第16話
報告を受けた僕たちは急いで車で現場に駆けつけた。
見つかった死体は見るからに高齢の猫のそれだった。単純な老衰なのか、他の病気なのか。それとも猫コロナが原因なのかはまだ分からない。
「私がやろう」
叔父さんはそう言って簡易的な防護服を袋から出した。
「獣医の人を待たなくていいの?」
「彼等は一般的な動物の病気に関する専門家だが、ウイルスに汚染された可能性のある死体の処理という点では素人同然だ。私でも大差は無いよ」
叔父さんは僕にマニュアルを渡し、チェック項目を読み上げさせた。チャックがしまっているか、各部の密閉は十分にされているか。一つ一つ指さし確認を行う。
点検が終わると、叔父さんはドライアイスを詰めた箱に遺体を入れて厚いビニール袋で幾重にもそれを包んだ。作業を終えると防護服を脱ぐ。距離を置いた僕が再びチェックリストを大声で読み上げ、手順に間違いが無いことを確認していく。脱いだ防護服を三重のビニール袋に入れた叔父さんが、ふうと息を吐いた。
「叔父さん」
近付こうとした僕を叔父さんが手で制した。
「念のため、余り近付かない方が良い」
マスクを着けてからこちらを向く。
「これからは食事なんかも別にした方がいいだろうね。それに配慮が足りないことをした。私が宿に戻ったら迷惑だろう」
僕は首を横に振る。
「母さんには僕が言っておくから」
そして思わず笑ってしまう。
「島中にとっくに感染が広がっているのかも知れないのに、あんな大げさな服を着て作業するなんて、なんかヘンだよね」
「感染症対策なんて大抵はそんなものだよ。日常生活をしている中での感性防止には限界がある。目立つ部分だけ重点的にやって対処しようない部分はほったらかしさ」
上空から空気の振動が聞こえた。見上げれば何機ものヘリが近付いてくる。
「早いな」
叔父さんが運転席のドアを開けた。
「意味も無く映像を撮られるのは不愉快だが仕方ない。このまま港に向かうから、君は役場の人か誰かに送って貰ってくれ」
周辺には知っている人が何人も居る。家に帰るぐらいどうとでもなりそうだ。僕が頷くと、叔父さんは軽ワゴンを進ませた。ヘリが車を追って動き出す。
島の道路を進むうちの家の車。全国に何度もその映像が流された。叔父さんはどこかに手を回し、側面に書かれた宿の名を放送しないようにしてくれた。
その夜、猫コロナウイルスによる新たな猫の死亡例が確認されたとの報道がされた。
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