そして迎えた初出勤
「よし、到着っと」
キキッとブレーキをかけて、自転車から降りる。
ちゃんと表札に
まず
「自転車って、どこに置いとけばいいんだろう?」
きっとお仕事関係のお客さんなんかも来るのだろうから、目立つ場所に置いて生活感を
悩んでいると、ガラガラガラッと音を立てて玄関の引き戸が開かれて、頭から狐みたいな耳を生やした蜂蜜色のおかっぱ頭の少女が顔を覗かせる。
「おお、よく来たのう後輩!」
「あっ、どうもです、ヤマコっていいます。よろしくお願いします!」
とりあえず挨拶を交わすと、狐耳少女が振り返って大声で「アンコ! ヤマコが来たぞー!」と屋敷の中に呼びかけた。
そして再びこちらに向き直ると、サイズの合わない花柄のサンダルでぱたぱたと駆け寄ってくる。白地に黄色いひよこ柄の女児みがあふれるパーカーワンピースを着ており、小柄で幼い顔立ちをしていることも相まってとてもかわいらしい。
「わちは
パーカーワンピースの裾からはみでた太い狐尻尾をブンブンと左右に振りながら、ハチミツトーちゃんが私の背中をバチンバチンと結構強めに叩いてくる。
私という可愛い後輩ができたことがよほど嬉しいようだ。私も喜んでもらえて嬉しい。
「えっとさっそく質問なんですけど、自転車ってどこに停めたらいいですか?」
「自転車なんて適当にそこらへんに置いておけばよかろう! そんなことよりも、ヤマコ! わちに叩かれてびくともせんとは、おぬし超強いのう!?」
「はい? えと、なんの話ですか?」
「これでもわちは、大昔は神とも崇められたこともある
「ええっ、今そんな危険なことをしてたんですか!? あ、危ないじゃないですか!」
「そうは言うても、後輩の力量は確かめておかねばな! じゃが、わちの完敗じゃ! まるで、わちの妖力がすべて打ち消されてしまっているかのようじゃった! ちと悔しいが、おぬしとわちとではそれだけ力の差があるということじゃな!」
うーむ、それも例の
しかし、自然と妖力を打ち消せていたから助かったが、もしもそれができていなかったらどうなっていたんだろうな……頑丈な妖怪ならば吹っ飛ぶなり埋まるなりしても命に別状はないのかもしれないが、私の場合は実際にはただの人間なわけだし、普通に死んでいたかもしれない。
そう考えるとこの狐っ子、結構ヤバいやつなんじゃないか? 凄くかわいいけど、油断しないようにしないとな。
「その身に宿る妖力も、長く生きてきたわちがこれまでに見たこともないほど強大じゃし、正直憧れるのう! 気に入ったぞ、ヤマコ!」
「ええっと……どうもありがとうございます?」
「あ、蜂蜜燈ってちょっと長いじゃろ!? 呼びづらかったら気軽にハッチーと呼んでくれて構わんからな!? おぬしは超強いからのう、特別じゃぞ!」
「ハッチー」
「うむ! なんじゃ!?」
「その、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら私の周りをぐるぐると回る動きが凄くかわいいです! さすが私の先輩!」
「そうか! 無意識じゃったが、喜んでもらえたのならばわちも嬉しい!」
そう言って、にこにこ顔で私の周りを飛び跳ね続けてくれるハッチー先輩。
な、なんてかわいいんだろう!
初対面で妖力全力ぶっこめスラップをかましてくるあたり危険な妖怪であることは疑いようもないが、すごくかわいいことも確かだ!
なんか見ていると、かわいいからなんでもいいやという気持ちになってくるぞ!
あとで尻尾とか触らせてもらえないかな?
