私と、仲間になりませんか…?

「それで、ヒロキ様はなぜあのような場所に倒れていたのですか?」


 お茶の用意をしてくれながら、アナはそう訊ねてくる。それはもっともな疑問だ。魔物がうろついてるような森の中で転がって寝てるヤツなんて普通いるわけがないからな。


「それが俺にもよく分からないんだ」


「分からない?」


「気付いたらあそこで倒れていてね……。直前の記憶がなくて……」


「だ、大丈夫なんですか!? あ、頭とか怪我されたりしてませんか!?」


 アナは慌てて俺の頭を四方八方から確認する。こういうあたり純粋でいい子なんだよなあ。


「いや、怪我とかはないんだ。ただ記憶がないだけで」


「なるほど……ではお仲間の方などは……? 途中ではぐれてしまったのでしょうか」


「いないよ。なんというか、多分元々」


 この世界に来たばかりだ、とかなんとか言えば話がこじれるに決まってる。ここは一応ここの世界観に合わせておこう。


「じゃあこの装備で一人だけで森の中へ入ったのですか!? すごい勇気ですね……」


「まあ結局記憶がないから勇気を持って入ったのかも分からないんだけどな」


 でも一人で森の中に入るのがすごいことならアナも一人で入っていたじゃないかとも思うのだが、「この装備で」というところが重要なのだろうか。俺が着ているこの勇者が最初に着てるっぽい毛皮の服は本当にクソザコ装備なのかもしれない。


「なるほど……つまりヒロキ様はお一人なのですね……」


 アナは独り言のようにそう呟く。いや、その言い方だと体育で組になれなかったあまりみたいですごい嫌だ。


「あの! ヒロキ様にご提案があるのですが……!」


 それまで立って色々作業していたアナが、急に椅子に座って改まった。やっと本題に入るか。


「もしヒロキ様がよろしければ、の話なんですけど……私を仲間にしていただけないでしょうか。厚かましいお願いかもしれませんが……」


「いやいやそんなことないよ、嬉しいよ。それよりもむしろこんなへんちくりんな俺の仲間でアナはいいの?」


「ご謙遜しすぎです! 私はどの勇者様にも選んでいただけず一人で暮らしていた身なので……ヒロキ様の仲間に入れていただけるのであればこれ以上はありません」


 そんなに言われるとなんか照れるなあ。ゲームではこんな切羽詰まった感じじゃなかったと思うけど。


「先ほどのような道案内ならいくらでもできますし、タチバックウルフ程度なら倒すこともできます。それから、この家は私一人で住むには大きすぎますからヒロキ様の拠点として使っていただいても構いません。だからヒロキ様、どうかよろしくお願いします!」


 そんな頭を律儀に下げてもらわなくても元々そのつもりだからなあ……。でも即答するとそれはそれで失礼な気がするし、一応少しだけ間をとってから返答することにした。


「それじゃあ……これからよろしく頼むな、アナ」


「……!! ほ、本当ですか!?」


「ああ、もちろん。これだけ好条件を揃えられたら断れるわけないだろ」


「あ、あ、ありがとうございます!!」


 アナはまたしても首が取れそうな勢いで頭を深く下げる。そんなに気を使わなくてもいいのになあ。


「じゃあ改めてよろしくな」


「はい! ……で、では、その、準備を始めましょうか……?」


「準備?」


「はい。つまり……その……契りを結ぶ準備です」


 アナが顔を赤らめてもじもじしながらそう言った時、俺は改めて思い出した。


 ……そうじゃん、これエロゲだったじゃん。

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