第20話
翌日。猫用のGPSが届き、僕たちはそれを配布する作業を行っていた。
結局、死亡した猫が見つかったことで全てが変わった。獣医師達の要求は即座に県の了承するところになり、大急ぎで掻き集められた、メーカーも型番もバラバラなそれが島に送られてきたのだ。
島の老人達は電池の入れ方も分からない。僕たちが事前に首輪に繋げれば直ぐに使えるように準備しなければならなかった。分担してマニュアルを読み、セッティングを終えてから管理番号のシールを貼る作業を延々と続けていく。
ボランティアメンバーはその後、分散して島の各地に向かった。猫を飼っている人の家を訪問し、役場が出した装着のお願い文書と一緒にGPSを渡す。ほとんどの人は素直に応じてくれたが、なぜそんなものを着けなければいけないのかと怒り出す人も珍しくなかった。思ったよりもずっと手間がかかると同時に、なんとも不愉快な仕事だった。
「この島のためにやってるのにさ。なんであんな風に言われなきゃいけないんだ」
同級生の一人がそうぼやく。その感想に僕も同感だった。努力しているのに評価されない、まして理不尽な非難を受けるとあっては意気の上がるはずがない。
それに、と僕は思う。糞集めで始まったボランティアグループは、ここ数日で急激に役場の依頼を受ける下請けのような雰囲気に変わっていた。役場から指示が届き、獣医師達がそれを僕たちに命じる。自分達で考えて何か行うとか、そういうのは一切なし。
必要なことだとは分かる。だけど、面倒で手間のかかる仕事を一方的に押しつけられているような気がして。その割に自分達がやっていることの価値が見いだせなくて。なんだかメンバーのやる気が急速に削がれているような気もした。
一日が終わった後の報告会。
参加していた獣医師の一人が、以前の話を蒸し返した。
「GPSも必要だが、やはり猫を外に出すのを禁止すべきだ」
島の皆は前と同じようにそれを口々に否定する。発言の内容は前回と同じだ。島の猫の多くは産まれながらのペットじゃない。それ以外の猫たちも、散歩に出るのを当然のことと思っている。無理に家の中に閉じ込めておくことなんてできないと。
僕たちからすれば、その獣医師の態度は困惑するものだった。前回に結論が出た内容なのに、なんでまた同じ事を言い出すのかと。
「都会じゃ家の中で飼うのが常識だ。この島の家はマンションのそれよりもずっと大きいじゃないか。慣れれば猫も室内で満足するに決まってる」
言っている内容よりも、その口調が僕たちの心をざわつかせた。
「そういう話じゃないと思いますけど」
勇気を出した女の子がそう発言する。その獣医師は顔を歪めて、ドアに向かった。
「田舎者」
去り際の一言が、はっきりとそう聞こえた。
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