そんなことを考えていると、開いたままになっていた玄関引き戸から、今度は見た目からして私よりも年上っぽい妙齢の女の人が姿を見せる。縁なしの細いメガネがなんだか賢そうな印象の、ワンレンボブの黒髪の美人だ。背が高くてすらっとした体型に、パンツスーツがよく似合っている。
「あ、その緑の目――当家の式神になられたヤマコさんですね! 私、
「わちはアンコと呼んでおるぞ! そいつは大の
「ちょ、恥ずかしいんでそんなこと外で大きな声で言わないでください! たしかに餡子は好きですけど」
「かっかっか! ま、そうじゃな、とにかく屋敷に上がるがよいヤマコ! ゆくぞ!」
「あっ、自転車は屋敷の裏手に停めておきますから、どうぞお上がりください」
杏子a.k.aアンコが自転車を預かってくれて、私はハッチーに手を引かれて屋敷の中に入る。ハッチーのおててスベスベしてて温かいな。
やたらと広い玄関で靴を脱ぎ、やたらと太くて長い板張りの廊下をハッチーと手を繋いだまま歩く。
「それにしても、まさか初登校よりも先に初出勤することになるなんて思ってもみませんでした」
「なんじゃヤマコ、おぬしは学生ごっこをしておるのか? 変わったあやかしじゃのう!」
「あ! ええっと……!?」
しまった、学校のことは内緒にしておいた方がよかっただろうか?
いやでも、どっちみちいつかはバレるはずだ。それにオープンにしてしまえば制服のまま出勤できるし、一度祖父の家に寄って着替えてからとなると遠回りになるからだいぶ楽になる。
よその祓い屋さんとか、よその妖怪とかに個人情報を知られるのは嫌だけど、冷光家の人たちには隠し通せない気がするし構わないだろう。ハッチーが言うように、私のことは人間社会好きの少し変わった妖怪と思っておいてもらおう。
「えーとですね、実は四月から近所の高校に通う予定なんです、人間のふりをして」
「ほお、凄いのう! 最近生まれたばかりの若いあやかしならばともかく、おぬしのような
凄くきらきらとした目で見上げられて、なんだか気分がよくなってしまう。
ヤバいな、調子に乗ってしまいそうだぞ。
「そ、そうですか? そこまで凄いことじゃないと思いますけど……」
「いや、凄いことじゃぞ! たいていの古き者は変化を嫌うものじゃが、ヤマコは違うのじゃな!」
「ま、まあ? 私ほどにもなると、どんどん新しいことに挑戦していないと逆に落ち着かない、みたいなところがありますかね」
「かっ――かっこいいことを言うのう! それがおぬしの強さの秘訣なのか、それとも強いからこその余裕なのか、どっちなんじゃろうか!?」
「さて、どっちでしょうか? でも、私って生まれつきこう、なんていいますか、先見性? みたいなものを備えていたかもしれません。実際、三年後からは月収100万円が確定しているわけですし?」
「おおっ……ケチの杠葉を相手にそんな太い契約を結んだのか! というか、式神契約で給金を受け取るなんて話は聞いたこともないぞ! さすがはヤマコ、革新的じゃなー!」
「むしろ、腕やら足なんてもらったところで割に合いませんよ、現実的に考えて。契約期間が数十年として、最初にもらった腕や足だけでそんなに食いつなげるわけがないじゃないですか?」
「わちは、最初に目玉をもらったのじゃ……きれいな目玉じゃったからその場では満足したんじゃが、ヤマコの言う通りじゃ! かなりの霊力を秘めておったし美味じゃったが、以降はずっと無給で働いておる! しかもじゃな、無給なのにもかかわらず、杠葉のやつは菓子も
「なるほど。確かにひどい話ですが、仕方のないことでもあります。この世は弱肉強食、やっぱり賢くないとなかなか自分に有利な契約って結べませんからね。でも大丈夫です、私がお菓子くらいいつでも買ってさしあげますとも。何せ、それくらい簡単にできる給金を約束されていますし?」
「ヤ、ヤマコ……! クッソ強いのにクッソ良いやつじゃのうおぬしー! おぬしほどの立派なあやかしが後輩になるのじゃから、わちももっとがんばらないといけないのう! おっと、この部屋じゃぞ!」
長い廊下の半ばで足を止めたハッチーが、バシンと音を鳴らして勢いよく
「杠葉、ヤマコを連れてきたぞ!」
「そういった報告は襖を開ける前に部屋の外でしろといつも言っているだろう? 俺が許可してから襖を開けろ、順序が逆だ」
「こやつ、めちゃくちゃ強いぞ! 杠葉の言っていた通り、これまでに見たことがないほどバカでかい妖力を持っておる! なにせ、わちの全力ビンタがまったく効かなかったんじゃぞ!」
「お前はより強く、より破壊的なあやかしに惹かれる節があるからな。おそらくヤマコを気に入るだろうとは思っていた。とにかくそこで騒いでいないで、ヤマコを連れて入ってこい」
