔神のために、余と魔将、そして勇者パーティが力を合わせて戦うことになるわけである。がんばろうー!」


「おー!」


「おー!」


「マウー!」


 余とガイとユリスティナとショコラが、拳を突き上げた。

 呆然とする、ラァム、ファンケル、ボップなのであった。

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