第20話 魔王、パーティの続きを始める
外から帰ってくる音がしたので、余は魔法を解いたのである。
小さき人々は、興奮に頬を真っ赤にし、余に駆け寄ってくる。
「すごいすごい! とんじゃった! なにしたの!?」
「まほう? まほう?」
「グハハハハ! その通り! 余の魔法である……!! 大人には秘密だよ……! 魔法の効果が無くなってしまう故な」
小さき人々はコクコクと頷く。
チリーノもまた、びっくりはしたものの顔が赤くなっている。
興奮したようだ。
子どもは空を飛ぶのが好きなのだ。
これは余が千年間魔界の子どもをリサーチしたデータなのである。
「すごい……けど……。これってどういう魔法なんだ? っていうか、こんなにすごい魔法を使えるなら、勇者パーティに入ってたら良かったのに」
チリーノが鋭い疑問を投げかけてきた。
いいぞいいぞ。
余は頭がいい子は大好きだぞ。
だが、世の中突っ込んではいけない疑問というものはある。
「余は、勇者パーティを影から支援しておったのだよ。表立ってできぬ理由があってな」
嘘はついていない。
いや、余ほど勇者パーティを強力に支援した者はおらぬであろう。
事実、魔王が倒され、魔と人の間の戦いが終結したのは、余の働きによるものだと言って過言ではあるまい。
始めたのも余だけどね。
「そ、そっか……。つまりザッハさんって、影の勇者だったんだな……!」
おや?
チリーノの目から疑念の色が消えていく。
何やら、余を尊敬するような眼差しになりつつあるではないか。
この年頃の男の子にとって、正義の勇者パーティを影ながら助ける謎の助っ人というキャラは、琴線に触れるものであったようだ。
「広い意味ではその通りである。故にチリーノ、貴様は余を警戒する必要などないのだぞ」
余は優しく微笑んだ。
この笑顔の前では、魔王軍の並み居る幹部たちですら冷や汗を流し、直立不動になるという癒しのスマイルである。
ほれ見ろ、チリーノも釣られて笑っておる。
「ピャー!」
そこへ、未だに空をパタパタ飛んでいるショコラが飛び込んできた。
余はスッとショコラの羽を幻で隠す。
アイーダが帰ってきたのはちょうどその時だった。
「何にも無かったみたいだねえ? 旦那も無事だったし、お猿さんからチキンをもらってのんきにパクついてたよ」
「ブラスコ殿に何もなくて良かったではありませんか。しかし、お二人は夫婦仲もよろしいようでうらやましいです」
「そうかい? ユリスティナ様だって、ザッハさんとお似合いだと思うけどね? ショコラちゃんも可愛いし、いい家族になると思うよ?」
「むっ、それは……」
ユリスティナが複雑そうな顔をしておるな。
魔王と聖騎士がお似合いだというのは、余としてもどうなのかなーとは思う。
だが、まあそう見られているならそれで良いのだ。
「重要なのはショコラをどう育てるかであるからな」
「マウー!」
ショコラがよだれを垂らしながら、余の腕をバンバン叩いてはしゃいだ。
そして、パーティは再開となった。
小さき人々はショコラを交えてわいわいと遊び、余が用意した食事も大いに食べて飲んだ。
チリーノの妹などはお姉ちゃん気分になり、ショコラを小さい膝の上に載せて、赤ちゃん用チキンなど食べさせているではないか。
ショコラは何でも大変良く食べるので、食べさせる側としてもやりがいがあるぞ。
「ショコラたん、いっぱいたべうー」
「ピャ、ピャ!」
チリーノの妹が大喜びである。
末っ子である彼女は、より小さき人がいるのが嬉しいのであろう。
一方、ユリスティナはアイーダと話し込んでいる。
どうやら縫い物について相談しているようだ。
「ユリスティナ様はあれだろう? 形を整えて縫い上げるのは苦手だけど、
なにっ。
ユリスティナは刺繍が得意なのか!
意外な特技である。
「刺繍は王女の嗜みとして学んだのです。教養の一環であり、古き伝説を貴き血を持つものが縫いこんで行く。これによって、ホーリー王国の伝承は語り継がれるのだそうです。だが、今の私はショコラのお洋服が作りたい……!」
「仕方ないねえ。ユリスティナ様には、基礎の基礎から教えていかないとね! 戦に使うような無骨なしつらえは必要ないのさ。刺繍で針と糸を使う基本はできているから、すぐに上手くなると思うよ。あたしの手が空いたら、このアイーダの技をたっぷり教えてあげるよ!」
「おお……!! 感謝します!!」
ユリスティナは、村の奥さんたちと話す時に敬語になるのだな。
さて、この間に、余はパズスから報告を受けるとしよう。
ユリスティナたちと共に戻ってきたパズスは、チリーノの弟と遊びつつ、念話で余に言葉を伝えてくる。
『魔王様、どうやら人間の傭兵みたいですねえ。どこの息が掛かってるとか、そういうのは分からないようになってたんで、こりゃベーシク村を狙った陰謀が動いてますぜ、ウキキッ』
『ほう? 余が住まうこのベーシク村を狙う、とな? 何者かは知らぬが、今やベーシク村の守りは魔王城のそれと変わらぬ。勇者パーティ無くば我が城に近づくことすらできなかった者たちが、この村をどうにかしようなどとは笑止千万よ』
『そうですなあ。んで、一応魔法を遠隔砲撃してですね、中級爆裂魔法で一掃しておいたんですけど……ここ、めちゃくちゃ静かな村でしょう? おいらもびっくりするくらい響きまして、ウキッ』
『うむ。余もちょっとびっくりした。これは、静かに対象をお掃除できる魔法を開発せねばなるまいな』
『それがいいと思いやす! 後ですね、おいらだけだとさすがに手が足りないので、他の魔将もそろそろ出動をお願いしたいんですが……。いや、おいらが村を歩くと、子どもたちが遊ぼう遊ぼうって誘ってくるので』
『確かに。貴様があまりにも何でもできて便利なので、色々お願いしてしまっていたな。よし、
氷の騎士と炎の騎士は、二体で一対の魔将である。
なので、四魔将はよく、五人揃って四魔将などと呼ばれる。
こやつらは余の言うことを大変よく聞くので、オロチのような暴走事故は起こすまい。
思案する余の裾を、ちょいちょい、とつつく者があった。
チリーノである。
「あの、ザッハさん」
何やら、決意したような顔をしている。
「何かね、チリーノ」
「俺に……俺に魔法を教えてくれないか? 俺、強くなって、父ちゃんの手伝いをしたいんだ!」
七歳の少年が、魔王に弟子入り志願なのであった。
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