「うむ!」
ハッチーに手を引かれて、こげ茶色の一枚板の座卓を中心に紫色の座布団が数枚並べられただけの、
紺色の着流しの上に茶色の
「まずは座れ」
「えっと、失礼します」
無難だろうと思い、座卓を挟んで杠葉さんの対面に腰を下ろす。
繋いでいた手は離したが、ハッチーもそのまま私の隣に座った。
「休日に設定した月曜日と火曜日を除いて、今日から毎日この屋敷に通ってもらうことになる。とりあえず屋敷の内部と近場の地理くらいは早いうちに把握しておいてほしいが、何か特別な依頼が入り込まない限り、基本的にはヤマコはこの屋敷に通ってきてくれて、しばらくの時間敷地内に留まっていてくれれば問題ない。約束の給金はそうだな、今月分は今日の帰りにでも渡すとして、以降は毎月
「えっ、あの、通うだけで何もしなくていいんですか? ほんとに?」
「ああ、構わない。厄介な依頼が入ったり、よその
「えっ、えっ……通うだけでお金がもらえるようになるなんて、ラッキーすぎませんか? こんなにも求められる私って、凄くすごいのでは……?」
「毎月給料を受け取っている式神はなかなかいないだろうが、仕事の内容としてはそんなものだ。うちの他の式神――蜂蜜燈も
そう言って杠葉さんがハッチーを見やると、ハッチーが座卓をベチンと両手で叩いて抗議の声を上げる。
「そんなことはないじゃろう! わちはたまに焼き芋を作ってやっておるし、バッケのやつは食器を並べたりしておるじゃろうが! というか、わちなんて杠葉が生まれる前からこの家におったし、杠葉のおしめをかえたこともあるんじゃからな! 杠葉がわちよりも背が低かった頃なんて怖い夢を見て夜中によく泣くもんじゃから、一緒に寝てやってたんじゃぞ!」
「いつの話だ。俺の記憶に残っていないような過去の話を一々するな、鬱陶しい」
ほう。恥ずかしい幼少期の話を持ち出されても表情ひとつ変えないとは、杠葉さんのポーカーフェイスはかなりのものであるようだ。
というか、ハッチーって私よりも幼い容姿なのに本当に長生きしてるんだな。
「杠葉はわちの働きを労いもせんし、菓子も
「お前には先祖が目玉をやっただろう。それに、杏子から小遣いをもらっていることは知っているぞ?」
「なっ、知っておったのか!? いつどこで見ておったのじゃ、この覗き魔め!」
「ほらほら、喧嘩はやめてくださいねー。お茶とお菓子を持ってきましたよー」
お盆を手にした餡子好きのアンコちゃんが、私が襖を閉めなかったせいで開けっ放しになっていた室内に入ってくる。その後ろから、真っ白な長い髪を揺らして、身長110センチほどの幼女――シラバッケちゃんもとてとてと小走りでやって来た。
シラバッケちゃんもハッチーとお揃いのひよこ柄のパーカーワンピースを着ているが、式神たちの衣装はアンコちゃんがコーディネートしているのだろうか? なんにせよ、かなりセンスがいいな。二人とも凄くかわいいぞ。
アンコちゃんの手により、座卓の上に緑茶の入った白い湯飲みが四つと、木製の
菓子器の中には日光
お菓子もアンコちゃんが選んでいるのかな? 誰のセンスかはわからないけど、いい仕事をしているな。
「どうもありがとうございます、いただきます!」
「はい、ごゆっくりどうぞ」
意外にも餡子が入ったお菓子を一種類しか持ってこなかったアンコちゃんが、空になったお盆を小脇に抱えて笑顔で立ち去っていく。その際に、私が閉め忘れていた襖を閉めていくのも忘れない。えらいぞ。
しかし、バッケちゃんがなぜかお菓子を食べようとせず、私の横に立って、くりっとした真っ赤な瞳で何やらじっとこちらを見つめている。
「えと、どうしたんですか? あ、そういえばまだちゃんと挨拶してませんでしたっけ。今日から杠葉さんの式神として一緒にお仕事させていただくことになりました、ヤマコです。シラバッケって呼びにくいので、バッケ先輩って呼んでもいいですか?」
そう
「バッケ先輩はお菓子食べないんですか? 急がないと、何気に杠葉さんの分のお菓子まで確保しちゃってるハッチーに全部食べられちゃいますよ?」
「ん」
バッケちゃんが小っちゃな握りこぶしを突きだしてくる。
なんだろうか? ちょっとよく意味がわからないぞ。
「んっ!」
今度はぐいっと、私の胸元にこぶしを押しつけてきた。
何か渡したいのかなとようやく思い至り、私も手のひらを差しだす。
すると、バッケちゃんが小さなおててを開いて、私の手にビン入りコーラの王冠キャップと、ラムネのビンに入っているような水色のガラス玉を落とした。
そして、相変わらず表情は薄いものの、こころなしか誇らしげな顔をしている。
でも、なんでゴミを渡されたんだろうか? 新入りのお前が捨ててこいってことかな?
