ちやほやされたい

 四月半ばの土曜日。


 冷光家に出勤すると、アンコちゃんが「あっ、ああ……!? どうしよう!?」と悲鳴を上げていた。どうしたのかとたずねると、「は、恥ずかしいんですけど、来客用のお菓子を間違って食べちゃったんです……お客様がお見えになるのは午後なんですけど、今日は私も予定が詰まっていてまた買いに行く時間もなくて」と言ってアンコちゃんはうなだれてしまい、かわいそうだったので「なら今日もどうせ暇でしょうし、今から私が行ってきますよ」と請け負った。

 そして出かけようとすると、「ヤマコ、菓子を買いに行くんじゃな!? わちも行く!」とハッチーがついてきて、冷光家を出て少し歩いたところにあるバス停で私が立ち止まると、「わち、バスなんて乗らんもん。知らん人間がいっぱい乗っておるし、なんか臭いし揺れるしで苦手なんじゃもん」とだだを捏ね始めた。人間妖怪問わず可愛い女の子に弱い私は、とりあえずスマホで地図を開いてお使いを頼まれたお店までの距離を確認し、歩けそうな距離だったので歩いていくことにした。


 その結果、まだ朝だというのに私は力尽きそうになっていた。

 ずんずんと歩いていくハッチーのお尻でご機嫌にブンブンと揺れている、蜂蜜色のもふもふとした太い狐の尻尾をつかんで、路上にへたり込む。


「みゃ、みゃってくだしゃい……ほんと、無理です……死んじゃいますよ、もう歩けません……無理です……うっ、ひっく……」


「まったくヤマコはおおげさじゃのう! 妖怪じゃろ、これしきの山道で泣くでない! それにわち、早くお菓子食べたいのじゃけど」


「だって、もう足が動きませんもん……足の親指なんてほんとにまったく動かないですし、足じたいほとんど上がらないですし、もう歩けないですもん」


 私が地図で確認したのは距離だけだった。

 だから、まさかここまでアップダウンの激しい、まるで登山道みたいな道をゆくことになるとは思っていなかったのだ。

 もう無理だと気づいたのがちょうど経路の半ばあたりで、どこにもバス停など存在せず民家すらも見当たらない上に、電波が届いてなくスマホは圏外表示になっていた。


「ここから動けないまま夜になって、きっと私、熊に食べられるか凍えるかして死んじゃうんだ……うう、ひっく、ずびっ……」


「仕方ないのう。なら、わちがぶって連れて行ってやってもよいが、ひとつ条件がある」


「えう……? ハッチーが勝手についてきて、しかもバスに乗りたくないってわがままを言ったから、こんなことになってるのに……うう、条件があるんですか?」


「妖怪の世は常に弱肉強食じゃもん、ここでわちに置いて行かれたら困るのじゃろ?」


「お、鬼……悪魔……」


「鬼はバッケじゃ。わちは狐」


「うう、条件って、何をしたらいいんですか?」


 反論を諦めた私が泣きながら訊ねると、ハッチーがはじけるような笑顔で言う。


「なに、ヤマコなら簡単なことじゃ! たしか、目的地の『日光かりっとまんじゅう堂』のそばにはカステラ屋と、たいやき屋もあったじゃろ? わちに『かりっとまんじゅう』だけでなく、たいやきのつぶあんとクリームをそれぞれ五個ずつと、カステラを一本うてくれればよい! どうじゃ、超簡単じゃろ?」


 確かに簡単な話ではあるが、またバレンシアゴが遠のくな……。ハッチーに買ってあげるだけならば大した出費ではないけれど、ハッチーが食べているところを見たら食べたくなるだろうからバッケちゃんと弓矢ゆみやちゃんとアンコちゃんの分も買っていかないとかわいそうだし、スイちゃんが拗ねると怖いのでスイちゃんの分として自分でも同じくらいの量は買って食べないとならない。とはいえ、甘い物ばかりをそんなに沢山その場で食べきれるわけもないので、家で私が食べているのを見たら絶対に欲しがるであろう冥子ちゃんの分も必要になる。あの偽妹ぎまいが私のもとにやって来てそろそろ一か月が経つが、普段は明るいのに私がちょっとでも冷たくすると急に病むから怖いのだ。

