第五章 ベーシク村の劇的なビフォーでアフター

第28話 魔王、村の守りを固める

 家に帰ると、すぐにチリーノが訪ねて来た。

 彼は開口一番に、


「ザッハ先生! さっき、なんか魔法で別のことしてたんじゃないか?」


 鋭い質問である。

 余が塀の修理中、同時進行でゼニゲーバ王国を調査していたことを言っているのであろう。


「ほう、何故そう思った?」


「うん、あのさ、いつもの先生の、ぐわーっていう感じがうすくなってたんだ。まるでその一部だけどっかに飛ばしたみたいにさ」


「おお! やるなチリーノ。正解だ。余はな、ちょっとゼニゲーバ王国を調査していたのだ」


「調査!?」


 チリーノが目を丸くした。

 少ししてから、頬を赤くして、声を潜めて聞いてくる。


「なんの調査なの? なんかまたすごいことあるの?」


「あるぞ。だが詳しいことを話すと、貴様はばらしてしまうからなあ。教えてあげられないなあ」


 チリーノは口をぱくぱくさせた。

 そして、慌てて余に弁明し始める。


「ま、魔法のことばらしちゃったのはごめんなさい! でも、こんどはホントのホントに言わないから!」


「本当かな? 言わないと約束したら、ちゃんと守れるかな?」


「守れる!」


「良かろう。では、契約である」


 余とチリーノの足元に、魔方陣が浮かび上がった。


「こ、これは……!?」


誓約ギアスの魔方陣だ。約束を破ったら、チリーノ。貴様の内腿が、ぎゅーっとつねられたみたいに痛くなる」


「ひええっ」


 震え上がるチリーノ。

 内腿をつねられる痛みを知っているのだ。

 これは恐らく、昔いたずらをして、ブラスコかアイーダにおしおきされたのであろう。

 ちなみにこの魔方陣に、内腿をつねる以上の効果はない。

 一回内腿をぎゅっと軽くつねると効果が消える。

 とても安全な子供向けの誓約ギアスなのである。


「では話してやろう。いいか。先日の魔法使いどもは、ゼニゲーバ王国の魔法学院から来たのだ」


「ええっ!? な、なんで王国の魔法使いがこっちにせめてくるのさ!」


「悪い魔法使いだからだ」


「そっか……!!」


 納得した。

 端的かつ分かりやすい説明は、子どもにはよく響く。


「そこで、余は色々調べたり、塀に魔法をかけて強くしたりしているのだ。これからショコラの担当をユリスティナと交代したら、また村のあちこちを強化して回るぞ。ついてくるか?」


「うん、行く!」


「良かろう。では、余はショコラとご飯を食べる。貴様も昼食を摂った後、この家の前に集合せよ」


「わかった!!」


 チリーノはいいお返事をすると、ブラスコの家に向かって走っていった。


「ピャー!」


 チリーノがいなくなったら、今まで大人しくしていたショコラが騒ぎ出した。

 おんぶしているから、後ろから余の髪の毛を引っ張ってくる。


「むっ、ショコラ、お腹が減ったか」


「ピャ、ピャ!」


「よーしよし。では余が腕によりをかけ、最高に美味なベビーフードを作ってやろう……!」


 余は台所へ向かい、食材との格闘を開始したのだった。




「なんと、ゼニゲーバ王国の魔法学院に!?」


 ショコラを横に座らせて、一緒に踊って遊んでいたユリスティナ。

 動きはそのまま、顔だけ真面目になって問い返してくる。


「うむ。貴様もよく知っているであろう。十二将軍ガーディアス。あやつが生きておったのだ。そして、何故か村を攻撃してくる」


「オルド村や、数々の集落を瘴気の底に沈めた、最悪の魔族だ……! 奴がここを狙っているだと……!」


 ユリスティナの全身から、聖なるオーラが炎の様に立ち上る。

 これを見て、ショコラがびっくりした。

 そして、泣き出す。


「ピャアー、ピャアー」


「あっ、あっ、ショコラ、怖くない、怖くないからな」


「そうだぞショコラ。余の顔を見よ。秘儀、リアルランダム百面相……!!」


 余とユリスティナ、必死にショコラをあやす。

 いかんいかん。

 赤ちゃんがいるところで、物騒な話をするものではないな。

 ここは口に出すのではなく……。


『念話で行こう』


『お前、また私の心に勝手に話しかけてきたな!?』


『表で話をすると色々大変であろう。あと、感情を昂ぶらせるではないぞ。ショコラが泣くから』


『うん、私も反省している。クールに行こう』


 ユリスティナはショコラを抱っこして、赤ちゃんの手のひらを優しくさすっている。

 ショコラは姫騎士の胸に頭を預けて、余のべろべろばーを見てキャッキャと笑った。

 よーしよし。


『現在、余が村のあちこちの守りを固める計画を立てている。これからチリーノがやって来るから、あやつを連れてぐるりとこの辺りを回るつもりだ』


『ぷくっ……! お、お前、べろべろばーしながらかっこいい声で語り掛けないでくれっ。ギャ、ギャップが……!!』


 ユリスティナが吹き出した。

 だが、笑いながらも、余の計画は了承したようだった。

 最終的に、ユリスティナはからめ手が苦手だからと、村の守りを秘密裏に固める計画は余に一任される事となったのである。

 その後、ショコラが疲れて寝るまで、余とユリスティナは歌ったり踊ったりした。

 ショコラはご機嫌になってパタパタ飛び回り、そのたびに何かに激突しないよう、余とユリスティナは駆け回った。

 そしてチリーノがやって来る時間となった。


「こんにちはー! お昼ごはん食べて来たよ!」


「よく来たなチリーノ。ではユリスティナ、行ってくる」


「ああ、頼むぞ、ザッハ。それにチリーノ」


 チリーノは、あの勇者パーティの一員である聖騎士ユリスティナに名指しで声を掛けられ、舞い上がる。


「が、がんばる!!」


 顔を真っ赤にして、努力することを宣言するのだった。

 その顔が赤いのは、緊張ばかりではないな?


 外に出た余は、更に四魔将に指令を下す。


『パズス!』


『ウキッ、ここに!』


『ブリザード! フレイム!』


『ここに』


『いるぜ!』


『加えて、現れよ四魔将、央のべリアル』


『お待ち申し上げておりました。我が偉大なる魔王よ!』


 さあ、魔王軍総出でのベーシク村大改造なのである。

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