「おお、よかったのうヤマコ! 宝ものを分けてもらえるなんてずいぶんと気に入られたんじゃな!」
「えっ!? あ、歓迎してくれてたんですね! ありがとうございます!」
「バッケは外に行くたびにそういったお宝感のあるキラキラしたゴ――物を集めておるんじゃ! わちには分けてくれたことないし、鬼の
ほう。角は見当たらないけど、バッケちゃんは鬼だったのか。よくは知らないけど、鬼ってすごく強そうなイメージがあるな。
それはそうとハッチー、今ゴミって言いかけなかったか? お子さまなバッケちゃん的には宝物なのに、ひどいことを言わないでほしい。
「ふふ、そうなんですね。私、愛されちゃってますねー。では、お礼にお膝に座らせてあげましょう。どんと来てください!」
パンパンと、自分の膝を叩いてアピールしてみせる。
すると、特にためらうそぶりもみせず、バッケちゃんが私の膝の上にストンと腰を下ろした。体が小さいので当たり前だが物凄く軽い。
相変わらずの無表情なので喜んでくれているのかはわからないが、とにかくかわいいので私としては大満足だ。
「まずは甘いのがいいですかね。はい、名菓
極薄の硬い皮にみっちりとこしあんが包まれた
バッケちゃんがぱくん、ぱくんと饅頭に食いつくたびに、小さな唇が私の指先に触れる。
なんだこれ? かわいすぎるぞ……。
小っちゃい女の子たちを愛でているだけでお金がもらえるなんて、冷光家って最高の職場じゃないか?
不意に、ガラガラガラッと玄関の引き戸が開かれる音が聞こえてきた。
そして、「ただいまー」と子供っぽい舌ったらずな声がして、パタパタパタと軽い足音が近づいてくる。
スッと襖を開けて現れたのは、赤いランドセルを背負ったおさげ髪の女の子――色白な肌と切れ長の目が杠葉さんにそっくりな美少女だった。式神たちとお揃いのひよこ柄のパーカーワンピースを着て、黒いタイツをはいている。
「お姉さんが新しい式神のヤマコさん? はじめまして、ユズにいの弟の冷光
杠葉さんの弟であるらしい弓矢ちゃんが、綺麗な角度でお辞儀をする。姿勢がいいな、何かスポーツでも習っているのだろうか? だとしたら弓矢なんて名前だし、やっぱり弓道かな?
って、弟?
