第3話 セオドア兄さん


 セオドア兄さんは私の上にいる三人の兄の次男だ。今年で19歳になる。セオドア兄さんには可愛いお嫁さんもいる。私と同い年のタチアナさんだ。セオドア兄さんはタチアナさんのお家である侯爵家に婿入りしていて、現在騎士団の第八団の体調だ。今日は侯爵家で二人とお茶を飲むことになっている。

 あの舞踏会から一夜が明けていた。


「リオノーラ?大丈夫ですか?何だか…、」


「老けたな!」


「アナタ!」


 ああ、息ピッタリのご夫婦だこと。はい。良かったですね。あなたたちは今日も平和です。私は未だに脳内大トラブルですよ!そりゃ老けますよね????


「大丈夫ですマスわよ。セオドア兄さん夫人…」


「リオノーラ…」


「おっ、その呼び方良いな!俺の嫁!って感じすんな!」


 心配そうにしてくれるタチアナさんは私と同い年とも、セオドア兄さんの嫁とも思えないくらいできた人だ。柔らかい印象をもたらす夕日のようなオレンジの瞳に、キラキラと光るプラチナブロンドの金髪が今日も眩しい。多分、私が死ぬときに迎えに来る天使はこんな感じなのだろう。


「セオドア兄さん…私が死んだらタチアナさんも連れて行っていい?」


「馬鹿野郎!タチアナは俺にしかついてこん!」


「…それは、セオドア兄さんを消せは万事解決ってことかな????」


「バンジカイケツって何?」


「もうっ、ばか!」


 タチアナさんはプリプリ怒ってセオドア兄さんにバンジカイケツの意味を説いている。この夫婦幸せそうだな。うん、もう帰ろう。


 ***


 明るい白銀色の髪、あれはとても珍しい色だ。この大陸をつくった神として伝えられるテレサと同じ色らしい。その髪に良く似合う薄い紫の瞳。細い腰に慌てた顔。…可愛かった。

 魔王カレンはこの世の皆を一瞬で惚れさせてしまいそうなくらい艶やかなため息をついた。


 魔王と呼ばれ、家族をも刺せる無情な存在として扱われる自分には似合わない感情かも知れない。ただただ可愛いのだ。次は名前を知りたい。いつか笑った顔も泣いた顔も見てみたいものだ。


「可愛い…。」


 ハッ、僕は頭がおかしいのでは!!こんなことをしている場合ではない。しごとをせねば…


 ***


「お前、まだいいの?今日は夜会ないのか?」


「ない。行かない。」


「それは…あるのではないですか?」


 タチアナさんが心配そうにしている。


「二人のところに居たいのです…」


「まあ…」


「あ?」


 セオドア兄さんはどうでもいいとしてタチアナさんはやっぱり天使だ。


「セオドア兄さん、私騎士になろうかな…。」


「は?無理だ。やめとけ。」


「良い線いってると思うんだけど。」


「知るかよ。」


 私の逃げ道は素っ気なくてアホなセオドア兄さんに却下された。

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