 ちなみに、顔がいいだけが取り柄のぐうたらな偽妹ではあるものの、仕事で怖い目に遭った直後などには抱き枕として役に立つこともあるし、わりと仲良くはやっている。


「うう、わかりましたよ、どうせ私なんてみんなにとってお財布でしかないんです、お金の切れ目が縁の切れ目なんです、ぐすん……!」


 私が同情を誘おうとして後ろ向きな発言をすると、すぐにハッチーは頭の上に生えている狐の耳を両手でぺたんと押さえる。


「あーあー、聞こえないんじゃー」


「えー、聞こえてるはずですよ。だってハッチー、狐の耳だけじゃなくて普通に人間の耳もついてるじゃないですか」


「なんのことじゃかわからんもーん。ほれほれ、屈んでやるからわちの背に乗るがよい」


 そう言って、ハッチーがこちらに背中を向けてしゃがんでくれるが、体がナメクジのようにしか動かないのでなかなか乗ることができない。


はようせんか、わちは一刻も早く甘味をむさぼりたいのじゃぞ」


「ちょっと待ってくださいよ、ほんとに足がプルプルしちゃって動かなくて、時間がかかるんです」


「軟弱者じゃのう、ヤマコほど体力のない妖怪はなかなかおらんぞ。しかもそれでいて妖力ようりょくは凄くて、強いんじゃから本当に変わっておる。珍獣ならぬ珍妖ちんようじゃな」


「うー、やめてください。ただでさえ最近バケツ妖怪とかいうひどい呼び名で噂されちゃってるんですから、これ以上変な呼び方を増やさないでくださいよ」


 二週間ほど前にはらい屋さんが集まる会合とやらに連れて行かれたのだが、どうもそれ以降祓い屋さんたちの間で私はバケツ妖怪というひどい名前で呼ばれているようなのだ。

 しかも、半年後にまた会合が開かれるらしいので、その時のためにもっと見栄えのする覆面を用意しようと考えていたら、杠葉ゆずりはさんから「バケツ妖怪ですでに定着してしまっているし、わかりやすいからそのままバケツで行け」と言われてしまった。もはや、ほかの祓い屋さんと顔を合わせるような機会がなるべくやって来ないことを祈るばかりである。


「はあ、ふう……やっと乗れました。少しならスピードを出してもいいですけど、私が怪我をしないようにしっかりと気をつけてくださいね?」


「かっかっか! 妖怪が何を言うておる、衝突事故や落下事故程度で怪我なんてせんじゃろうに!」


「わーわー! ほんとにダメですからね、私の体は人間と同じくらい脆いんですからね!? ほんとにほんとですから、絶対に危険走行はしちゃダメですから!」


「よし、しゅっぱつじゃ!」


 ガクン、と首が後ろに倒れる。

 凄い勢いで景色が背後へと流れていき、すぐに私は気を失った。


 ――前さま……」


 ――お前さま、早く……」


 ――早く起きて、甘味を食すのです……」


「――はっ!?」


 目を覚ますと、世界遺産にも登録されている日光の社寺のすぐそばにある、日光かりっとまんじゅう堂が目の前にあった。なんだかスイちゃんの声が聞こえた気がしたが、気のせいだろうか?


「おお、ちょうど目を覚ましたようじゃな、ヤマコ。ほれ、到着じゃ。早う買うてくれ」


 私はハッチーの小さな背中から下りて、ちゃんと自分の足で歩いて店内に入る。どうしてもり足のようになってしまうのが何だか恥ずかしいが、しかし、どうしようもない。

 アンコちゃんからは美味しそうなのを適当に選んできてほしいと頼まれたので、日光かりっとまんじゅうだけでなく、お餅の入った和風マカロンや大きなとちおとめの乗った苺だいふくなども沢山買ってお店を出る。

 日光の社寺へと続くそこそこきつい上り坂を再びハッチーに背負ってもらって上がり、たいやき屋さんでつぶあんとクリームの両方の味のたいやきをいっぱい買って、またもやハッチーに背負われて今度は来た道を下りて、カステラ屋さんに行ってこれまた大量購入する。

 山道を無理して歩こうと頑張った結果歩けなくなるといったトラブルのせいか思っていたよりも時間が押していたので、タクシーを捕まえて、冷光れいこう家のお屋敷には戻らずに弓矢ちゃんの通う小学校に直接向かった。


 その道中、車内でたいやきを食べながらタクシーの運転手さんとたいやきの話をしているハッチーの姿を見て、こうして人から認識される妖怪と認識されない妖怪は何が違うのだろうかとふと疑問に思った。

