第60話 魔王、戦王と魔拳闘士相手にちょっと手合わせする

「……と、いけないいけない! つい相手のペースに乗るところだったわ!」


 しっかりお土産を受け取りつつ、ハッとするラァム。

 食べ物をだめにしてはいけないので、近くに控えていた兵士に預かってもらったようだ。


「ラァム。この男は別に警戒する必要は……」


「何を言うのユリスティナ! これほどの魔闘気を持つ相手、放っておいていいわけが無い! 魔王軍の幹部クラスよ!」


 おかしいな。

 余は魔闘気はなるべく抑えているようにしているのだが。

 だが、魔拳闘士であるラァムにとって、闘気を感じ取ることは得意中の得意なのだろう。

 僅かに漏れる余の魔闘気から、その全体像を推し量ったらしい。

 でも惜しいな。

 予想よりも余の魔闘気はほんのちょっぴり多い。

 百倍くらい?


「やれやれ、余は平和主義者なのだがな」


「ザッハ、しかしせっかくついて来てくれたというのに」


「良いのだ。勇者パーティの二人と、聖騎士ユリスティナが連れてきた謎の男の試合。デモンストレーションのようなものである」


 余はそう告げると、周囲で固唾を呑みながら見守る国民たちに告げた。


「貴様ら、余にはかなり腕に覚えがある。故、この場で一つ、勇者パーティであった英雄たちの力を貴様らが目に焼き付けられるよう、座興を行おう! しっかりと楽しんでいくのだぞ!」


「なんだって!? ラァムとファンケルが戦う姿を見せてくれるのか!?」


「楽しみだ!」


「でも相手の男は何者なんだ!?」


 余の今の姿は、勇者ガイを成長させたもの……をちょっとアレンジしている。

 なので、ラァムとファンケルにも、誰なのか分からぬようだ。

 そうだな、余が謎の男なだけでは、二人の格を周囲に見せ付けられまい。


「余の真の姿を現すぞ! むうん!」


 余はかっこよくポーズを取ると、デスナイトっぽい鎧を纏った。

 もちろん幻であるし、今回は金色に光り輝いている。


「そ、その鎧は!? お前は一体……!?」


 驚愕に目を見開くファンケル。


「まさか、お前は……八騎陣の一人……!? だけど、八騎陣にこんな騎士はいなかったはず」


 鋭いな、ラァム。

 よし、そのアイディアもらおう。


「ククククク、余は八騎陣、幻の欠番ナンバー、九人目であるゴールドナイト! 実は神の力も併せ持っているので、魔王軍と袂を分かって在野であったのだ!」


「そんな騎士がいたのか!!」


「だけど、危険かどうかは手を合わせて見なきゃ分からないわね!」


 ファンケルもラァムもとてもノリがいいのでやりやすい。


「さあ、掛かってくるが良い……では余の方が格上っぽくなるな。行くぞ!!」


 余は仕掛けた。

 あえて地面を走り、呼び出した剣(の幻)でファンケルに攻撃する。


「甘い!」


 ファンケルが魔槍を呼び出し、これを防いだ。

 余は上手いこと力をコントロールし、ファンケルと攻撃が拮抗しあうようにする。


「この攻撃を防ぐとは!! やるな!!」


「まだまだ! 今度はこっちの番だ!!」


 余を弾き飛ばそうとするファンケル。

 余は大体、ファンケルが取りたがっている間合いを把握して、ちょうどその距離まで自分から吹っ飛んだ。


「上手いわ、ファンケル! 行くわよ!」


 そこに飛び込んできたのが、ファンケルと抜群のコンビネーションを見せるラァムだ。

 拳に聖なるオーラを纏わせ、余に強烈なパンチを繰り出す。

 余は上手いこと殴り心地が良い様、魔闘気を調整して攻撃を受けた。

 強烈な打撃音が響き渡る。


「ぬうーっ!!」


 余は攻撃を食らった感じで、横合いまで吹き飛ばされる。

 そして、空中にとどまった。


「さすがは勇者パーティだな! ではこれはどうだ!」


 余は空中から、無数の武器を召喚する。

 もちろん全部幻だ。

 幻の中に、土作成で生み出した金属片のボールを入れている。

 この攻撃を降らせて、ファンケルとラァムが弾けば、ちょうどボールが砕けていい感じに武器を破壊した後みたいになるのだ。


「お前、ここにいる人たちごと攻撃するつもりか!!」


 いや、人がいるところで戦闘したら、敵が悪党なら普通そうなるのではないか?

 ファンケルもラァムも、許せん! という風に怒っている。

 怯える国民たち。

 だが、そんなものはデモンストレーションではない。


「ふっ! 余は観衆を巻き込むほど無粋ではない。これは貴様ら二人だけに集中的に降り注いで、国民の皆さんには一発も当たらないから安心せよ!」


「そ、そうか!」


「そ、それならいいわ!」


 ちょっとペースを崩された二人。

 だが戦意は衰えていない。


「では食らうが良い! 余の無限のインフィニティ武器庫アーマリィを!」


 降り注ぐ(幻の)武器群!

 ファンケルは槍を振り回し、ラァムは拳と蹴りでこれを叩き落していく。

 周囲のギャラリーから、わーっと歓声が上がった。

 武器は弾かれるたびに砕け散り、金属音を立てる。

 防いだ手ごたえ、音、そして見た目。

 実に映えるであろう。


「ザッハはサービス精神旺盛だなあ」


 ユリスティナが一人、感心したように呟いている。

 雨の様に武器を降り注がせ、そろそろ無くなるのが自然かなという頃合。

 余は最後の攻撃を仕掛けることにした。


「降り来たる武器を防ぐばかりで、余裕はあるまい! 行くぞ!! とあー!!」


 ちゃんと、これから攻撃するよ! と合図して、空中から二人目掛けて襲い掛かる。


「ラァム、合わせるぞ!」


「分かったわ、ファンケル!!」


 二人は視線を交し合うと、余を迎え撃つように跳躍した。


「な、なにーっ!!」


 余は驚きの声を上げておく。


「うおおお! ダブルトルネード!!」


「ダブルインパクトーっ!!」


 ファンケルの、回転する槍が。

 ラァムのジャンプキックが、余に突き刺さる!

 余と交差した後、二人が着地したところを見計らい、余は爆発の魔法を使った。


「ぬわーっ!!」


 空中で起こる大爆発!

 爆風は上に逃げていくように調整したので、ギャラリーの国民諸君には一切の被害はない。


 ファンケルとラァムが、立ち上がって見栄を切る。

 そこで、国民たちが大歓声を上げた。


「お見事!!」


 余も歓声を上げる。

 ファンケルとラァムがギョッとした。

 振り返ると、ユリスティナの隣に戻ってきた余がいる。

 鎧は脱ぎ捨てているのだ。


「ま、まさかあの攻撃を受けて……!?」


「いや、見事な攻撃であった。余の完敗である! 余は貴様ら二人こそが勝利者であると告げよう! 皆のもの拍手ー!」


 わーっと巻き起こる拍手。

 場の空気に呑まれ、ファンケルもラァムも、余を追求できなくなってしまった。


「ザッハ。どうも私は、やっぱり勇者一行はお前の手のひらの上で転がされてたんじゃないかなーと思うんだが……」


「ユリスティナ、その話は後にしよう……!!」

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