核心に迫る

 ソフィが子牛に揉みくちゃにされ、その他も本体に攻撃されまくってボロボロになったけども、なんとか撃破して山を下りてきた。さっさと担いで下りてきたからソフィも「快楽堕ち」することなく、そのままジータの家のベッドに寝かせてやった。それ以外の四人はいつも通りジータの店先でティータイムに入る。


「今回は本当に強敵だったね……」


 ジータがハンマーの手入れをしながら言う。確かに前線で戦っていたジータは全裸になるまでダメージを受けていたし、クララも何回か攻撃がかすっただけでもうすぐで下着が破けるくらいまでになっていた。アナも遠くにいたのでダメージはなかったものの、魔法の使いすぎて冷や汗をたくさんかいていた。


「身体中いたーい」


 クララも子供なのに問答無用で攻撃されるしな。ソフィが正常に参加してくれてればまた違うんだろうが、正直機能する気がしない。


「今後はあんまり強い敵が登場しないといいんですけど」


 アナはそう言うが、残念ながらそんなことはないだろうと俺は確信していた。


「なあ、ちょっと俺思ったんだけども」


「はい、なんでしょう」


 三人の注目が俺に集まる。


「俺とアナがゆうわくの森で最初に遭ったのが一番弱いタチバックウルフだったよな」


「は、はい。正直あんまり思い出したくないですが覚えてます」


 俺がこの世界にリスポーンして最初の敵だった。もっと言えば「アナに助けてもらうチュートリアルイベント」だった。


「そして次がゴブリン、そしてスライム。いずれも強さとしてはウルフより強いくらいじゃないか?」


「まぁ確かに……ミスリルの盾があるから手こずったけどゴブリンは弱い方だし、スライムは一定ダメージを与えたら勝手に消えちゃうからね」


 ジータが付け加えて説明する。


「そして今回のウシオニ。こいつは明らかに強い方の淫魔だよな」


「そうだけど……結局ヒロキは何が言いたいのよ」


「だんだん強くなってるんだよ。敵が」


 そう言うとジータもアナもはっとした表情をした。


 ……おいそこのお前、「そんなの誰でも分かるわバーカ!」と思ったな。確かにRPG的に考えりゃだんだん敵が強くなってくのは当たり前だ。


 でもな、俺らは生身で戦ってる。目の前の敵を倒す以外は基本的に考えてないんだ。レベル上げとかいう概念もあるのかないのかよく分からん。この「リアル」でゲームの当たり前に気付くのがどれだけ難しいか。


 ましてや元々この世界に住んでるアナやジータが気付けるわけもない。さっきのアナのセリフでよく分かった。


「つまり……どーゆーことー?」


「次の敵はさらに強いってことだ」


 これはある意味俺らのパーティにとっては絶望的な話だ。ウシオニでこれだけ苦戦しているのだから、それ以上ではもう勝ち目がないと言っても過言ではない。


「もっと言えば、恐らく淫魔石に近付くほど淫魔が強くなっている。恐らく淫魔石に辿り着いた時にボス……つまりここの淫魔のリーダー格みたいなのがいるんだろうな」


 これもRPGでは常識中の常識だ。どんなやつでどんなレベルなのかは計り知れないが、異世界人である俺だけはそれを知っている。


「なる……ほど」


 お茶会は一瞬にしてお通夜ムードになった。うーん、この話をすべきではなかったかなあ。でも情報共有は一応しておきたい。


「もっと言うとこの前ジータが言ってた上級淫魔とやらがいる可能性が高いと思うぞ」


「……どうしてそう思うの?」


「一つはお前らも知ってる通りミスリルの盾の件。そしてもう一つは今言った『だんだん強くなってる』ことだ」


「だんだん強くなることが理由?」


 ジータは分からないと言うように眉間に皺を寄せる。


「ジータとアナが言ってたろ、下級淫魔に大した知性はないって。その淫魔どもがだんだん強くなるように並ぶなんて不自然だろ」


「……まあたしかに」


「そう考えると辻褄が合うんだ。山に誰も入ってこないようにタチバックウルフを見回りとして麓に配置して、俺らがタチバックウルフを倒したことで指示役が気付いてミスリルの盾をゴブリンに持たせて突撃させた。それでも止めきれなかったのをウルフが見つけてスライム地帯に誘導させて性のエネルギーを淫魔石に吸収させ、さらに奥に待機している一番強い淫魔に力を与えて倒そうと待ち構えている……それこそ人間並みに考えてなければできない芸当だ」


 俺の長々とした説明に三人は黙って聞き入っていた。アナはアゴに手を当てて少し考え込む。


「……上級淫魔が淫魔石の近くにいるとなると、余計に私たちではどうにもならない気がしますね……」


 ほう、上級淫魔ってそんなにも強いのか。


「ウシオニでさえランクで言えば下から数えた方が早いからな」


 ……まあこの村はRPGで言えば一面だしなんとなくそんな予感はしてたけども、今の戦闘力でそれを聞くとたしかにかなり無理がある。


「どうしましょうか、ヒロキ様」


 三人は判断を仰いでいるのかじーっと俺の顔を覗き込む。うーん、本当のゲームなら雑魚狩りしてレベル上げるんだけどなあ。


 そもそもこの世界でどこまでが元のゲームのシナリオ通りなのかすら分かっていない。上級淫魔とやらがこんな序盤から関わってくるって、なくはないだろうけども……。


「正直今のところはなんとも言えないが……。とりあえず行けるところまで行ってみるってもんじゃないか」


 分からないからってじっとしてるのもさすがに意味がないからね。とりあえず道筋を明らかにしてから対策を練った方がいいと思う。


「そーしよー!」


 クララが元気に同意したので、これにて中身のない作戦会議は終了となった。



 ……だがこの時まだ俺は知らなかった。そんなに甘い世界ではなかったことを。

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