第十二章 魔神の野望を打ち砕け

第79話 魔王、魔神の動きを察知する

 ある朝の事である。


『ピピーッ』


 甲高く鳴きながら、ガルーダが窓から飛び込んできた。


「ピャ!?」


 びっくりしたのは、朝ごはんを食べ終わって遊んでいたショコラだ。

 飛び込んできた小鳥を、咄嗟にパッとキャッチしてしまう。


『ウワーッ』


「ピャアー」


 キャッチされたガルーダもびっくりだし、キャッチしたショコラもびっくりだ。

 二人で、ウワー、ピャアー、と叫んでいる。


「何事であるか?」


 食器の片づけを終え、やってくる余である。


『あっ、魔王様! 大変でち! 大変でち!』


 ガルーダがショコラの手の中で大騒ぎしている。


「マウマウー!」


 ショコラも真似をして、空いている方の手をパタパタさせた。

 すると、ふわーっと空に浮いていくではないか。


「ショコラ、翼をパタパタさせたな? 天井に頭をぶつけてはいかんぞ」


「ピャ!」


 目には見えないが、ショコラの背中にはドラゴンの羽が生えている。

 これで風の魔力を操り、空を飛ぶのである。

 赤ちゃんだが、ちゃーんと飛べるのだ。


「それとショコラ、小鳥さんをぎゅっと握り締めてはいけないぞ。苦しがっているであろう」


「ピョ?」


 ショコラの目が、余を見て、それからガルーダを見た。

 ショコラは賢いので、すべてを理解したらしい。

 優しく手を離す。

 ガルーダは飛び上がり、余の目の前に滞空した。


『ありがたい! 魔王様! 大変な事が起こったでちよ! 海洋国家バイクーンがこの大陸に攻めてくるでち! それと、群島国家ジパンからも軍が派遣されて来ているでち! さらに、平原に最近できた帝国が騎馬軍団を……』


「待て待て。いきなり世界中がこの大陸目掛けて攻めてきているというのか」


『その通りでち! まるで示し合わせたように、一斉にでちよ!』


「ふむ、ならばそれは、示し合わせたのであろう」


 余の言葉に、ガルーダはきょとんとする。


『でも、それぞれの国は国交なんてないでちが』


「そこは私が、我が偉大なる魔王に代わってご説明いたしましょう新入り君!」


 大仰な口上とともに、余の横にあった窓ががらりと開く。

 ベリアルであった。

 貴様、そこで待ち構えておったのか。


「示し合わせたと言うことはだ。彼ら、侵略国家は、各国の指導者よりもより上にいる何者かによって操られていると見ていいでしょう」


『な、なんとー!! 何者かとは!!』


「それは、我ら魔族を生み出した存在、魔神に他なりません!」


『な、なんだってー!!』


「ピャピャー!」


 ガルーダがいちいち大仰に驚くので、面白がったショコラが真似をする。

 教育に良くないのでは……?


「貴様ら、立ち話もなんである。食後のお茶を入れるから飲んでゆくが良い」


「おお!! 我が偉大なる魔王手ずからのお茶とは……。若返る思いです」


『いただきまちゅ!』


「ピャー」


 ショコラもお茶のご相伴にあずかりたいっぽいので、余は赤ちゃん用の座席を用意した。

 自らの力で座席に座ったショコラ。

 テーブルをバンバンと叩く。


「待つのだショコラ。お行儀よくするのだぞ」


「ピャ!」


 良いお返事をすると、ショコラは両手を膝の上に乗せて、大人しくなった。

 だが、そのくりくりお目々はガルーダに注がれている。


『ピピー!』


 ガルーダ、ショコラの注目を浴びて、翼を広げておどけてみせる。

 キャッキャと喜ぶショコラ。

 赤ちゃんの扱いを分かっておるな。


「まず間違いなく、ガルーダが報告した件は魔神の仕業であろう。今まで婉曲に影響を及ぼしてきていたが、ついに直接的手段に出たということだ」


「それぞれの国には、魔将軍を遣わしていたはずですが」


 ベリアルの言葉に、余は頷いて見せた。


「魔将軍らは、魔神の手に落ちたと思って良かろう。場合によっては、人間と魔将軍が手を結び、こちらにやってくる事も考えられるぞ。いや、十中八九そうであろう」


「いささか面倒ですね。一軍程度なら、我ら魔将で片付けられますが」


 魔将軍と言うのは、十二将軍と同格にあたる魔王軍幹部である。

 世界とは、この中央にある大陸……センター大陸だけで構成されているわけではない。

 周辺には数多、大小の島々がある。

 バイクーンは北方の海洋国家で、海賊などをして生計を立てている。

 ジパンは多くの島が連なった国で、外国との交流を極端に制限している。

 平原国家は仮に国家と呼ばれているが、遊牧民たちの集まりである。

 そのうち国になるかもしれない。


「三方向となると、魔将三名を使わねばならぬな。少々ベーシク村が手薄になるか」


「そこが魔神の狙いでしょう。どうなされますか、我が魔王よ」


「うむ。勇者たちを呼ぼう」


「なんと!!」


『なんでちと!』


 こんな時のために、勇者ガイとは文通しておったのだ。

 ガルーダには最新の手紙を渡し、ガイに届けてもらうとしよう。

 ボップはまだ村におったか?

 ラァムとファンケルはガイに任せて……。


「流石は我が偉大なる魔王! いつの間にか、勇者どもを手駒にしていたとは……!! 常に私の想像の上を行く、恐ろしいお方よ」


 ベリアルが息をするように余を持ち上げてきた。

 何を話してもこれだから、ベリアルが近くにいると他の人と話がしづらいのである。

 大変に有能なのであるがなあ。

 さて、そうと決まればお仕事である。

 これ、何気に世界の命運を決する一大決戦になるので、ホーリー王国を通じて各国にもお手紙を出してもらうことにする。


「ではベリアル、貴様はゼニゲーバ王国に行って、また戦争から逃れようとするようなら尻を叩いて。あそこの騎士団、装備だけは最高級であるからな。奴らを連れ、平原国家を討つのである」


「御意!」


「海洋国家バイクーンには、ブリザードとフレイムを向かわせよう。近隣の小国をまとめるには、彼奴きゃつらでは頭が回るまい。ガルーダ、交渉を代行するのである」


『かしこまり、ピピッ!』


「群島国家ジパンは、元々オロチの管轄であっただろう? しかし、奴は人間と交流するには恋バナが不可欠であるからなあ。困った時はパズスに任せるとしよう」


「パズスは便利ですからね」


 自分がいないところで配役が決定するパズスであった。

 後は、魔界にも連絡をせねばな。

 これは余が直接出向こう。


「以上をもって、魔神対策大作戦(仮)の始まりとする。これから忙しくなるぞ!」


「御意!」


『ピピッ!』


「マウー!」


 ショコラは別に何もしなくてよいのであるぞ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る