うっしっし(激寒)
朝、ソフィを加えたフルメンバーを連れて数日前にスライムに遭遇した高台へと向かっていた。クララのときみたいに何が強化されたかを調べる工程を飛ばしているのは回復役であればそこまで恩恵がなくとも問題なかろうという判断だった。
「それにしてもソフィの能力は何が上がったんだろうな」
「わからない……今のところ、身体に違いはない」
ソフィはステッキを振ってみたり手をグーパーさせてみたりしているが、体の動き方には特に何も現れていないらしい。クララやジータみたいに身体機能が強化されていれば分かりやすいんだけどな。
「どうせ上がるなら、体力か回復力がいい」
ソフィは相変わらず眠そうな声をしているが、一応は回復役としての務めを分かっているらしかった。まあアナたち曰く魔法の実力はあるらしいからな、楽しみにしておこう。
「さて、この辺りがスライムに襲われたところだけど……」
身の軽いジータとクララが先行して辺りの様子を伺う。
「特に何もいないみたいだよー」
クララの言う通り特に何の気配も感じない。隠れて迎撃しにくるわけでもなさそうだ。
「これだけ静かだと逆に怖くなるな」
油断は禁物と気を引き締めながら斜面を一歩一歩登っていく。……と、急にぱっと開けた場所に出た。
「ここだけ綺麗に木がないね。それにすごい真っ平」
まるで運動公園であるかのように綺麗な原っぱだった。
「見てみてー! 村がすごいよく見えるよー!」
山の下の方を見てみると、確かにこの原っぱはかなり高いところにあって村が一望できた。ちょうど村の裏側にきたような形だ。
「山の中腹にこんな場所があったのですね」
地元の人も知らない山中の謎の原っぱか……。これは何かにおうな……。
「……っ! 何か聞こえる!」
突然ジータが森の方を振り返ってハンマーを構える。俺たちもそれに従っておのおの武器を構えて緊張を走らせた。
「ンモオオオオオ!!!」
低い太い声を響かせながらそいつは広場へと突進してきた。鳴き声といい見た目といい、こいつは牛……なのか?
「ウシオニです! かなりランクの高い淫魔ですよ!」
ウシオニってことはやっぱり牛なんだろうな。二足歩行でムッキムキの体、それこそ鬼みたいな顔。さらに言えば、身長が軽く五メートル近くはある。
「協力して戦えば倒せるはずだ……いくぞ!!」
俺とジータは正面からダメージを加えに行き、クララは飛び回って反撃を受けないように攻撃する。アナは一歩下がって遠距離で魔法を打ち込む。やっとゲームの戦闘らしくなってきた。
「おらあっ」
振り下ろした剣からは一応手応えはあるんだけども、相手の大きさが大きさで効いてるように感じない。それはハンマーもナイフも魔法も同じことだった。
「ンモオオオオオッ!!」
「うぐっ……!」
「ジータ! 大丈夫か!?」
ウシオニが振った右腕にかすってジータが一旦退く。
「なんとか大丈夫」
まだ服も脱がされていないし、最小限のダメージで済んだらしい。これは割と早い段階で回復が必要になるかもな……。
「ってあれ? ソフィどこ行った」
そういえばこの広場に着いたあたりからソフィの存在を認識していない。軽く周りを見るが少なくとも俺たちの近くにはいない……。
「あ、あそこです!」
アナが指さしたのはさっき登ってきた方。その広場の入り口のところにソフィは杖をついて立っていた。
「おーいソフィ! そうはいってももう少し近くに来いよ!」
剣を振るいながら話しかけるも反応がない。それどころか首をかくんかくんして目を瞑っている。
「完全に寝てます!」
「何やってんだソフィーっっ!!」
戦闘中に立ちながら寝ていることに突っ込む俺だったが、それと同時によく分からんものも目に飛び込んできた。何やら小さいものが三つほどソフィに近付いていたからだ。
それはよく見ると……小さい牛だった。牛ってことはつまり敵か!?
「かわいい~!」
「言ってる場合か!」
見た目は確かにゆるキャラっぽいし身長も50センチくらいで脅威に感じないが、わざわざソフィに近付いてるあたり何かあるぞっ……!
「おいソフィ! なんだかまずい気がするぞ!」
慌ててソフィの方に行こうとしたその時、急にウシオニが機敏に動いたかと思うとソフィとの間に割り込んだ。なるほど、俺たちをソフィに近付けないつもりってわけか……。
「早いところこいつを突破してソフィに近付くぞ!」
「了解です!」
俺たちがウシオニと交戦している中、赤ちゃん牛たちはよちよちとソフィに辿り着いてそして……ソフィのおっぱいにとびついた。
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