閑話 その1

第18話 スキル、そして魔法について

 スキル、そして魔法について。


 スキルは生まれ持った才能と言えるものもあれば後天的に身につけることができる技量と呼べるものもある。


 即ち人は誰しもが皆何かしらのスキルを持つことができ、もし自ら望んだものを手にすることができるのであれば、人々は今より尚幸福な生活を送ることができるのではないか。


 それを我が命題とし以後多くの後人が現れることを願って、以下に研究の一端を記す。


 ――筋力補正――

 筋力補正【剣】、筋力補正【斧】など、その他多数。


 これは何か特殊なことができる、というものではなくその武器を使う際に自信の筋力に強化補正がかかるというもの。

 所謂“自分にとって使いやすい”武器があると身につけやすく、磨きやすいスキル。


 ――筋力強化――

 自身の膂力りょりょくを一時的に強化するスキル。


 意図的に発動するものや半ば無意識に常時発動しているものなどその形態は様々。

 その上昇率や上昇部位――例えば脚力のみなど――も個々人の素養や鍛錬によるものが大きい。


 ――探索術――

 洞窟や森などで方角を知る、或いは何か強い反応を示す場所を特定するもの。


 冒険者にとって有用なため身につけているものも多い。


 何かしらの道具を用いて対象の在処を探るものや、自身の感覚を強化し周囲の様子を探るものなどこれも一口に『探索術』と言ってもその系統は多岐にわたる。


 ――魔法――

 魔法というものは触れもせずに対象を燃やしたり、物体を宙に浮かせたり、時にはそれ以上の行為を可能とするものであり、一見人間の力の領域を超えているようにも思えるが実際には異なり、『魔法』もまたスキルの一種である。

木火土金水もっかどごんすい』――世界を構成する元素は常にそこに在る。

 水面に波を立てるように、世界そのものに触れてそれを揺らす力――それを成すものが『魔法』と呼ばれるスキルである。


 無論、それ自体は確かに特異な力ではあるものの世界にあるものを使うだけなのでその理屈を知ることができれば決して不可能なことではない。

 力の大小を問わなければ誰しもが身につけることができる可能性があり、実際に研究の進んだ現代ではもはや基礎として『魔法』を身につけている冒険者は多い。


 代表的なものに火炎魔法や水魔法、そこから派生した氷結魔法などがある。


『詠唱』について。


 多くの魔法使いと呼ばれるものが身につけている技能。

 前述の通り魔法は世界そのものに触れる行為であり、そこには高い集中と精神力が求められる。

 自己を世界と一体化させるため『詠唱』という行為を選ぶことが一般的だ。

 言葉は人の中から発せられ、形なく世界に溶けていくものであり、世界と自己とを繋げるには最適とされるものだからだ。


 詠唱は研究の結果、効率の良いとされるものがあり、学問として魔法を学ぶものは教本からそれを読み解く。

 しかしその魔法使いの技量や嗜好にもよる要素も強いため、仮に同じ『火炎魔法』に分類されるものだとしても一概に決まったものではない。


 誰もがあらゆる魔法の発動時に詠唱を必要とするわけではない。


短詠唱ショートカット』と呼ばれる行為がそれにあたり、使い慣れたものや簡易な魔法であれば詠唱を飛ばして発動を可能とする魔法使いは多い。


 当然世界との同調と呼べるものを省いたものなのでその安定性や威力は詠唱を含めたものと比べると低下する傾向にあるが技量でそれを補うことができるものもいる。


 また、独自の研究による開発や一族にのみ伝わる魔法も存在する。


 人の心を小さな箱に閉じ込めるという魔法。


 空に浮かぶ真鍮の船を造るという魔法。


 砂埃を粉雪に変えるという魔法。


 魔法という概念は大樹の枝葉の如く多岐にわたり、それを全て解明したものは未だいないだろう。


 故に私はそれを知りたいと思う。



 ――――最後に、とある魔女の魔法について。


 詳細は不明。


 源流は不明。


 何処より生まれ、如何にして磨かれたか一切は不明。


 曰く――それは七つの窯。


 曰く――それは七人のもの。


 曰く――それは今や一人の為に。


 姿は見えず、形も掴めない。


 その癖、まるで自身に付きまとう影のように『魔法』ということを知るたびに、ふとその存在を感じることがある。


 何れにしても私の歩む道の先にそれは必ずあるような気がして、いつかはそれに出会うことがあるのではないかという予感のようなものを感じている。


 それが幸運なことか、そうでないかは今の私にはわからないことであるが。


                       ――ある古びた手記より。

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