第2話 天才デザイナー(美少女JK)

 恋愛ゲーム「君のうたごえ」に足りていないもの。それは没入感。

 ビジュアルノベルゲームとして、シーンへの没入感が足りないのは致命的だ。


 一般的な同人ゲームとしてのクオリティは既にクリアしている。

 だが、俺たちは過去2作で市場の期待を大きく上回る結果を残してきた。当然ながら3作目「君のうたごえ」の期待も大きい。そしてこの作品の出来如何で、先輩の将来にも影響が出る。

 ここで結果を出せば、先輩は主導的な立場で就職する企業を選定できる。それが夢のための最短ルートに直結する。だから失敗はできない。

 何より現実的な成果だけではなく、ユーザーの信頼を裏切りたくはない。期待を超えた驚きを与えたい。そして先輩の処女は欲しい。つまり全てを懸ける理由が俺にはある。


 修正すべき点は「ヒロインとの出会い」」「告白」「結ばれてからのエンディング」この3箇所のシーンだ。

 元々想定していたシナリオに沿ってイラストを外部へ発注、仕上がってきたイラストや背景にエンジニアが演出や動きを施す。

 重要なシーンにはキャラや背景にエンジニアが動きをつけている。そして問題が発生したのは、シナリオをブラッシュアップしたことで、初期想定と整合性がとれなくなったことが原因だ。


 シナリオは俺と双葉先輩の合作である。シナリオが肝のゲームなので、素材納品以降もギリギリまで拘った。結果、整合性は取れると踏んでいたものが、シナリオ改修に伴いイラストと演出に違和感が生じることになる。

 しかも原因は、イラストも演出も元のシナリオで「最高の結果」が出るように最適化されたプロの仕事ゆえに起こったこと。そこを見通せなかった俺の落ち度である。


 ここで選択肢は2つ。

 1.シナリオのクオリティを下げて当初案に戻し、グラフィック素材や演出との違和感を解消する。

 2.シナリオはそのまま。グラフィック素材の追加発注ならびに演出の組みなおしを行う。


 当然後者を取るべきだ。クオリティが段違いになるのだから。

 だが、俺は当初前者を選択しようとした。理由として、デザインも演出も発注したのが外部の人間だったこと。

 デザインを担当したのは、現役女子高生。彼女のイラストに惚れこみ、無理を言って今作の発注を受けてもらったのだ。

 彼女は既に仕事を終えている。しかも多忙な現役JKである。当然ながら追加作業を頼むことに気が引けた。

 次に演出を担当したエンジニアだが、こちらも今作からの参加で、既にフリーで仕事を請け負っており、先の予約まで埋まるほどの凄腕だ。同じゼミで意気投合、特例で今回参加してもらった。他のエンジニアでは手が出せないレベルで、変わりがきかない。


 本来なら納品完了後にこちらの都合で追加作業させる等ルール違反だし、信用を損ねる行為である。

 だが、遠慮していられない。先輩の処女が……い、いや期待以上のゲームをユーザーに届ける為には妥協しない。そして彼女たちには今作だけではなく、次作以降も加わって欲しい。だから完全に納得したうえで協力を得なければいけない。人材は人財なのだから。

 処女を手にするべく俺の脳内はスイッチが切り替わった。

 ずばり秘策アリである。必ずや口説き落としてみせよう!


 ――――俺は秘策の準備に1日かけた。

 2人へのアポも取ってある。作業が押している中で準備に1日かけたが、これは必要な投資である。

 この2人の協力なくして、求めるクオリティでのゲーム完成はないのだから。



「忙しいところ、突然呼び出してすまない。中村さん」


 現役JKの中村友里なかむら ゆりさん。

 茶色がかった黒髪をポニーテールにしており、スタイルも良い美少女だ。

 俺が彼女のイラストを知ったのはコミケで販売された同人誌だった。

 直感した。彼女のイラストは俺のゲームとの相性が抜群にいい。そして彼女は原石だ。磨けば確実に光輝くダイヤの原石。

 だからこそ全力で口説いた。俺たちのゲームのイラストを担当して欲しいと。

 最初は断られた。現役JKはやはり忙しい。それに趣味である同人誌制作に支障がでる。何よりイラストをビジネスとすることに及び腰だった。それを口説き落として何とかイラスト発注にこぎ着けたのだ。


「少しの時間なら大丈夫です。いま制作中の同人誌の追い込み中なんですけどね」

 俺たちが追い込み中なんだから、彼女も当然そうなる。


「実はね、見て欲しいシナリオがある。

 中村さんは発注時に渡したシナリオを読み込んでくれたから、これを見てもらうのが早いと思う」


 改変したシナリオだけを手渡す。

 中村さんはそれを受け取り読み込んでいく。


「……なるほど。これはいいですね。

 最初より深みが増して、より感情移入ができます」


 次に問題のゲームシーンをムービーにしたものを見せる。


「……これは……イラストが微妙に合っていない?

 そうか、最初のシナリオベースで描いたから、違和感が出てるのか」


 次に現在のシナリオに合わせたイメージの絵コンテを渡す。


「……うん、シナリオとイラストが噛み合う。いいですね。そして、相談内容の察しもつきました。

 シーンに合った追加イラストが欲しい。そうですね?

 でも、今は無理です。コミケ後ならお手伝いできますけど」


「今回のコミケでの販売はマストなんだ。延期もできない。クオリティも下げられない。

 だから追加イラストを明日までに欲しい」


「……え?明日!?無理です、無理、無理!

 私だって同人誌の追い込み中で、余裕ないんですよ」


「中村さん。君の同人誌に使う時間を俺にくれないだろうか?

 自分勝手なのは百も承知だ。納品完了後に理不尽なお願いをしている。

 でもな、いいゲームが出来るんだ。君のイラストさえあれば必ずいいものになるんだ。

 このタイトルは俺たちが世界に羽ばたく為に、最高のクオリティで世に送り出す。そしてユーザーも業界の期待も超えたい」


「世界へ羽ばたく?これ同人ですよね?」


「言っておくが、には君も含まれているんだぞ?中村さん」


 俺は夢について語る。はたから見れば夢物語だろう。だが、この夢物語は現実にするのだ。その世界へ挑むのに彼女のイラストやデザインセンスが必要なのだと力説する。


「中村さん、俺に君の人生をプロデュースをさせてくれ」


「じ、じ、人生!?じ、人生のプロデュース!?」


「君は原石だ。君は光輝く、俺が君を磨き光らせる!君は、俺を光輝かせてはくれないだろうか。一緒に夢を見よう。一緒に輝こう。

 君の追加イラストと演出改修があれば俺たちは夢へ踏み出せる!間違いなく」


 中村さんの目がグルグル回っている。そして顔色も赤い……あれ?俺の説明が分かりにくかったのだろうか?


「か、確認します。と、藤堂さんは私の人生をプロデュース(プロポーズ?)したい……そうですね?」


「合っているぞ。君の人生(デザイナー人生)をプロデュースさせてくれ」


「せ、責任は取ると?」


「当然だろう。俺は君をプロデュースするんだ。責任取るに決まっている。

 世界へと踏み出す第一歩はここからだ!」


「……いいでしょう。同人誌は落としましょう。藤堂さんの本気に応えましょう


「ありがとう。中村さん!」


「これからは友里と呼んでくださいね。洋一さん?」


「え?……わ、分かったよ。友里さん」



 中村友里なかむら ゆりの協力の取り付けに成功

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