高飛車女剣士さん

「断る」


 開口一番それだった。まだ俺「お願いがあるんだけど」までしか言ってない。


 ジータの言う「強い人」というのは正統な鎧を身に纏い美しく長い蒼色の髪をなびかせながらレイピアを振るう、俗に言う女剣士だった。俺が話しかけようとしてもいっこうに剣の練習を中断しない。近付こうものなら(多分わざと)切っ先を向けられる始末だ。


「そこをなんとかお願いできないかなー……」


「断る。そもそもそれはその男が言うべき言葉だろう。ジータは黙ってろ」


 ひええ……こんな目に見えて高飛車な人いるんだあ……。まあゲームの中と言えばゲームの中なんだけどさ。


「彼女の名前はイルナって言ってこの村一番の剣士なんだよ。でもこの調子だから誰とも仲間にならなくて、一匹オオカミで淫魔を倒してるのさ」


 ジータは小声で俺に耳打ちをする。確かに一番の剣士とか言われちゃあ仲間にしたい気持ちはする。でもこの手の輩には関わりたくないなと思う俺もいた。でもまあ仕方ない、せっかく来たんだから一言だけでも声をかけるか。


「あー、一応勇者をやってるヒロキって者なんだが……あ、アナとかこのジータとかと一緒にやっててな。……だからそのまあ、俺らの仲間になってくれたらものすごく心強いなーとか思ったんだけど……ハイ」


 駄目だ、俺こういう緊張する場面苦手だったわ。高校入試の面接とかテンパりすぎて五回くらい聞き返されたもん。俺にこんなことやらせちゃダメだよ。


「……」


 俺がニヤニヤしながら変な言葉を口走ると、意外にもイルナは手を止めてこっちを向いた。なんだ、意外に素直ないい子じゃないk


「本気で言ってるのかしら」


 おいおい、急にのどに切っ先突きつけちゃダメでしょ。一つ間違ったら刺さるよ!? 剣士がそんなことしてていいの!?


「え、えーと……」


「私は私より弱い人間と組むつもりはないから。私を仲間にすると言うなら私を倒してみなさい」


 ほらね、めんどくさいことになった。まだゲームの世界に来てから一年も経ってないのに本職剣士に勝てるわけないやんけ。さっきの練習もガチで相手を殺しに行く剣さばきだったし。


「す、すみません……出直してきます……」


 なんでだ……こんなはずじゃなかったんだけどな……。このエロゲ攻略ハードモードか??


「軽い気持ちで話しかけないで。迷惑だから」


 はいほんとすみませんでした僕なんかが生きててすみません申し訳ありません。



※ ※ ※



「ってわけなんだよ」


「イルナさんなら仕方ないですね……」


 アナにも同情の目を向けられる。あいつの気難しさは誰もが知ってるんだな。


「つーわけで他に誰かいないかね。もうちょっと話しかけやすい雰囲気の人でさあ」


「話しかけやすい雰囲気の人……」


「うちのメンバーが今物理攻撃三人と魔法使い一人でしょ? バランス的にもう一人は魔法使いがいいよなあ」


 あんまり高望みはできないとはいえ今適当にパーティを組んでしまうとあとあと大変そうだななどとソシャゲ中毒者の俺なんかは思ってしまうのである。


「あ、いました。魔法使い」


「え、ほんとか?」


「ただ……その子も少し難がありまして……」


 またか……。って言っても背に腹は代えられない。とりあえず目で見てみて駄目そうだったら諦めよう。そんな感じでまた後日日を改めてアナにその人のところへ案内してもらうことになった。いったい難ってどれだけの難なんだ……。

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