第18話
『現在、県と町は協力し、速やかな対応の準備を進めております。島の人々、旅行中の方々。また、県そして日本中の方々にご迷惑をお掛けしておりますが、不正確な情報に惑わされずに落ち着いてお待ちください』
県庁で開かれる毎朝の発表が、空しく響く。法律が定められ、様々な通知は送られるが、現実の状況は何も変化していない。むしろ僕たちは正式に島に閉じ込められ、やってはならないことのリストが増えただけだ。島民に対するPCR検査も、猫に対する調査も進んでいない。
原因の一つが、島には十分な医療従事者が居ないということだった。だったら人を派遣すれば良いのにそれもできていない。なんでも、多数の人員を派遣するとどうしても体調不良などの理由で交代するケースが増えてしまい、それが本州側へウイルスを拡大させる原因になりかねないという慎重派の意見が強いらしい。
準備、準備。何もかもが準備中のまま。そんな中、昼のテレビだけが勇ましい言葉を発し続けている。
『島の全員を強制的に検査すべきですよ。国はなぜグズグズ判断を伸ばすのでしょうか』以前にどこそこの知事をやったとかいう経歴の人物がそう語る。
『聞けば、感染が判明した場合に差別を受けるかも知れないという理由で、島の人々が反対しているということですが、とんでもない。まずは科学的な調査をした上で、差別などの問題が発生しないようにすればいい。それだけの話ですよ』
実際には、島の人間は賛成も反対もしていなかった。現状では観光客用の検査を進めるのが精一杯で、僕たちには最初からPCR検査をする選択肢など与えられていなかったのだから。最近のテレビを見ていると、なんで詳しいことを何も知らない人達が自信満々にコメントしているのかが不思議に思えてくる。僕はこれまでテレビに映っているメンバーを頭の良い人達だと思っていたのだが、どうもそれは勘違いだったみたいだ。
少しだけ変化もあった。
PCR検査により陰性と認められた観光客が島を去ることが認められたのだ。
しかし、それはそれでまた新たな問題を引き起こすことになった。当然のように、陰性の結果を得られなかった人も居たのだから。
「なんで私だけが残されるのよ!!」
興奮した声が隣の宿から聞こえてきた。
「二人とも私を見捨てるの?!」
哀願と怒りの混じる悲痛な声。暫しの沈黙を挟んで、別の声が聞こえた。
「でも、ほら。しょうがいないじゃん」
「そうだよ。私達だって帰らないと」
大丈夫、あと二週間の辛抱だから。そんな空疎な慰めが流れてくる。
「ここだって良いところじゃない。ほら、のんびり休暇してると思えば」
誤魔化しの言葉を、魂の叫びが引き裂いて潰した。
「嫌だよ、こんな島! もう一瞬だって居たくない!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます