第70話 魔王、オロチと女の子の作戦会議を見守る
「マーウ、マーウ」
「おっ、ショコラ、お腹が空いたのか」
「ピャァ」
縁側に座り、じっとオロチとアウローラのやり取りを観察していた余。
ショコラが膝の上に乗ってきたので、意識をこちらに切り替えるのである。
さっきまでショコラは、余が持ってきた自動馬車の模型で遊んでいたのだ。
「では、お昼ご飯は何にするであるかな」
「ピャ、マウ、マママ」
おっ、ショコラが何か赤ちゃん語で伝えてくるぞ。
そのジェスチャー、もぐもぐする動き……。
オムレツかな?
「よし、分かったぞ。美味しいオムレツを作ってやろう……!」
「ピャー!」
ショコラが大喜びする。
そして余はサッと手際よくオムレツを作り、ショコラに食べさせた。
トマトと香辛料を合わせて作った、余のオリジナルソースがお気に入りのようである。
赤ちゃん用に、塩気と辛さは抑えてある。
ザッハソースショコラスペシャルと名付けてある。
「マー!」
ショコラ、ご機嫌でオムレツをもぐもぐ、むにゃむにゃと食べる。
中には細切れ野菜を柔らかく煮て入れてあるが、それもむしゃむしゃと食べてしまった。
こども園では、赤ちゃんたちの好き嫌いが多いと聞くが、ショコラはなんでも食べるから楽であるな。
あっという間に平らげてしまい、けぷっとした。
「ンマー」
食べてすぐに眠くなったようである。
余はショコラを抱っこする。
すぐにショコラは、すやすやと寝てしまった。
……さて。
オロチたちに目線を戻してみよう。
『ガルーダ、ガルーダよ』
『ピピッ!? な、なんでちか! ちょっとお休みして枝についた芋虫を食べたりしてないでちよ!』
『食事休憩は構わぬ。中継を再開できるか?』
『ピピッ! おまかせくだちゃい! 魔王様、あなたも好きでちねえ』
『フフフ、これこそが若さの秘訣よ』
ガルーダが見下ろす先には、二人で並んで道を歩く、オロチとアウローラの姿があった。
「いいですの? あと二週間ほどでお祭りがあるそうではないの。そこで彼にアタックなさい!」
「そ、そうだね……! そこじゃないと、チャンスがないもんね……!」
「そうですわよ! そして、男には贈り物をするものですわ。マフラーや手袋というのが一般的ですけれど……これから夏が来るのでしょう?」
「うん」
「ならば、年中通して使える日用品にするのがよさそうですわね」
オロチが頭を使っている。
ここまで恋する乙女に入れ込むとはな。
これこそが、オロチがベーシク村に馴染む鍵であろう。
「日用品……?」
アウローラがむずかしい顔をする。
「カバンですわ!」
「カバン!? そ、そんな凄いの作れないよ!」
「大丈夫。わたくしが手を貸しましょう。それに、この村には素材だけは有り余るほどありますもの!」
「ほ、ほんとうに!? どうしてオロチさん、そんなに力を貸してくれるの!?」
「恋する仲間を応援するのは、乙女として当然ですわ!!」
「オロチさん……!!」
感極まって、オロチに抱きつくアウローラ。
「ひんやりしてて気持ちいい」
「わたくし、比較的変温動物ですもの」
ここに、恋する乙女同盟が完成したのだった。
翌日。
アウローラはオロチと共に、母親にお願いをしに行ったようだ。
「お母さん、お願い! 習い事をしたいの!」
「おやまあ、いきなりなあに? 昨日は畑仕事を放り出して走って行っちゃったと思ったら」
「昨日はごめんなさい! でも、あの、私、作りたいものがあって……あの、その、夏祭りまでに!」
「わたくしからもお願いしますわ!! これはアウローラにとっての一大事ですの!」
「えっ、あなたは?」
「ザッハ様の恋び……」
行け、ガルーダ!
『承知、ピピーッ!!』
ガルーダがオロチに飛び込み、くちばしで頭をコツーンとつっついた。
「あいたーっ!? こ、この気配!? あの方、また魔将を増やしましたわね!?」
よーし。
まずそうなワードを発しそうだったからな。
これでそれを防ぐことができたぞ。
だが、アウローラの母は余の名前を口にしたことで、オロチの素性を察したらしい。
「あー、ザッハさんの。それに、夏祭りまでっていうことは……ははーん」
不敵に笑う母。
こやつ、察したな……!?
できる。
「わたくしが監修し、必ずやアウローラの恋を成就させるとそう決めたのですわ!」
「ちょっ、オ、オロチさーん!!」
アウローラが真っ赤になりながら、オロチをポカポカ叩く。
爆笑するアウローラ母。
「あっはっは! いいんじゃない? 行ってきなよ、習い事。子ども園の二階でしょ? 作りたいものによって、先生が違うでしょ。ちょうどいい日にちを教えるよ。何を作りたいの?」
「えっと……カバン。卵を運べそうなやつ」
「カバン!! ……卵ねえ……。ふーん。へえー。そうなんだ」
「ちょっとおかーさーん!! ニヤニヤしないでー!!」
今度は母をポカポカするアウローラ。
心温まる光景である。
「あはは、ごめんごめん。カバンって言うなら、布か革か、色々あるけれど。布でいい?」
これには、オロチが答えた。
「ええ。あの忌々しい聖騎士の力も借りて、刺繍を施しますの。ですから布がいいですわね」
「へえ、ユリスティナ様の手も借りるんだ? これはちょっと、スケールが大きい告白になりそうねえ」
「おかーさん!」
というわけで、トントン拍子で許可はもらえたようである。
これは面白いことになってきそうではないか。
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