エロゲにおける倫理観#とは
「まったく、災難だったなぁ。おかげで腰が痛いよ」
ジータはベッドの上で目を覚ますとケロリとした顔で上半身を起こした。アナといいジータといい……もう少しショックを受けててもいいと思うんだが。
あのあとジータの店の裏にある倉庫じゃない方の建物、まあつまりジータの家に帰ってシャワーで汚れを洗い落とし、ベッドに寝かせて様子を見ていた。二時間くらいしてようやく起きたと思ったらこれだ。
「ジータちゃん、まだ動いちゃダメだよー。疲れて倒れてたんだから。はい、あったかいミルク」
「悪いねー。ごめんね? 最初の戦闘がこんな感じになっちゃって」
「いやいや、謝らなきゃならなのは俺らの方だ。もっと早く助けなきゃいけなかったのに」
「だっはっは! そんな人が死んだみたいな顔しないでよー! 戦闘にレ◯プはつきものなんだからさ!」
そうあっけらかんと笑い飛ばされると己の倫理観がヤジロベエ並みに揺らぐ。……とりあえず性犯罪系のことについてはこの世界では寛容なのだろうか。
「とにかく今日は休まなきゃダメだよ。お店の前の看板、もうclosedにしてきちゃったからね」
「はいはい。アナは心配症だなあ。仕方ないから今日は一日ゆっくりしてるよ」
ジータは頭の後ろで手を組んで、もう一度ベッドに横になった。確かにジータは元気が取り柄だが無理をし過ぎるタイプな気がするからな。頑張りすぎないように見張っておかなければいけないかもしれない。
「……それにしても、なんであいうらはミスリルの盾なんて防具を持ってやがったんだ?」
ジータやアナの反応を見てもそれはどうやら珍しいことらしかった。あの毒矢にしたってそうだ。一体あのゴブリンの群れはどこからそんな知能と武器を得たのか。
「それは、分かりません。……だからこそ私たちが冒険者として理由を暴かなければいけませんね」
アナはさして考えることもなくそう言った。まあ確かに考えるには材料があまりにも足りない、か。あれこれ考えるだけ無駄なのかもしれない。
「まあ不測の事態があったとはいえ、重ね重ねすまないな。手伝ってもらうのは店が開く前って話だったのに、店に出れなくなっちまって」
「いーのいーの。あの時油断した私も悪いし。もっとハンマー極めて敵を全員なぎ倒せるように頑張るからさ」
ジータはそう言いながらちょっと苦い顔をする。レ◯プに関しては特に何も思わずとも、勝負に負けたことには悔しがっているようだ。そ、そういうものなんだろうか。
「本来はジータにばんばん前衛に出てもらって俺らが周りを警戒してなきゃいけないんだが……何せまだ慣れてないからな……」
「慣れてないなら特訓して慣れてくれよー」
ジータはからかい半分といった感じで言うが、本当にその通りだとは思う。実践を重ねていく上で俺も慣れないといけない。
「そろそろお昼ですし、軽くご飯を作ってきますね」
「ああ、頼む」
アナはジータの介抱をテキパキこなすだけでなくちゃんとやるべきことを探してやってくれる。やっぱりいい嫁さんになりそうだ。
「……ヒロキ」
「うん?」
アナが昼飯を作りに寝室を出た途端、ジータが俺の服の肘のところを引っ張る。
「さっき私のことを『俺らが守らなきゃいけなかったのに』とか言ってたよな」
「え? あ、ああ」
確かに言ったが……もしかしてやっぱり慰謝料を払え! とかそういう話だろうか。
「だったら……その、お詫びとしてやってもらいたいことがあるというか……」
やっぱり。まあしょうがないよな。俺らが悪いんだし。
「分かった。で、いくら欲しいんだ?」
「へ? いやいや! そういうんじゃなくて!」
違うのか……? まさか金だけでは飽き足らず地下施設で一生強制労働……とか?
「その……ひ、膝枕を、して、ほしいな……って」
「ん? ひざ……?」
膝枕って聞こえた気がする。気のせいか。いや気のせいだよな。
「だから……膝枕をしてほしいって言ってるんだよ、ヒロキに」
気のせいじゃなかった。
「えっと……それだけでいいのか?」
「それだけでいい。というか、それがいい」
ジータはそばかすの散る頬を赤らめながらそう言った。こいつ、本気で俺(もちろん中身ではなくアバター)が好きなんだなあ。
「そのくらいならいくらでもやってやる。ほら」
ジータの寝ていた枕をどかして俺がそこに座る。ジータは俺の太ももの上に俺の方を向いて首を乗せ、太ももに何度か頬擦りをした。
※ ※ ※
「ジータちゃん、ご飯できまし……」
「シーっ!」
「あ……ふふっ」
アナがご飯を持ってきた時にはジータは俺のももの上で寝息を立てていた。それを見てアナは微笑んで、熱々のおかゆだけ近くのチェストに置くと、静かに部屋を出て行った。
ジータのその無防備な寝顔に俺は少しだけ心が浮気したので、アナに心の中で謝っておこう。
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