 今まであまり気にしたことはなかったが、お店の店員さんやタクシーの運転手さんにもハッチーの姿はちゃんと見えているし、声も聞こえている。

 それにもかかわらず、人間から認識されない妖怪もかなり多く存在する。私の目が緑色になってから妖怪をそこら中で見かけるようになったけれど、そのほとんどすべてが妖力やら特殊な目を持つ私や、杠葉さんたち祓い屋さん以外の人たちには見えていないようだった。


 小学校の校門の前でタクシーを降りて、すぐ近くの小さな公園のベンチにハッチーと並んで座る。

 今まで車内でたいやきを食べていたハッチーだったが、今度はカステラを紙箱から取り出すとそのまま思い切りかぶりつく。

 ただでさえ黄色いのに、焼き目に金粉を散らしたカステラはまるで金の延べ棒のようで、それを丸ごとかじっているハッチーの姿を見ているとなんだか金運が高まっていくような感じがした。近くに宝くじ売り場があったら寄りたいけど、多分ないだろうな。


「ていうか、カステラは持ち帰るんだとばかり思っていました。私よりも体が小さいのに一度で一本丸ごと食べちゃうなんて、なんといいますか、さすが妖怪って感じがします」


「むしろヤマコが軟弱なのじゃ、ヤマコは強いんじゃからもっと妖怪らしく振る舞うべきじゃぞ。羊羹ようかんだってカステラだって丸かじりすべきじゃ。わちの考えじゃが、いちいち切り分けたりしとるからあの程度の山道でへばるような軟弱な体になってしまっとるんじゃと思う」


 さすがにそんなことはないと思う。そもそも私は人間でしかも女の子なのだから、妖怪と比べたら体力がないのは当然だ。

 私がハッチーの真似をしてもたぶん太るだけだぞ。今よりももっと歩けなくなるに違いない。


「ところで、話は変わりますけど。ハッチーみたいに人間に存在を認識される妖怪と、そうでないそこら辺にいっぱいいる変な妖怪って、何が違うんですか?」


「は? おぬし、それ、マジで言っとる?」


「え、はい。よくわかんなくって」


「ぜんっぜん違うじゃろうが! わちは賢いし最強じゃし、何よりも超凄いじゃろうっ!?」


「あ、はい。そうなんですけど、人間から見える、見えないっていう違いはどこからくるのかなって」


「ん、ああ、そういう。わちもよくは知らんから経験則に過ぎないんじゃが、保有しとる妖力の量で変わるようじゃな。妖力をいっぱい持っておるわちらのようなあやかしは、人間からも認識される。じゃけどあやかしの大多数を占める低級なやつらは、よほど相性がいい人間か、衰弱した人間からしか認識されないようじゃ。じゃが、妖力を沢山持っとるあやかしでも、意図的に人間から見られないようにしとるやつもおる。たとえば、こないだのうんぬばなんかがまさにそうじゃ。ちなみにわちやバッケはそういうコソコソとしたダサいのは嫌いじゃから、姿を隠したりするのは苦手じゃの」


「ほえー。なるほど、結構単純な話だったんですね。ショボいやつは見えないってことですか」


「そうじゃな。ショボいやつは人間からは見えん。わちみたいに偉大じゃと、どうしても目立ってしまうがの」


 偉大なのかはよくわからないけど、ハッチーは可愛いし狐耳やもふもふの尻尾が生えているので目立つのは間違いないな。しかも耳も尻尾もぴょこぴょこブンブンとよく動くし。

 ちょうどハッチーがカステラを一本丸ごと食べ終えたところで、小学校の校門から児童がわらわらと出てくる。


「お、下校が始まったようじゃぞ。ユミのやつは結構遅く出てくるから、まだじゃろうがな」


「真っ先に走って帰るようなのは男子ばっかりですもんね」


「ん? いや、見た目はともかくとしてユミもの子じゃからな……?」


 ベンチに座ったままで待っていると、しばらくして赤やピンクのランドセルを背負った五人の女の子がこちらに向かってやって来た。


「お、ユミ! わちが迎えに来てやったぞ、今日はヤマコも一緒じゃ!」


 訂正しよう。

 五人の女の子ではなかった、四人の女の子と一人の男の子だった。


 弓矢ちゃんが天使のような微笑みを浮かべて、お礼を言ってくる。


「うん。二人ともありがとね」


「うむうむ、ちゃんとお礼が言えてユミは偉いのう!」


 うんうんと頷いて立ち上がったハッチーの周りに、子どもたちが集まってくる。


「はっちーだ!」

「しっぽ触りたい!」

「わたしも!」

「ねえはっちー、手つなご?」


 うーむ。なぜだろうか?

