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 さて、その晩、信子はさっそくウロマからもらった角砂糖を使って夕食を作った。メニューは肉じゃがだ。定番のお袋の味だ。直春の好物でもあった。


 家のキッチンでそれを作ると、ご飯や味噌汁と一緒にお盆に載せ、すぐに二階の直春の部屋に持って行った。信子の家は二階建ての一軒家で、かなりの広さだった。彼女は十八年前に夫に他界されて以来、息子と二人暮らしだったが、元々資産家だったのに加え、夫の保険金も入ったので、母と子が二人きりで生活するには何の不自由もなかった。


 直春の部屋の前に行くと、昼食に出した料理の皿が廊下に出されていた。皿は全て空だ。信子は夕食のお盆を隣に置くと、それを回収した。そして、部屋の中の直春に向かって、「晩御飯、ここに置いておくわよ」と声をかけた。ややあって、部屋の中から「そういうのいちいち言うなよ。うっせーな」と、不機嫌そうな若い男の声が聞こえてきた。


 信子はそのまま一階に戻った。直春はちゃんとあの肉じゃがを食べてくれるだろうか。そして、それでちゃんと心を改めてくれるだろうか。内心、少し不安もあったが、やがてもう一度二階に行くと、空の皿が廊下に出されていた。よかった。信子は上機嫌でそれらを回収した。


 まあ、いきなり効果が現れるわけはないけれど、少しずついいほうに変わってくれればいいわよね……。


 そう思う信子であった――が、当然、ウロマの手渡したブツがそんなやさしい効果なわけはなく。

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