「は……? え? ほんとに弟さんなんですか?」
「正真正銘の俺の弟だ。女の恰好をさせているのは
杠葉さんがちょっと面倒くさそうな顔をしているのは、おそらく、これまでにも同じような説明を幾度となく繰り返してきたせいなのだろう。
しかし、こんな美少女が弟とか自己紹介してきたら誰でも面食らうだろうし、説明が必要になるのも仕方がないと思うぞ。
赤いランドセルを畳の上に置いて、弓矢ちゃん改め弓矢くん――いや、やっぱり『ちゃん』だな――改めずに弓矢ちゃんが近寄ってくる。
「わ。ヤマコさんの目って、ほんとにすごい鮮やかな緑色なんだね。邪眼っていうんだっけ?」
「弓矢、ヤマコの目をあまり見るな。うちの式神になったとはいえ、ヤマコは邪悪な大妖だ。たとえヤマコに害意がなくとも、どんな影響が出るかわからない」
「そうじゃ、ユミ。わちが菓子を分けてやろう。ほれ、煎餅に饅頭もあるぞ」
「いいの? ありがと、のじゃ
「うむうむ!」
ハッチーからお菓子を受け取った弓矢ちゃんが、杠葉さんの隣に座る。声も仕草もかわいいし、どこからどう見ても女の子にしか見えない。
しかし、なんかお姉さん風を吹かしているが、ハッチーが弓矢ちゃんに分けてあげたお菓子ってそもそも杠葉さんの分だったんじゃないのか? 杠葉さんのせいだけど私なんてあからさまに危険物扱いを受けているのに、自分の取り分を減らすことなく弓矢ちゃんの好感度を上げるなんてなんだかズルイぞ。
ずずっとお茶をひとすすりして、杠葉さんが言う。
「ヤマコ。平日は勤務時間的に厳しいかもしれないが、来週から土曜日は弓矢を小学校まで迎えに行ってくれないか?」
「構いませんけど、目も合わせちゃいけないのに迎えに行くのは大丈夫なんですか?」
「弓矢は冷光の血を引いているから強い霊力を持っている。つまり、あやかしからするとご馳走に見えるわけだ。その上、うちは他家の祓い屋やら、名のある大妖やらといった連中の数々から恨みを買っているし、戦う
「ふむふむ、なるほど。弓矢ちゃんに何かしたら私が怒るだろうと、みんなが自然と思うように仕向ければいいんですね?」
つまり、外でイチャイチャしてみせればいいわけだ。
美少女風美少年と仲良くすることで世界が平和になり、人から感謝されて、お金までもらえるなんて素晴らしいな。
「ちなみにいつもはわちとアンコとで、手が空いている方がユミの送り迎えをしておる。今日はアンコが行ったが、基本的にわちのが暇じゃから普段はわちが行くことが多いかの。そもそもわちって狐じゃし、朝夕に近所を見回らないと落ち着かんタイプじゃからちょうどいいしの」
「あの、でも、弓矢ちゃんは嫌じゃないんですか? だって、そろそろ思春期ですよね? 同級生とかの目もあるのに、ハッチーみたいにかわいくて、狐の耳とか尻尾が生えてる金髪の女の子と登下校って結構つらくないですか?」
「ううん、ぜんぜん大丈夫だよ。のじゃ姉が一緒だといつも楽しいし」
「わちも最初はそんな風に心配しておったんじゃがなー。なんかわからんけどユミは友達も
「おお、うまく馴染んでるんですね。それなら私が行ってもめんどくさいことにはならなそうですし、安心しました」
「どうじゃろなー。ヤマコはわちのようにもふもふしておらんから、がっかりされてしまうかもしれん」
「でも、私もそこそこ可愛いと思いますし、年上の綺麗なお姉さんとして人気になりそうじゃないですか?」
「え……ま、まあ、ヤマコは十人並みじゃな」
「えっ、そんなにですか!? そんなにとは思っていませんでしたけど、嬉しいです、えへへ」
十人並みか。
知らない言葉だけど、女の子が十人並んでいるのと同じくらいの華やかさ、女の子十人分のかわいさが備わっているというような意味だろう。ニュアンス的にたぶんそんな感じだと思う。
さすがに褒めすぎな気もしなくもないが、褒められて悪い気はしないぞ。
「ふふふ。すごく自信が湧いてきました。来週の土曜日、小学生たちに囲まれてちやほやされている私の姿がはっきりと想像できます」
「あ、そうじゃ。どうせ今日はもう、これといって説明することもあるまい? なら、わちらで屋敷の中だけでもヤマコを案内してやるとするかのう。ほれ、バッケとユミも行くぞ」
なんだか棒読みな感じでハッチーが提案して、小っちゃい子たちに囲まれた私はお屋敷の探検を始めるのだった。
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