 今日もまた、私のところには一人も来ない。

 もう弓矢ちゃんのお迎えはすでに何度かこなしており、弓矢ちゃんのお友達の女の子たちとも一応面識はあるのにもかかわらず、だ。

 緑色の外人みたいな目をした、十人並みの美人のお姉さんと知り合ったら、普通の女児ならば興味津々で話しかけてきそうなものだが。それこそ今だと、小学生でもスマホを持ってる子やSNSなんかをしている子もいるし、一緒に写真を撮ってほしいとかお願いしてきそうなものだが。

 それとも、私が美人すぎて声をかけたくても気後れしてしまうのかな?

 そうかもしれない、そんな気がしてきたぞ。

 よし、なら私の方から声をかけてあげるか。


「えっと、お姉さんと一緒に写真を撮りたい子がいたら、気軽に言ってくださいね? 遠慮しなくていいですよ?」


 あれ、なんかみんなして固まっちゃったぞ。どうしたんだろう、誰からも反応が返ってこない。

 憧れのお姉さんから急に話しかけられて、びっくりしちゃったのかな?


「あの、あの……ほんとに遠慮しなくていいんですよ? そうだ、じゃあみんなで今ここで、一緒に一枚撮っちゃいましょうか? SNSに上げても全然いいですから、やっぱり人に見せたいでしょうし」


「あ、えっと、あの」

「じゃあ、うん」

「そんなに言うなら、いいよ?」

「ユミちゃんのお家の人だしね、一応」


 なんだか四人がごにょごにょと言っているが、声が小さいな。

 やっぱり緊張しちゃってるのかな?

 でも憧れのお姉さんと一緒に写真を撮れるのだから嬉しいはずだ、ここはちょっと強引にでも撮影してしまおう。


「じゃあ、私を中心に、みんなでここに並んでみましょう。ハッチー、私のスマホで写真撮ってくれます?」


「う、うむ……えっと、この丸いボタンをタッチするんじゃよな?」


「そうですそうです、可愛く撮ってくださいね? まあ元が可愛いのでどうしたところで可愛く撮れちゃうかもしれませんが!」


「う、うむ……?」


 私のスマホを持ったハッチーが離れていき、私は五人の子どもたちと一緒にベンチの前に横一列に並ぶ。


「えーと、じゃあ、撮るからの? さん、にい、いち――はい」


 カシャッという音がして私がキメ顔を崩すと、スマホの画面を確認したハッチーが首をかしげる。


「ん? なんじゃこれ? 変じゃな、撮りなおすか。もう一回じゃ。さん、にい、いち――そりゃ」


 カシャッという音がして、またもやハッチーが首をかしげる。


「のう、ヤマコ? わち、なんもいじっとらんのじゃけど、ヤマコの目線にだけなんでかモザイクがかかるんじゃが」


「え? そんなバカなこと……」


 こっちに戻ってきたハッチーからスマホを受け取って、試しに適当に自撮りをしてみる。


「あれ、ほんとだ。こんな機能知りませんけど、新手あらて霊障れいしょうでしょうか?」


「ふむ。こういう機能ではないのなら、もしかしたらヤマコの邪眼じゃがんの影響かもしれんのう。だとすると、この先もずっとこうじゃろうな」


「そういえば、高校の入学式でクラスごとに集合写真を撮ったんですけど、なぜか私のクラスだけ何度も撮り直したあげく、結局渡してもらえなかったんです……もしかして、私のせいだったんでしょうか?」


「そうかもしれんのう。まあ、どんまいじゃな、どんまい」


「うわあ……今後困りますよ、これ。学生ですから、この先集合写真を撮る機会って多分いっぱいあると思うんですけど」


 というか、この子たちに憧れのお姉さんと写真が撮れると期待させてしまって申し訳なかったな。かわいそうなことをしてしまった。


「あの、ごめんなさい。私から提案しておいて、一緒に写ることができなくって……」


「ええと、はい」

「全然気にしてないです」

「こ、こら、そんなこと言っちゃダメだよ!」

「ん、私も気にしてないけど」


 あー、どうも二人ほど拗ねてしまったみたいだな。それだけ期待が大きかったのだろう、本当に申し訳ないことをしてしまった。

 どうにか機嫌を直してほしいけど、あんまり遅くなると来客に間に合わなくなってしまうし、お腹も減ってきた。次回会うときには機嫌が直っていることを願いつつ、とりあえず帰るとするか。


