これが一面ボスってヤツらしい
翌日、相談して決めた通り偵察のためにまた山登りをしていた。昨日もそうだったがタチバックウルフなどの雑魚敵はもうほとんど見られない。序盤は本当にただの山登りだ。
「そういえば一つだけ気になってたんだけどさ」
「どうしました?」
てくてく歩いてる途中でふと思い出したことがあった。それは今一応の目的にしている淫魔石についてである。
「アナは最初に淫魔石が山の上にあるって教えてくれたよな」
「はい。今まさに向かっていますしね」
「なんで淫魔石の場所が分かってるんだ?」
最初に話を聞いた時は右も左も分からなかったから「そういうものか」と思っていたけど、よくよく考えたら変だ。淫魔石の場所を知っているということは淫魔石に本人が行ったか、あるいは誰かが行ったのを他の人に教えたということになる。
それに対して答えたのは意外にも最年少のクララだった。
「あー! それ教科書にのってたー」
「教科書?」
「はい、村のなりたちやおおまかな過去の出来事は学校で習います。かつて勇者様が淫魔石を砕いたことも教科書に書いてあるんです」
なるほど。そういえば淫魔石は時間が経つと復活するとかいう話だったな。
「……ってことは、淫魔石は砕かれても同じ場所にリスポーン、つまり再び現れるってことか」
「そうとも限りません」
「え、そうなのか」
「記録では淫魔石が復活できないようにその場所を埋めてしまったり、結界を張ったりすると別の場所に復活した、とされています」
つまり物理的に復活を阻止するのは不可能ということか。そして逆に言えばそういったことをしない限りは同じ場所に復活をする、と。
「ちなみに淫魔石の場所は最初村の中にあったのが、埋め立てたら村のはずれに、また埋め立てたら森に、また埋め立てられたら山の上に……ってどんどん訪れにくいところに変わっていってるんだよな」
前で見張りをしているジータも振り返ってそう付け加える。復活を阻止しようとすればするほど破壊が難しくなるってことか……タチが悪いな。
「そういうことなので前回の勇者様はあえて魔導石の復活する場所を残して変なところに移動しないようにしたんですよ」
山の上以上に破壊しにくい場所ってもはやどこなんだろうか。地中か? 何はともあれその勇者は頭いいな。
「じゃあさ、前回の勇者の時の淫魔の様子とかは書いてなかったか。相手の弱点とかが分かればめっちゃ戦いやすいだろ」
せめてボスの行動パターンとかが分かれば攻略しやすいんだが。ゲームの要領で。
「それが……淫魔石の場所以外は記録がないんですよね……」
「ええっ、そこまで過程が分かってるのに??」
「何せ前回と言っても131年前のことですから」
ええっ、そんな設定なのかよ。ゲーム時代にこの設定絶対出てこなかったろ。クソ、なんか転生する人間に対してメタ攻撃されてるみたいでウザいな。
「だとしたらやっぱり敵だけ確認してさっさと帰った方がいいな……」
「そうですね……あ、やっと昨日の広場に着きましたよ」
淫魔石について延々と語っているうちにウシオニと戦った広場まで上がってきた。ここから先は100%初見だ。
「ソフィ、今日は寝るなよ」
「……善処する」
不安だがまあいい。最悪ジータにおぶって帰らせる。
ウシオニが出てきたさらに登る坂へと向かっていく。ここは淫魔が通るからなのか前の勇者とやらが整備したのか、若干木と木の間隔が広く、道みたいになっていた。そして……
「ヒロキ、あれ!」
ジータが見つけたのと俺が見つけたのはほぼ同時だった。あと500mくらい一直線に行った崖に明らかに「ファンタジーですよ」というような石の扉が見えた。
「あの中ってわけか……」
「クララが先に見てくるよー! ……ってうわわっ!?」
クララがその身軽さを活かして木々の上から進もうとしたときだった。クララの声が頭上で止まり、戸惑ったような声が聞こえる。
「どうした?!」
「なんか……草が絡みついてきてるよー」
敵か……!? そう思ったときには既に周りの木という木がぐねぐねと動き出して大小様々な枝葉を俺たちの周りにくねらせていた。
「既に囲まれてんじゃねぇか……」
他の淫魔が一切いなかったのも誘い込みの一環だったというわけだ……。
「きゃあっ!?」
「っ! アナ!」
枝葉は縦横無尽に動き回って一瞬でアナの足を掴んで空中にぶら下げる。ジータとソフィもその5秒後にはツタの餌食になっていた。
「クソ……離せっ……!!」
もがいてももがいてもツタは解けない。むしろどんどん他のツタが加勢してきてがんじがらめになっていた。
「キシャーッッッ!!」
耳が痛くなるような高い鳴き声と共に、ツタの中からラフレシアみたいな巨大な花が姿を表した。花の中心にはキバの生えた口……これがこの淫魔の顔ってわけか……。
「この野郎! こいつらを離せ!」
そうやって勢い勇んで暴れ回るツタを切り刻もうと剣を振り上げた時だった。
ゴオッッッッ。
すごい風圧と共にぶっとい枝がしなりながら近付いてくるのが見えた。それを認識した時には既に遅し。
メリッと自分の頭が砕ける音がして、俺の意識はプツリと途絶えた。
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