第4話 ブキッ


 セオドア兄さんのところで帰りたくないと駄々をこねまくったが不毛だった。私はため息をついた。


「リオノーラ、まさかだが王城の夜会で何かしたのではないだろうな?」


「ふぁい?!?!ま、まさか!」


「…ならよいのだが。今までは嫌な顔をすることはあったがストライキすることは無かっただろう?何かあったのかと…。」


 お父様…鋭い!実はあなたの娘、魔王にお尻の枝を取らせた痴女なのです。木の枝令嬢って…!


「実は魔王様を見てからそこらの殿方が泥だんごにしか見えないのです。」


「ほ、惚れたのか…?!魔王様に?!?!」


「違います。これは魔王様の弊害です。」


「お、おぉ…そうか。まあ、切り替えろ!」


「はい。」


 あほらしい会話と共に馬車は走り続けた。地獄へ。


 ***


「足元に気をつけなさい。」


「はーい…うわっ?!」


 ーブキッ!!!


「いったぁ!」


 待って、痛い痛い痛い!これ踊れる?!ブキッて言ったよ?ブキッて…うおおおおお…いってえええええ~…


「私は気をつけろといったが?」


 お父様がドヤ顔で言うのでついうっかり足を踏んでしまった。


「お父様何かおっしゃいましたか?」


「いたたたた!娘よ!父の足は踏むものではないぞ!」


「ごめんあそばせ♡」


 お父様のエスコートで中に入ると相も変わらずキラッキラのゴッテゴテの金持ち自慢大広間がある。この家はずっとそうだ。王城の大広間はキラキラはキラキラだがデザイン性に富んだキラキラだ。ここはしつこい。奥様も旦那様もプライドが高く、見栄っ張りだと有名だ。


 今日も壁の花になるべくもたれかかる。バルコニーはもうトラウマなので行かない。もっと目立たないところに移動しよう。足が死ぬほど痛いのにさも痛くないフリをして歩く。いってえええええ!!!


「お嬢さん、私と踊っては頂けないでしょうか?」


「あ…、」


 この人は公爵家の次期跡取りの…なんちゃらかんちゃらネイサン様だ。


「え、えぇ…。」


 断るわけにはいかない私は彼の手をと…ろうとした。


「いいえ、僕と踊ってください。」


 茶髪で緑の眼をした男性が横から手を差し出してきた。

 ん???この声…どっかで…んんんんんんん???????


「あれ、私が目に入っていないようですね。私が先ですよ?後にしてください。」


「いいや、ファーストダンスは後ではできない。譲らない。」


「あの…、万が一違ったらごめんなさい。踊っても名前は教えませんよ?」


 雷が落ちたように衝撃を受けたその男性はすっかりしょげた顔をして心寂しように私に尋ねた。


「何故です。私は約束しました。」


「一方的にでしょう。」


 一介の令嬢が国の王にピシャリと言い放つ姿はロマンスの欠片も感じられない大陸始まって以来の重たい瞬間だった。

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