第27話 魔王、色々な秘密とかを知る

 十二将軍ガーディアス。

 言わずと知れた余の元部下で、余がショコラの卵を孵したオルド村をかつて滅ぼした魔族だ。

 その後、勇者パーティのパワーアップイベントの敵みたいになって倒されたはずであったが、まさか生きていたとはな。

 しかも人の姿で、人間社会に入り込んでおるではないか。

 やるものである。

 余は感心した。

 そこで、口を開く学院長。


「確かに、ガーディ殿の仰る通りでしたな。ベーシク村はただの村ではない」


 ただの村だぞ。

 余がショコラとユリスティナと住んでいるだけだぞ。

 おいガーディアス、何を満足げに頷いているのだ。


「院長殿もお分かりになられたか。あれは、危険な村だ。この地上に残しておいて良いものではない。なあ、アンスガー」


「はい。危険なことに変わりは無いでしょう。俺が率いていた魔法使い部隊は、村に接触する事もできずに無力化されています。先行部隊との連絡は途切れ、俺が率いる本隊は謎の、子どもたちをムカデごっこで率いて来た魔法使いによって壊滅しました……! 見たこともない、水を吹き出す魔法によって!」


 アンスガーが力説する。

 子どもたちをムカデごっこの辺りで、ガーディアスと学院長が不思議そうな顔をした。


「ふむ、よく分からん者もいるようですが、強力な魔法使いがいるだけならば、その者を学院に勧誘してしまえばいいのでは? 我が学院への財政支援を妨害していたムッチン王子も、先日のドラゴン騒ぎで勢いを弱めましたからな。巷では、あの王子ほんとうはドラゴン退治して無いのでは? と言われている始末だ」


 わっはっは、と笑い合うガーディアスと学院長。

 不当に支援を妨害されていたのは確かによろしくはないな。


「院長よ。その魔法使いが曲者なのだ。わしの調べでは、そやつは先日のドラゴン騒ぎを引き起こした張本人。事実、同じ姿をした男が赤ちゃんとユリスティナ姫を連れて、村に入っていくのを見た者がいる」


 ほう、余に気づかれずにその姿を観察していた者がいたと?

 ガーディアスや、奴の手勢にそれほどの手練はいなかったはずだがな。

 それに、ガーディアスの妙に自信たっぷりな様子はなんであろうか。

 あやつ、特に強力というわけではない、ごく普通の上位魔族だったはずだが。

 得意なのは金策くらいではなかったか。

 余のことを、魔王様魔王様と尻尾を振りながらついて回って来ていた頃は可愛かったのだがなあ。


「あの魔法使いは倒さねばならん……! 奴は、ベーシク村を恐るべき村に変えようとしている。この平和な時代に、それは危険な行いなのだ! そのような危険を排除するために、わしはお前たちに出資しているのだ!」


「確かに、ガーディ殿の出資には感謝しております。あれがなければ、学院もとっくに無かったでしょう。謎の出資者からの支援が途絶えてから半年……、苦しい日々だった」


 すまんな。

 余が卵を温めている間、出資できなかったからな。

 その後、窮地に陥った魔法学院を救ったのがガーディアスだったという訳か。

 しかしガーディアスめ、何も具体的なことを言っておらんではないか。

 抽象的な言葉と、出資者という圧力だけで押し切るつもりか。

 余はそういうの嫌いだな。


『魔王様、魔王様! ガーディアスが何かぶつぶつ言っています!』


『おっ、でかしたぞオロチ。聴覚を強化する故、聞き取るのだ』


 オロチが耳を澄ませた。

 ガーディアスは、人には聞こえない、魔力に載せた音域で何か呟いている。

 それは……。


『見つけましたよ、魔王ザッハトール……!! 我ら魔族を裏切った罪は重い……! 魔神の後ろ盾を得た今、わしはあなたをこの手で倒す……!!』


 わっ、なんか核心めいたことを言ってるではないか。

 余が卵を温めている間に、世界は動いていたというのだろうか。

 なんだあやつ、昔あれほど余に懐いていたのに、言葉に込められた思いは憎しみではないか。

 魔族も年をとると変わるものであるなあ。

 上位魔族的には、数百年という年月はそれなり長いからな。


『ギギギ!! 許せませんわガーディアス! たかが上位魔族の分際で魔王様を倒すだなんておこがましい!! 魔王様がお許し下されば、わたくしがこの場で都市ごと焼き払って……』


『おっ、もういいから戻ってくるのだオロチよ。事の黒幕も分かったからな。あやつ、何をしようと近々に余の元へとやって来るであろうよ。そうなれば、余が直々にあやつの本心を問いただしてくれるわ』


『ええー……。魔王様がそう仰るなら帰りますけどお……はっ!? や、やはり魔王様、わたくしの顔が早く見たいから帰ってこいと仰ってる!? いやーん! オロチ困っちゃう!』


『早く戻って来るのだぞー』


 余はおざなりにそう伝えると、オロチを部屋の外へ脱出させ、通信を切った。

 四魔将の中でも、オロチと長く会話していると気疲れするな。

 余が生み出した使い魔のはずなのになー。

 なんであんなになっちゃったかなー。





「ザッハさん! ザッハさーん!」


「むっ! おっと、すまぬな。目を開けたまま居眠りしておった」


 村人に声を掛けられて、余はこちらに意識を戻した。

 無意識下で行っていた、塀の穴塞ぎ作業はほとんど終了している。

 余は要所要所でサポートしただけであったが、村人たちの手際が良かった。

 あとは一昼夜ほど放置すればしっかりと固まるであろう。

 どれ、おまけでこの穴を媒介にして、塀に自律防衛機能でも与えてやるか。

 塀よ、貴様は今から塀ゴーレムであるぞ。


『ヘイ!』


「わっ!? なんか変な声が聞こえた!?」


「なんだなんだ」


 いかん、喋る機能を与えてしまった。

 まあ良いか。

 世の中、喋る塀が一つや二つはあるものであろう。


「ピョ? マウマウ、マーウ」


『ヘイ、ヘイヘイ』


 あ、ショコラが塀と会話し始めてしまった。

 もう、空耳とかそういう次元じゃないくらい、しっかり喋ってる塀。

 村人たちが青い顔になり、「魔物じゃないか」「どうしよう」なんて騒いでいる。

 うち、子どもたちは余の元に群がり、「先生!」「魔物やっつけて、先生!」とか言うのだが。

 余はしゃがみこみ、子どもたちに言って聞かせた。


「あれは余が命を与えたので、塀がとても強くなったのだ」


 彼らは魔法たるものを理解し始めているからな。

 真実の一端を教えておいても良かろう。


「喋るが気のいい塀なので、たまに話しかけてやると良いぞ」


「おおー!」


「先生すげー!」


「塀かわいい」


 子どもたちの理解力は凄いな。

 その後、余は村の大人たちに、「塀の補修に使った部材が固まる時に音を立てるものなので、時々鳴るが気にするものではない」と説明し、余の人徳を以て納得させたのである。

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