???「ゴブリンだ」

「これでこの森も三度目か……」


「今回はジータちゃんもいるしウルフもささっと倒せますよ!」


「そうだといいが……」


「任せといてよ! 武道大会優勝者の力見せてあげるから」


 ジータが張り切っているので、まあ俺が出る幕がないと信じておこう。それにしてもこの森は不気味なくらい動物の気配がないな。


「あ、ヒロキ様、あそこに何か!」


「どこどこ? どっからでもかかってきな!」


 アナの一声でジータがハンマーを右下に構える。のこのこ前に出て行ったら本当に一撃で殺されそうだ。


 アナが見ている方向を見ると、確かに何かが蠢いていた。その蠢いているものは「アー! アー!!」と騒いでいる。タチバックウルフってこんな鳴き声だったっけ。


「あ、ヒロキ様、あれは……」


「明らかにタチバックウルフではないよな」


「はい……あれはゴブリンです!」


 ゴブリン。名前は死ぬほど聞いたことがある。ファンタジーゲームの序盤で大抵出てくる小鬼型のモンスターで、大体知能が低いものだ。


「ゴブリンって強いのか? 弱いのか?」


「決して強くはありませんが……」


「ウルフだろうがゴブリンだろうが殴ればいいんでしょ! かかってきな!!」


 アナが何か言おうとしたが、ジータはそれを遮ってゴブリンとの距離を詰めた。そして遂にゴブリンが全身を俺らの前に現した。確かに緑色で下っ腹が出ている、身長一メートル弱の鬼だ。


 ……そしてそれが木の陰から続々と飛び出してきた。


「うわっ、こんなにたくさん」


「ゴブリンは一匹だと強い淫魔ではないですが、群れで行動するのが厄介なんです」


 アナがさっき言いかけたことを言い直した。なるほどな、質より量ってわけだ。まあでも今回は幸いこっちも三人いるわけだし手分けして戦えば……。


「何匹いようが関係ないって。私が決着つけるからさ!」


 ジータは勢い勇んでゴブリンの群れの真ん中に突入していく。それに触発されるようにしてゴブリンたちは一斉にジータに向かって襲いかかった。


「はぁぁああ!!」


 後ろや横から同時に襲いかかってくるゴブリンに対して、ジータはハンマーを正確にぶん回してゴブリンを吹き飛ばした。当たりどころの悪かったゴブリンはその場で煙となって消えた。


「す、すごい……!」


 ジータは危なげなく確実に一匹ずつ処理していく。私が決着をつけると豪語しただけのことはありそうだ。


「アィ~!! アーアー!!」


 ジータの猛攻に参ったのか、ゴブリンたちは奇声を上げながら散り散りになっていく。ジータはどんなもんだい、とカッコつけてハンマーを振り回した。


「やったね! ジータちゃん!」


 アナがそう言ってにこっと笑う。俺もこの瞬間までは完全に「勝った」と確信していた。そう、この瞬間までは。


 ヒュッ、と微かな音と共にそれはやってきた。


「っ!?」


 運動神経に長けているだけあって突然のことにも関わらずジータはそれを咄嗟に避けた。しかし完全には避けきれずに、それはジータの露出した二の腕を掠った。


「今のは……?」


 通り過ぎて落下したそれを見ると、それはどうやら矢のようだった。そう、戦いはまだ終わってなかったのだ。


「ゴブリンのやつ、飛び道具が使えるなんて……上等じゃない、やってやろ……じゃ、な……」


「ジータちゃん!?!?」


 ジータは再びハンマーを構えようとしたが、その重さに持っていかれる形でその場に仰向けに倒れた。意識はあるらしく必死に歯を食いしばって立とうとしているが、うまく立ち上がれない。


「……毒かっ!」


 どうやらさっきの矢に毒が仕込まれていたらしい。たかがゴブリンと俺も侮っていた。こいつらはかなり知能が高い……!


「早く助けないと!」


「アー!! イーアー!!」


 アナがジータに近付こうとすると、それを阻止するかのように何匹かのゴブリンが固まって道を塞いだ。そのゴブリンたちはなんと全員盾を構えていた。


 そしてその間に他のゴブリンたちがジータの元へ群がっていく。「お試し戦闘」がまたとんでもない方向へと進み始めていた。

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