「よし。じゃあ、気を取り直して帰りましょう!」


 私がちょっと無理やりに笑顔を作ってそう言うと、弓矢ちゃんも笑顔で頷いてくれる。


「うん、帰ろっか。お腹も空いたもんね。ヤマコさんは今日のお昼ごはん、何か知ってる?」


「それが、アンコちゃんがドジをしたせいで、朝早くから出かけていたので知らないんですよね」


「えー、ヤマコさんも知らないんだ。何かなー。私はオムライスが食べたいけど、ヤマコさんは何だと思う? 当てっこしようよ」


「私が食べたいのはワクドナルドのてりやきワックバーガーですけど、多分やきそばだと思いますね。アンコちゃん今日は忙しいみたいでしたし、そういう日のお昼ってだいたいやきそばですもん」


「たしかにそうかも。やきそばもおいしいけど、ユズにいがウスターソース好きだから、ちょっと辛いんだよね」


「あれって杠葉さんの好みだったんですか、アンコちゃんかと思ってました」


 そんなことを話しながら歩いていると、一人また一人とハッチーの周囲に張りついていた女の子が去っていき、すぐに私とハッチーと弓矢ちゃんの三人だけになる。

 いくら田舎とはいえどもまだ小学生なので、だいたいの子の家は学校の近くにあるためすぐにお別れになってしまうのだ。えらい山奥に建っている祓い屋のお屋敷から通う弓矢ちゃんは例外である。


「それにしても、ハッチーはいいですよね、人気者で。やっぱりハッチーは私よりも見た目が幼いから、小学生からしても接しやすいんでしょうか?」


「そうはゆーても、わちって多分じゃけど千歳とか越えておるし、年寄りなんじゃがの。まあ、お婆ちゃんも小学生からしたら接しやすい相手かもしれんけど」


「実は私、学校が始まってもう二週間も経つのに、なんかクラスで浮いちゃってて、まだ友達が一人もできないんです……休み時間とかお昼もみんなはお喋りなんかをしてたりするんですけど、私だけそういう相手がいなくて」


「まあ、ヤマコは妖怪じゃからな。なかなか難しいじゃろ、価値観とかも違うじゃろうし」


「今は私を妖怪扱いしないでください! 本気で悩んでるんですから、ちゃんとアドバイスとかしてほしいです!」


「いや、ええ……そんなこと言われてもじゃな、じゃってヤマコって空気読めんし、実際に価値観が狂っとるし、やっぱり人の中に入ってくのは難しいじゃろ。自分でわかんないのじゃから変わりようもないし、受け入れてくれる器を持った人間がクラスにいることを願うしかないじゃろ」


 なんか物凄い言われようだけど、そんなに私っておかしいだろうか?

 まあ、ハッチーは私のことを妖怪だと思い込んでいるからな……なんかそういった先入観があるせいだろう、きっと。


「はあ……やっぱり私が美人すぎて、近づきにくいんでしょうか? 弓矢ちゃんのお友達の子たちもそんな感じでしたし」


「さっきの光景が、おぬしの目にはそんな風に見えておったのじゃな……わちも妖怪じゃけど、それでももうちょっと色々とわかるんじゃけどな。なんじゃろうな、あえて助言するとしたらヤマコはズレとるから、人間が集まる学校ではあんまり自分から提案とかはせん方がよいじゃろうな。また、さっきみたいな空気になるじゃろうから」


「ああ、そうですよね。自分から提案しておいて、肝心の主役の私の目線にモザイクが入っちゃうなんて……みんな凄くがっかりしちゃってて、期待していたのに一緒に写真が撮れなくて拗ねちゃってる子たちもいましたし、かわいそうなことをしちゃいました」


 ハッチーが弓矢ちゃんの方を見て、首を横に振った。

 そして、私に向かって言う。


「なんというか、体は軟弱じゃし小食じゃけど、ヤマコはヤマコで十二分に力のあるあやかしとして振る舞えとるってことじゃな。わち、ついていけんもん」


 いったい、なんのことだろうか?

 人間関係の相談をしたら、妖怪として評価されてしまった。意味がわからないぞ。

 まあでも、妖怪に相談したのが間違いだったかもしれない。あとでまたアンコちゃんにでも相談してみよう。

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