第13話

暗い話ばかり続く中で、久々の明るいニュースがあった。

 島を救うために駆けつけてくれたボランティアの獣医師三人が、正式に活動を始めることが認められたのだ。議論ばかりに時間を取られて進まない国を後目に、県知事が独断で許可を出した結果だった。

 マスコミはこぞってその決断力と実行力を褒め称えた。もっともどこかの誰かのように、『議席の多数を利用して意思決定するのを独裁と批判しながら、議論も無しの独断専行で物事を決定する人物をやたらに持ち上げるのは矛盾してるなあ』などと言うひねくれ者もいたりはしたが。


 獣医師の歓迎式はテレビで放映されることになった。役場の職員が構えるカメラに向かい、リーダーの獣医師が礼を述べる。

「島の人々の暖かい歓迎に感謝しています」

 式には僕達も呼ばれていた。病気の拡散防止のために、島の学生が猫の糞を収集する活動をしているという話も一緒に紹介されるという。宣言通り叔父さんは不参加。代わりにと言うべきか、なぜか院長の息子が偉そうに中央の椅子に座っている。お前、ボランティア活動なんてやってないだろ。

 撮影が終わった後の懇親会。院長の息子が同級生に最新型のスマホを自慢していた。本当につい数日前に発売されたばかりの品だ。不要不急な物品の搬入が止められている中、どうやって手に入れたのか不思議がる皆に、親類からの援助物資に紛れ込ませてもらったのだと説明している。くそう。特権階級、許すまじ。


 貧乏人としては、せめて出されたご飯を平らげようと決意する。売り先の無い魚や野菜を放出したおかげで、料理は素朴だが中々に充実した内容となっていた。テーブルについた僕は元気よくそれを食べ始める。

「初めまして」

 不意打ちのように獣医の一人が挨拶をしてきた。そのまま向かいの席に座る。

「あ、はい」

 僕は食べかけの皿を置いてマスクを掛けた。見回せば会場はマスクだらけだ。数年ぶりに復活したファッション、とでも言うべきなのだろうか。

 机の間に張られたビニール越しにその顔を見る。年の頃は叔父さんと大差ない感じだろうか。もっともこっちの方がずっと落ち着いて、先生っぽい。

「話は聞いているよ。この君が活動を始めたらしいね」

 あ、いや。それは。叔父さんが自分の存在を無かったことにしてしまったため、必然的に僕がスタートという話になってしまっただけで。

「僕が一人で始めたわけでは・・・・・・」

 詳細を言うことも出来ず、もごもごと曖昧な説明に終始する。

「それはそうだろうけれど」

 獣医師の男性は笑った。

「率先して参加したのは確かだろう。それはなかなか出来ないことだよ。それに君たちのおかげで研究用のサンプルが随分集まっているそうじゃないか。大したものだ」

 叔父さんが言っていた。この病気は治療法も、陰性になってからどれだけ経過すれば安全なのかも分かっていない。島に来た経歴が原因で勤めている病院への風評被害が発生することだってあり得る。彼等は自分達のキャリアや収入を台無しにするリスクを背負ってここに来ているのだと。

 そんな人に自分達がやってきたことが認められたことは嬉しかった。

 気の利いた言葉など何も思いつかなかった僕は、これからも頑張りますと答えるのが精一杯だった。

 獣医師の男性は僕が照れるような笑顔を向けてくれた。

「これからも大変だと思うけれど、お互いに協力してやっていこう」

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