第48話 魔王、オロチにまた偵察を命じる
よし、ここはあれであろう。
ジョシュフォファットが何を考えてやっておるのか、調べてもいいかも知れぬな。
となれば、連れてきたあやつが役に立つ。
「ザッハト……ごほん、ザッハ様、何をごそごそされているので?」
デスナイトの問いに、うむ、と頷く余。
「ポケットに一人入れてきたはずなのだが」
その間に、向こうからドドドドドッと走ってくる一団がある。
「こらーっ! また暴れているのかー!!」
おっ、あれは魔界の保安機構である。
……何故先頭にユリスティナがいて、保安機構の者どもはほっぺたに赤い手のひらマークをつけているのだ。
「あれっ、ザッハじゃないか」
あれっ、ではない。
「いかにも。なんでユリスティナがこやつらの先頭にいるのだ」
「ああ、実は会った記念に、ほっぺたに一発張り手をして欲しいと言われてな。強者から与えられる痛みを体に刻み込むことが戦士の最高の誉れだとかなんとか。あー、ファンケルもそんなところがあったな」
そうかー。
保安機構の面々、ユリスティナに会ってミーハーになってしまったのだな。
そして騒ぎを聞きつけて、慌ててお仕事モードになってやって来たと。
「よろしいですかな」
保安機構の現場指揮官が進み出た。
金色の鱗に直立したトカゲのような姿。
翼が生えているこやつは、ドラゴニュートである。
魔王軍でも上位に位置する魔族であり、個体の強さによっては幹部クラスに匹敵するのだ。
「また、暴徒が暴れていたという情報を得たのですが」
「それはこちらの方が鎮圧されました」
さらっと説明するニューカム。
彼とデスナイトを見ると、ドラゴニュートはビシッと居住まいを正した。
「これはこれは、デスナイト様とニューカム様! お二人がそう仰るなら間違いありますまい。ニューカム様はともかく、デスナイト様は嘘をつかず、嘘を放っておけないお方ですから」
おお、デスナイトは信用されているな。
だが格好良く物を言っているドラゴニュートだが、頬に赤い手のひらの跡を付けていてはなあ。
「先生! ユリスティナさん凄かったんだよ! 魔族の人達を、ばしんばしーんって!」
興奮するチリーノに、当の魔族達が満足そうにうんうん頷いている。
本当に嬉しそうであるな、こやつら。
「そこで、あなたの事情をお聞きすることになるのですが……。ははあ、ユリスティナ殿のご主人で……!? なるほど、強いはずだ。納得しました」
納得されてしまった。
ユリスティナが「主人ではないぞ」と言っているがスルーされている。
さて、わいわいと騒いでしまったが、やるべき事はやっておかねばな。
「お、いたいた」
余のポケットに四次元ポケットを開けて、その中でぐうぐう寝ておった。
尻尾を掴んで取り出す。
手のひらサイズの小蛇モードである。
「オロチ、出番である」
「むにゃむにゃ、魔王様大好きですぅー」
「オロチー」
つんつんと突付くと、オロチはハッと目を覚ました。
「魔王さ」
「その呼び名はいかん。余を愛称で呼ぶことを許す」
「愛称!?」
小蛇が目を見開いた。
そして、どろん、と大きな煙を吐き出し、その中で姿を変える。
ドレス姿の、黒髪の女の姿である。
これを見て、その場にいた我ら一行を除く全員が目を剥いた。
「オ……オ……」
「オロチ様!?」
四魔将オロチ。
魔王に次ぐ存在である彼等は、よく考えてみると今の魔界のトップではないか。
周囲の魔族が、まとめて跪く。
「あら。ごきげんよう」
オロチの態度はそっけない。
そもそもこやつ、余や四魔将以外には興味が無いからな。
故に、冷血のオロチとか呼ばれて味方にも恐れられていた。
「…………ザッハ……様」
オロチは溜めに溜めて、余の名を呼んだ。
そして、頬を赤く染めてくねくねする。
「いやーん! 愛称で! 愛称で呼んでしまいましたぁ!」
「いいから。貴様にまた指令を下す」
「はい、なんなりと!」
「ちょっと気になる魔族がおってな。彼奴を探るのだ」
「はい、承りましたわ!! ついででその魔族を一のみにしてしまってもいいんですわよ?」
「そこまではな。ほら、一応選挙中であろう?」
「面倒なシステムがあるのですのねえ……。でも、他でもない…………ザッハ様っ……! が仰るのならば、わたくし、誠心誠意この任務を務めさせていただきますわぁ!!」
オロチ、大興奮。
周囲の魔族、唖然。
「行くが良い、オロチよ。またおいおい連絡をする」
「かしこまりましたわ!」
オロチは蛇に姿を変えると、そのまま猛烈な勢いでジョシュフォファットの後を追っていったのである。
「これでよし」
「ザッハ様、良くないのでは……」
ボソッと突っ込むニューカムなのだった。
その後、余とショコラとユリスティナとチリーノは、デスナイトの選挙対策本部へと招かれた。
片方に肩入れするというのはどうかなーと思うのだが、ジョシュフォファットの方が明らかにあまりにもいけない感じではないか。
「お茶でございます」
魔族の秘書のおばちゃんがお茶を出してくれたので、茶菓子と一緒にいただく。
うむ、安い茶だが淹れ方が上手い。
余はショコラを抱っこして、お茶菓子を食べさせている。
お茶は薄めて冷ましたものを飲ませるのである。
「ザッハ。私たちは向こうで買ってきたものをチェックする」
「うむ。そんなにいっぱい買ってきたのか」
「魔族をよく知るためにはたくさんの判断材料が必要だからな!」
ユリスティナめ、言い訳が上手くなってきておる。
彼女とチリーノは大きなテーブルに移動し、買ってきたものを広げてキャッキャしている。
「マウーマー」
「ショコラ、あんまりお菓子を食べるとぽっちゃりさんになってしまうぞ」
「ピャウー」
なんと、ふっくらするリスクを負ってでも甘いものを食べたいと言うのか。
だが、あまり甘いものをたくさん食べても体には良くない。
カバンから赤ちゃんようの食事を取り出す余である。
「ピャピャ、ピャアー」
「いかにショコラと言えど、お菓子ばかり食べたいのはいかんぞ。赤ちゃんのご飯を食べるのだ」
「ピャアーピャアー」
「こればかりは泣いても言うことを聞くわけにいかぬ。それにウソ泣きであるな」
イシドーロ直伝の赤ちゃんくすぐりを敢行する余である。
脇腹をこちょこちょとすると、ショコラはキャーッと言いながら笑いだした。
「おお……魔王様がすっかりお父さんになっている……」
余の姿を呆然としながら眺めるデスナイトなのだった。
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